はじまり。
「唯、起きなさい。ゆーいー!」
「んー…。今起きるー…。」
春。
私が生まれてから、16回目の春がきた。
「ちょっと、入学式そうそう遅刻とかやめてよ?」
「平気だよ。高校近いし。」
私はこの季節が嫌いだ。
と言っても、別にいつが好きとかないけど。
「お母さん仕事で入学式行けないけど、ちゃんと学校行くのよ?」
「わかってるよ、大丈夫。」
私がまだ小さい頃に、お母さんとお父さんは離婚して。私はお父さんの顔さえ覚えていない。
「それじゃあ、行ってきます。」
安藤唯16回目の春。
今年も1年、何事もなく終わりますように。
外に出たら、まずイヤフォンを耳につけて外の音をシャットアウトする。そんでもって視線は斜め下。
見たくないものを見ないように、ききたくないものをきこえないように、と思っていたらこのスタイルが当たり前になってしまっていた。
普通なら、中学から高校に上がるときに高校デビューとかあるんだろうけど、私はそんなことしたいとも思わなかった。どうせ拒絶されるんなら、はやいほうがいい。
「はぁ、着いちゃった。」
門を入ると、もうすでに人ざかりができていて楽しそうな人の声がイヤフォンから流れる音楽越しにきこえた。
「…とりあえず、クラスだけ確認すればいっか。」
掲示板の前の人ごみが落ち着くまで待っていたら、早めにきたつもりがぎりぎりになってしまった。
こーゆうとき、自分のこの性格が少しだけ憎らしく思ってしまう。
「1年…3組、1番。」
苗字があ行だから、大体出席番号は1番。
そうじゃなくても3番以内には基本入っている。
全然嬉しくないけど。
校舎内にはいって、4階まで階段を上る。
教室に着くと、黒板にでかでかと体育館入り口に集合、と書いてあった。
「……行きたくない。」
教室には誰もいないこの状況から考えると、もうみんな集合しているんだろう。
それを考えると、余計行きたくなくなった。
出席を1人ずつ確認するわけじゃないだろうし、今行ったら余計目立つ。
私は、行かなくてもいいと思える理由を自分の中でつくって、体育館とは反対方向に廊下を歩いた。
「あー、遅刻だよちょっとー。」
「律が起きなかったからしょーがないっしょ。」
「うっせ。先行けばよかっただろ。」
階段の方から、そんな会話がきこえてきて、一瞬逃げそうになった。けど、すでに教室を出てしまっていたし、逃げ場はなかった。
「……知らん顔すればいいのよ。」
いつもの通り、下を向いてその集団とすれ違った。
キラキラした女の子が2人に、同じくキラキラした男の子が2人。
それぞれタイプは違うのに、私とは次元が違う人達だということがすぐにわかった。
私もどこがで変わっていたら、あんな風になれただろうか。いや、ありえない。
これまでなんどもそう思っては否定して、行きてきたのだから。
「……図書室なら、人いないかな…。」
私はなるべく早足で、人の気配に注意しながら校舎の中を歩いた。
初めてはいった校舎にもかかわらず、迷わず図書室まで来れたことが不幸中の幸いだと思った。
「え、嘘…。」
ドアをスライドしようとすると、がちゃ、と鈍い音がして、私は気が抜けたようにドアの前に座り込んだ。