anyone side
「…なんだ?あの女…。」
「あ、律。どーかしたか?」
「あー、いや、今ぶつかった女…。なんか逃げるように走っていったから、俺なんかしたかなと思って。」
「律くんの顔が怖かったんじゃないー?」
「うっせーよ。」
俺が教室に入ったすぐ後から、柚が追いついてきた。
「ちょっと律、おんなじとこ行くんだから置いてくことないじゃん。」
「いや、どーせ来ると思って。」
「女の子置いて来るとかさいてぇー。」
「うっせーぞ、真未。」
きゃー、と声をあげながら真未は司の後ろに隠れた。
「くっつくなよ。」
「いーじゃん別にぃ。」
「はいはい。」
はやく帰ろ、と柚が歩き出して俺はその後ろに続いた。司と真未の関係は相変わらずで、はたから見ればカップルにも見えるかもしれないが、実態はただの兄妹ってところだ。
「ね、柚ちゃん、最近さ、この辺においしーって噂のクレープ屋さんできたんだってぇー。一緒に行こ?」
「真未ってほんとに甘いもん好きよね。」
「いいじゃんー、美味しいんだもん。」
「真未自体も甘ったるいからそれ以上糖分摂取しなくてもいいと思うけど笑」
柚が言うことがあまりにも当てはまりすぎて、俺と司は笑いを堪えきれなかった。
「ちょ、なんでそんなに笑うのー?」
「いや、なんでもねぇ。」
「なんでもないって顔してないじゃんー。ねえ、司くんー?」
「なんでもねえって笑クレープ、今度食いに連れてってやるから。」
「ほんと?さっすが司くん、大好き笑」
真未はそう言って、また司の腕にしがみついた。
司も司で、なんだかんだ振り払わないのを見る限り仲がいいのは確かなんだろう。
「律?なに寂しそうな顔してんの?」
「はぁ?してねーよ。」
「…もしかしてあんたもやってほしいの?」
「……は?」
あれ、と柚は前を歩く真未を指差した。
「あほか、んなこと言ってねーわ。」
「そう?どーしてもって言うならあたしがやってあげてもいーけど?」
「遠慮しておく。」
俺が言うと、それはこっちのセリフだわ、と柚は吐き捨てるように言った。俺とこいつの関係は、とても仲がいいとは言えなくて、それはどちかといえば腐れ縁という言葉がぴったりだった。