94.ホージュ熱林に入ってみました。
目の前に広がるのはぼうぼうと生い茂る植物、そして木々。
今までの植物と比べると明らかに大きく、そして迫力がある。
自然の力強さを嫌でも感じさせられるな。
植物の生態系もだいぶ違うようだ。
例えばこの植物。
フワンネツゴウ草
フワン大陸の熱帯に生息する植物。
高温と湿気が必要なため、熱帯でしか見ることはない。
だが生息地ではとても力強く生え、中には二メートルを越すものもある。
こんな植物、今まで見たことないもんな。
そういう熱帯限定みたいな植物が数多く生い茂っていて、いつも見るような植物はあまり見かけない。
多分暑い所限定で生息する生命力の強い植物が集まっているんだろう。
だからそういう場所ではいつもみかけるような植物は生存競争に負けてしまい、生息もしていないのかもしれない。
だけど一つだけ例外がある。
フワンタクサ草
フワン大陸にありふれた植物。
生命力が高いうえ、毒を持つため食用とする者が少ない。
それ故に天敵が少なく、そこら中に生えている。
調合の材料としてよく使用される。
そう、俺にとっての万能植物ことフワンタクサ草だ。
本当にどこにでも生えているんだな、この草。
気候も関係なしかよ。
俺にとってはとてもありがたいことなんだけどさ。
そのおかげでこの地でも問題なく過ごせそうだしな。
『私がお送りできるのはここまでです。すいません』
『いや、すごい助かったよ、ありがとう』
『いえいえ、私こそ助かりましたから、お互い様です。あと一言アドバイスをするとしたら、この辺りには住処を作らない方が良いということですね』
『川が近くて土地がぬかるんでいるからか?』
『それもありますが、何より例の魔物の気配が近い。できるだけ関わらない方がいいと思うんです』
『そうなのか、分かった。気を付けるよ』
こうして俺達は川の龍と別れることになった。
とても親切で感じの良い龍だったよな。
リーバンと出会ったターニャが魔物を信じたくなる気持ちも少し分かった気がするわ。
「本当、親切な龍さんだったね! カンガ、いつの間に仲良くなったの?」
『仲良くというか、俺が困っているときに助けてもらったんだ』
「困っているときって、どんなことで困っていたの?」
『ああ、ちょっと魔物殺しに追いかけられてな。みんなは襲われたりしなかったのか?』
ケロマ達はみんな首を横に振っている。
どうやら追いかけられたのは俺だけだったらしい。
二次被害みたいなものがなくて良かったな。
みんなは魔物殺しとすれ違っていたのかもしれないが、リーバンの魔法が効いていて大丈夫だったのかもしれない。
「魔物殺し……そうなんだ。大変だったんだね、カンガ」
『そうだな……そういえばそれにしてもどうしてみんなは俺を一人置いて町に行ってしまったんだ?』
ギクッ!? っという反応を一斉にする三人。
みんな俺と視線を合わせてくれない。
……もう怒らないからさ、素直に理由を言ってくれよ、な?
しばらく沈黙が続く中、みんなそれぞれポツリと話し始めた。
『食べ物に釣られた、すまない』
『つい槍の職人が気になってな……スマン』
『みんな乗り気になってくれて嬉しくなっちゃって……ごめん』
まあそんな所だとは思ったよ。
本当あの時は何が起きたか分からなかったわ。
もう少し周りを見て行動しような。
適当にみんなに注意をしてから、俺達は熱林を進むことにした。
熱林を歩く俺達。
だが、地面には背丈の高い植物が生い茂り、行く手を邪魔され、なかなか思うように進めない。
それに気温の高さとねっとりとした湿気が不快で気分が悪い。
うーん、早くお風呂に入りたいな。
住処を作ったら真っ先に浴室を作ることにしようか。
熱林には植物だけでなく魔物も多数生息しているようだ。
至る所から魔物の気配らしきものを感じる。
まあほとんどは俺達の問題にならないような強さの魔物しかいないので問題にはならないんだが。
不快さに我慢しながらも歩みを進める。
すると行く先に何やら気配を感じた。
「みんな、前方にちょっと強力な魔物がいるわよ。魔物は一体だけで、周りに仲間らしきものはいないみたい」
さすがはケロマ。
【観察】のレベルが最大なだけあって、状況の把握が早い。
俺はまだ【観察】のレベルはそれほど高くないからな。
それでも使えるだけ全然便利なんだが。
そのまま様子を見てみると、前方にいる魔物の姿を視認することができた。
ちょっと【観察】をかけてみよう。
フワンアードラーlv37
HP 422/422
MP 102/102
攻撃力 301
防御力 255
魔法攻撃力 179
魔法防御力 191
素早さ 498
スキル
俊敏、飛翔、威厳、風魔法
大型の鳥、いや鷲か。
鳥だけあって、素早さが高いらしい。
結構ステータスが高いから注意しないとな。
相手は視力が良いらしく、もう俺達の事に気が付いているようだ。
今にも襲い掛かろうと身構えている様子が何となく見える。
「みんな、心の準備はいい? 戦いは避けられそうになさそうだわ」
俺達は黙ってうなづく。
というかケロマ、いつの間にかみんなをとりまとめるようになったんだな。
俺が一緒にいない間に、ブルールやグリザーと仲良くなったのだろうか?
まあ別に構わないが。
ザッ!
その音がした瞬間、相手の鷲は俺の目の前に迫っていた!?
速い。
速すぎる。
だが、俺の目と鼻の先位まで迫った所で鷲は急停止した。
いや、その場で固まって動かなくなった……?
翼を広げたまま、宙に浮いたまま、鷲は全く身動きが取れなくなってしまっているようだ。
何が起きているんだ……?
「みんな、チャンスよ! 今のうちに一斉攻撃しましょう!」
ケロマが鷲に向かって手をかざすようなポーズをしている。
もしかして、鷲が急に止まったのはケロマの仕業なのか?
一体どんな方法を使ったんだ?
まあ後で聞いてみるか。
俺とブルールとグリザーは鷲に向かって一斉に攻撃をした。
俺は【加工】による壁攻撃を。
ブルールは尖った爪による攻撃を。
グリザーは水魔法による攻撃を鷲に加えた。
一斉に攻撃を受け続けた鷲は為す術無く、動きだすことなく力尽きたのだった。
{ フワンアードラーを討伐しました。 }
{ 経験値2000を入手しました。 }
{ レベル21がに上がりました。 }
お、レベルアップしたな。
相手のレベルが高い分、得られる経験値も多いみたいだ。
ただ見習いゴブリンライダーのときに比べるとレベルの上がりが悪いな。
上位種になるとレベルアップに必要な経験値が多くなるのかもしれない。。
さて、せっかくレベルが上がったことだし、現在のステータスチェックっと。
カンガ【ゴブリンライダー】lv21
HP 136/136
MP 55/ 55
攻撃力 119(+530)
防御力 115(+720)
魔法攻撃力 60
魔法防御力 57(+720)
素早さ 112(+530)
スキル
観察、考察、隠密、猛毒耐性、暗視、耐震、恐怖耐性、採掘、器用、根性、調合、加工、高速加工、細工、束縛耐性、合成、料理、念力、水操作、浄化魔法、念話、水魔法、水流操作、連携、援護
特殊スキル
採掘の極地、調合の極地、加工の極地、細工の極地、料理の境地、合成の極意、職人の神、超能力者、神速職人、命名者、水を統べる者
おっ、素のステータスで100を超えたものがちらほらと出てきたな!
HPも100を超えたし、良い調子だ。
まあ先程の鷲と比べると全体的にステータスが貧弱な感じは否めないが……
その辺りはやはり俺がゴブリンだからなんだろうな。
種族としての差というやつか。
そこはもうどうしようもないから、諦めるしかないんだが。
「みんな、せっかく勝利の余韻に浸っている所に悪いんだけど、またお客さんが来たみたいよ」
ケロマが見ている方に振り向くと、そこには巨大な猿がこちらをにらんでいる様子が見えた。




