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目線を合わせよ。  作者: 上条晶
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悩み。

「あー…、ほんとにどうしよう…。」


家に帰ってからもずっと、私はどうやって"あの人"に謝ったらいいかを考え続けていた。


「はあ…、なんであんなことしちゃったんだ、私…。」


私は、何か悩み事があるとき、家の中を歩き回ってしまう癖がある。お母さんが仕事で家を空けている時間だったのが不幸中の幸いである。


「なんか今日、不幸ばっか重なってる気がする…。」


時間通りについたかと思えば人ごみに入らなくて掲示板見るのに手こずるし、図書室で時間をつぶそうと思ったら図書室空いてないし、人と鉢合わせそうになるし、ぶつかるし。

考えただけで嫌になってきた。


「…とにかく、どうにか謝らないと。」


あのままじゃあまりにも人としてどうかと思う。

と言っても、ぶつかった時に反射てきに顔が少し見えたくらいで、どこの誰かなんて私にはわからない。


「外から来たってことは、他クラスの人に間違えはない、よね…?」


考えた分だけわからないことが増えていくみたいで、私は1人で負のスパイラルに陥っていた。



「ただいまー。…あれ、唯?あんた、そんなところでなにしてるの?」

「あ、お母さん、お帰り…。」


気づいたら、壁にかかっている時計は18時過ぎを指していた。


「お腹でも空いた?」

「いや、そーでもない…。なんで…?」

「台所でうずくまってたら、お腹空いてるのかなって思うじゃない。」


変な子ね、とお母さんは苦笑いした。


「どうだった?高校初日。」

「どうもこうも…。なんか、疲れた。」

「唯は学校から帰ってくると、いつもそういうものね。」

「…ごめん。」


私は謝るしかなかった。

お母さんに心配かけてるのもわかっているのに、ついこんなことを言ってしまう自分が嫌だった。


「なんで謝るのよ。疲れたなら疲れたって、ちゃんとお母さんに言って?」

「…大丈夫、なんでもないよ。」

「ほら、すぐ無理するんだから。」


お母さんは、一つため息をついて続けた。


「唯はいっつもはすごい凛としてるのに、何か少し引っかかるとすぐもろくなるから。でも、そこが唯のいいところなんだし、ちゃんとお母さんに言ってよ。」


私がいじめられて、それでも気丈に振る舞って、部屋にこもって1人で泣いてた時も

馴染めない自分が嫌になって悩んでた時も

今まで16年ずっと、何回この会話をしただろう。


「お母さんは昔からそうやって、私の話きいてくれるよね。」

「そりゃあお母さんですもの。唯の話をきくために家に帰ってきてるようなもんなのよ。」

「…そっか。私、いっつも同じような話しかしないのに。」

「それでも、お母さんに話してくれるってことが大事なの。」


私とお母さんの2人暮らしになってから、お母さんは朝から外が暗くなるまで毎日毎日働いてくれていて

なんにもできない自分が、何度も嫌になった。


「それで、今日は何があって疲れたの?」

「んー…。」

「言いにくいことなら無理に言えとは言わないけど…。」


珍しく黙っている私に驚いたのか、お母さんは控えめにそういった。


「…もう少し、私で考えてみる。…いつもありがとね、お母さん。」

「そう?またなんかあったらちゃんと話すのよ?」


いつまで私はお母さんに頼ってるつもりなんだ。

これ以上心配かけられない。

今回のことだって、私がその場で自然に謝れたらよかったことなのに。


私は、明日絶対”あの人”を探して謝るんだ、そう思って

その日の夜は眠りについた。


「…どうしよう、全然わからない…。」


次の日の朝、私は一組のほうから順に、全ての教室の中をさりげなく覗いてから自分の教室に戻った。

他クラスの生徒からの、この人何してるんだろう、の視線が地味に刺さってつらかっただけで

探している”あの人”は見つからなかった。


「…私のクラスに仲のいい人がいるんなら、またクラスに来たりしないかな…。」


いつもなら伏せて寝ているふりをしているところを、今日は本を読んでいるふりをしてただひたすらドアのほうを見つめいた。

誰かわからない以上、謝るどころか声すらかけられないからだ。


そして午前中が終わり、ちょうどお昼になった時。

”あの人”は急に現れた。

本当にあっているかはわからないけれど、私はその声に聞き覚えがあった。


「あっ、律くん柚ちゃんいらっしゃーい。」

「ここは真未んちかよ笑」

「えー?まあそんな感じぃ?」

「いいから昼飯食おーぜ。司、お前昼飯は?」

「あー、売店行かねーとねえや。」

「んじゃ行くか。」


このクラスに入ってきたとき圧倒的に1番目立っていた男子と女子。

付き合っているのかと思えば、本人たちが言うに幼馴染だということを噂できいた。


「…どうしよう。誰かわかったけど、話しかけられるわけない…。」


あんな目立っている人達の友達なんて、おんなじ感じに決まっている。

私とは生まれた時から世界が違う、そんな人達。


「はぁ…。もー…、どうしよう。」


いつか謝るチャンスがくればいいな、そんな軽い気持ちでその日から私はその人のことを目で追うようになった。

そんなことをしていたって仕方がないことくらいわかっているのに、今の私にはそれくらいのことしかできないのだ。


そんな風に過ごして約1週間くらいが経った金曜日。

その日の教室は、朝から少しざわざわしていた。


「ねえ司くんきいたぁ?律くん、どっかの女子にストーカーされてるかもしれないんだってぇ。」

「あーそれ朝きいた。ここ1週間くらい、なんかいっつも見られてる感じするんだってな。」

「そうそうー。モテる男子くんは大変だねぇ。」


教室がざわざわしていたのはそれのせいか。

その話をきいて、私は一瞬ドキッとした。

この1週間、姿を見つけるたびに謝るタイミングを伺っていた私は、いつも”あの人”のことを気にして見ていたからだ。


「…これじゃあ謝るどころかさらに迷惑かけてるって…。」


そう自覚した途端、教室にすら居づらくなって

私は思わず荷物も持たずに教室から飛び出した。


「何やってんだ、私…。」


帰るにしても荷物持ってないから意味ないし、かといって今から教室に戻るのも気が引ける。

スマホと財布持ってるから、何とかなると言えばなるけれど席には鞄置いたままだしあれだとまるで学校に来たくせに失踪してしまった人みたいだ。


「…失踪。間違ってない、か。」


自分で考えておいて、それが妙にしっくりきていっそ失踪してしまったことにしてしまおうかとも思った。

まぁもちろん、そんなこと考えるばかりでできるわけもなく

私はそのままおとなしく保健室に直行した。

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