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ゴブリン、頑張って生きる。  作者: はちみやなつき
Ⅲ 引越し、そして進化
78/222

78.疑問に思ったことを色々と聞いてみました。

「会えた……ついに、会えたわ! 私の運命の人に!」



 そう言って人間は俺に抱き付こうとする。


 ええっ!?

 何でそうなるんだよ!?

 訳が分からないんですけど!?


 不意をつかれた俺はとっさに人間を避ける。



「な、なんで避けるのよ!?」

「そ、そりゃあ初対面の奴にいきなり抱き付かれるなんて誰でもビビるだろ!?」

「なんでよ!? こんな美少女に抱き付かれるなんて、誰でも嬉しいはずでしょ!?」



 た、確かに見た目は美人かもしれないけどさ……

 自分の事を美少女という美少女なんて普通いるか?

 なんかすごく残念臭がするんだが……



「と、とにかく、これで私が全国に手紙をばら撒いた苦労が報われたのね。本当、長かったわ……」



 そう言って感慨にふける人間。

 そう思うほどコイツって長い間手紙をばらまき続けたのか。

 どんだけ暇人なんだよ。


 というかコイツ、もしかしてあの瓶に入っていた手紙を書いた出会い厨か?

 手紙の内容の雰囲気とコイツってなんか合うしさ。

 あの手紙、そういえば日本語で書かれていたもんな。

 ただ出会いを求めていたのかと思いきや、日本語が分かる人を探していたというのか。

 だからわざと日本語で書いていたんだな。

 意外と考えているもんだ。


 まあそれにしたって何の変哲もない地面に瓶を埋めるのはどうかと思うけどな。

 普通あんな所に埋めても誰も気づかないだろうからな。

 コイツの意図はやっぱりよく分からないわ。



「苦労が報われたってお前……一体俺に何を期待しているんだよ。俺、ただのゴブリンだぞ?」

「あなたがゴブリンでも人間でも関係ないわ! 確かに今のあなたはゴブリンかもしれない。でも以前は日本人だったんでしょ? ポテチの事を知っていたようだし。私、ただそういう話ができる相手が欲しかったの! だから種族なんて関係ない!」

「はぁ……そうですか……」



 興奮冷めやらぬ人間。

 コイツ、一体どんだけ話に飢えていたんだよ?

 まさかコイツ、現地の言葉を話せないのか?

 だったらこんなに嬉しそうなのも無理はないか……



「お前、まさかこの世界に来てから誰とも話せていないのか?」

「え、そんなことないよ? 私、この世界の人間の言葉、分かるし」

「だったら何でそんなに嬉しそうにしているんだよ? たかがゴブリンに会えた位でさ」

「だって嬉しいじゃない!? ずっと探しても見つからなかった日本人が見つかったのよ!? 見ず知らずの異世界に来て、元の世界の人に出会うなんて、何てロマンがあるのかしら。あなたもそう思わない?」



 さっきからロマン、ロマンってうるさい奴だな。

 そういえば手紙の内容にもロマンあふれるみたいな言葉が書いてあったよな。

 どんだけロマンが好きなんだよ、コイツ。



「しかもあなたが私の埋めた手紙を探し当てて、そしてこうして出会えた。本当、奇跡だと思うの」

「まあ、確かに俺も日本語を話せる奴と出会えるとは思わなかったわ。……というか、お前、どうやってここが分かったんだよ?」

「え? そんなの簡単よ。あなたが探し当ててくれた手紙、そこにマーキング機能がついているのよ。だから手紙のある場所が分かるし、そこで私がずっと待っていたっていう訳。本当長かったわ……」



 まさか俺がリザードマンの町で寝込んでいた間ずっと待っていたというのか……

 何て執念深い奴だ。

 そんなに期間が空いたからこそ、ここまで住処を改変できたんだろうな。

 本当、迷惑な話なんだけどさ。


 それにしてもマーキング機能なんてあったのか、あの手紙に。

 全然普通の手紙にしか見えなかったんだけどな。

 意外とハイテクなんだな。

 なかなかやるもんだ。


 ……でもさ、この女の作戦って、手紙をその場で捨てられたら意味なくね?



「手紙が見つかってもその場で捨てられたら追跡できなくないか?」

「えっ、あっ……そういえばそうね。何しろ今回初めて手紙を見つかったから気づかなかったわ。まあ、結局こうして出会えたんだからいいじゃない」



 そのことを考えていなかったのか……

 全く、考えているのか考えていないのかよく分からない奴だな……。


 本当、俺達がこうして出会ったのは奇跡に近いよな。

 俺がアクアペンダントを暴走させた上、ブルールが手紙を見つけ、持ち帰らないと出会えなかったんだもんな。

 まあだからといって何かある訳でもないけど。




 そういえばさっきから変な視線を感じるな……

 あっ、そういえばブルールとグリザーは日本語が分からないから会話の内容が分からないのか。


 説明してやらないといけなさそうだな。

 


『カンガ、人間と何を話しているんだ? その人間と知り合いなのか?』



 ブルールは不審な目をして俺の事を見てくる。


 いや、知り合いなんかじゃないから。

 完全に誤解されてるよな、俺。

 まあ知らない言語で意思疎通していたら、何かしらの関係があると思うのも無理ないか。



『初対面だ。ただ、この人間が俺の前世で使っていた言語を使っているだけで……』

『前世の言葉? カンガが人間だった頃の言葉ということか?』

『そうだ。そんなことが起きるなんて俺も信じられなかったさ』

『なるほど。だからオレ達には分からない言葉で話していたんだな』



 ブルールはそれなりに納得してくれたようだった。

 グリザーもブルールとほぼ同じような反応みたいだ。

 こんな突拍子もない話を信じてくれるなんて器が広いよな、二人とも。

 まあ、俺のスキルの件といい、信じられないことが何度も起きていることも影響しているのかもしれないけどさ。



『そういえば人間は何と言っている? 拙者達にも教えてはくれんか?』

『あ、ああ。簡単にいえば、俺に会えて嬉しいんだとさ。……あ、誤解するんじゃないぞ!? 前世の言葉で話す相手が欲しかっただけらしいからな!』

『ふーん、そうなのか。いやぁ、カンガ殿にもそういう時期が……いや、何でもない』



 俺の視線に気が付き、慌てて言葉を遮るグリザー。

 うん、賢明な判断だな。



「お前からも【念話】で説明してやってくれないか? このウルフとリザードマンは俺の仲間なんだが、ちょっと俺とお前との関係で誤解されているみたいなんだ」



 そう俺は人間に話しかける。

 すると人間は首をかしげている。

 俺、何か変な事でも言ったのか?



「ゴブリンさん。私、【念話】なんて難しいスキル使えないよ?」



 ええー!?

 なんで使えないんだよ!?

 色々と不思議な奴だからてっきり【念話】も使えると思ったのに……



「【念話】なんて難しいスキル、私には使えないよ。【念話】の本は一応持っているけど、何度読もうとしても三ページほど読んだらもうギブ。あんなの絶対無理だもん」



 【念話】の本なんてあるのか。

 流石は人間の世界。

 本から学んで努力次第で様々なスキルを習得できるのかもしれないな。

 俺はそういう勉強は苦手だから、その方法じゃ一生覚えられる気はしないけど。


 そういえば、コイツの昏睡状態のステータスも何かのスキルの影響によるものなんだろうか?

 少し聞いてみるか。



「もしかしてお前のステータスがおかしいのも、何かのスキルの影響なのか?」

「ええ、そうよ。私のスキル【研究】によるものなの。【研究】のレベルが上がったらステータスが偽装できるようになったのよ」



 えっへんというような態度をする人間。

 ……凄いとは思うんだけど、何か褒めたくなくなるよな。

 何でなんだろうか。



「とにかくゴブリンさん、こんな私だけど、これからもよろしくね!」

「あ、ああ、よろしく」

「じゃあ私はこの辺りのスペースに住むから、ゴブリンさん達はあっちの方ね!」



 は?

 何言ってんだ、コイツ?

 何か俺の住む場所を決め始めたんですけど。

 ここ、俺の住処なのに……


 それにこんな一つの広い空間になっていると、自分のプライベートスペースがないじゃないか!?


 俺の住処だったこの場所はかつては複数の部屋に分かれていた。

 だが今は違う。

 仕切りという仕切りが全て取り払われていて、一つの大きな部屋になってしまっているのだ。


 これじゃあまり住処の意味がないだろ。

 こんな場所でずっといるとか御免だな。


 狭い部屋を広くするのは簡単だ。

 だって掘って拡張すればいいんだからな。

 だが、その逆は厳しいだろう。

 一回掘った所に土を継ぎ足しても強度はだいぶ落ちる。

 完全に元通りにするのはできない。


 はぁ……

 もう、この住処を諦めるしかなさそうだな。

 頑張れば元に戻す方法もあるのかもしれないが、相当労力がかかるだろう。

 正直ここの住処に固執する必要がもうないし、引っ越した方が楽そうだ。



 それにしても人間の「よろしく」という言葉は一緒に住むという意味だったのか。

 てっきり何かあった時は協力する程度の付き合いだと思って返事をしたんだが。

 一緒に住むのは正直厳しいだろ。

 この人間の女がブルールやグリザーと意思疎通がとれない以上、うまくやっていける気がしないしさ。

 ちょっと返事を訂正する必要があるな。

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