76.リザードマンに名前をつけてみました。
王と別れ、そして俺達は住処へ戻ることにした。
短剣が戻ってきた訳だし、もうこの町にとどまる理由はないからな。
湖から出て、地上へ上がる。
そして以前来た道を引き返していく。
『カンガ殿は不思議な力を使われるな。先ほどの水魔法もそうだが。魔法で空気を確保するなど考えたこともなかったぞ』
『そ、そうなのか……』
リザードマンはエラがあるから水中でも呼吸ができるんだろうが、俺はできないからな。
しかもカナヅチだから息も長くは続かないしさ。
そういう悩みがないってうらやましい限りだよ、本当。
まあスキルのおかげで俺も水中の問題を解決することができたから良かったけどさ。
『それにしてもお前の種族って強力な魔法を使うよな。リザードマンってみんなそうなのか?』
『兵士はほとんど使えるな。もちろん適正のない者もいて、その者は武力に特化したりはするが』
うん、人によって向き不向きがあるもんな。
魔法をあえて使わない者がいても不思議じゃない。
『リザードマンってかなり連携がしっかりしているもんな。それぞれの特長をうまく活かしてる』
『お褒めの言葉、光栄だ』
『でも気になるんだけどさ、そんな連携をする種族なのに名前がないんだよな? 特定の人を呼びたいときどうしているんだ?』
『え? そんな事必要ないぞ? それが当たり前になっているからな』
やはり名前はないのか。
まあ分かってはいたんだけど。
魔物にとっては名前は意味を為さないって言っていたもんな。
故に名前を持つ魔物なんてほとんどいないと。
『そういえばカンガ殿、ブルール殿はそれぞれ名前を持っているが、誰につけられたのか? やはり人間か?』
『いや、俺がつけた』
『カンガ殿が? そうか……。名前をつける魔物、今まで聞いたことないな。でもそれがお主らしいかもしれない』
リザードマンは一人納得している様子だった。
ブルールもそうだけど、俺ってかなり変わった奴だって思われているよな。
まあ自分でも能力とか普通じゃないとは思っているんだけどさ。
『カンガ殿。よろしければ拙者の名もつけてはくれぬか? これからお主達と一緒にやっていく身だ。是非ともお願いできないだろうか?』
『うーん、そうだな……』
リザードマンの名前か。
どうしようかな。
また特徴から名前をつければいいか。
えっと。
緑のリザードマン。
みどりのリザードマン。
グリーンリザードマン。
グリーンリザード……
決めた。
コイツの事はグリザーと呼ぼう。
嫌と言われたらまた適当に考えればいいか。
『グリザーって呼んでもいいか?』
『グリザー……良い名前だ。是非、これからは拙者の事をグリザーと呼んでもらいたい』
『そっか。ではこれからよろしくな、グリザー』
『こちらこそ頼む、カンガ殿、ブルール殿』
こうしてあっさりとリザードマンの名前が決まった。
『あ、そういえばこれから人間の村の近くを通ることになるし、インビジブルブレスレットを作動させないとな』
『いんびじぶる……ってなんだ?』
『グリザーには教えていなかったな。簡単に言えば姿を隠すための道具だ。グリザー用の物も作るからちょっと待ってろ』
近くにあるフワンプチポイズ草、フワンタクサ草を採取して、俺はインビジブルブレスレット作りを始めた。
まぜまぜ……
チギチギチョキチョキ……
{ 超極上綿花を入手しました。 }
{ 黄金の葉を入手しました。 }
『何やら凄そうなものができたものだな』
グリザーはあっけにとられていた。
ブルールは別にいつもの事だと全く驚く様子はなかったが。
さて、仕上げに入るか。
チギチギチョキチョキ……
{ インビジブルブレスレットを入手しました。 }
『出来たぞ。グリザー、これを付けてみてくれ』
『腕輪か? 別に構わないが』
俺はグリザーの腕にインビジブルブレスレットを装着した。
するとグリザーの姿が消えた。
まあ【命名者】のスキルでおかげで姿を認識することはできるんだけどな。
『よし、成功したな』
『成功? 一体何が起こっておる?』
『見ていれば分かるさ』
インビジブルブレスレットは身につけている本人は効果を実感できないからな。
他人が使ってどう見えるか見せた方が理解が早いそうだ。
こうして俺とブルールは同時にインビジブルブレスレットの効果を発動させた。
『え、姿が消えた……? カンガ殿やブルール殿は本当にその辺りにいるのか?』
『ああ、ここにいるぞ』
『そうなのか。でもこんなに近くにいるのに全く分からないものなんだな……』
グリザーは戸惑っているようだ。
そっか。
ブルールは鼻が利くから姿が見えなくても何とかなる。
けれど、グリザーはそこまで鼻が利く訳じゃないから見えないとまずいのか。
どうしたものかな……
{ 特殊スキル【命名者】の能力を使用しますか? }
突然頭の中から天の声が聞こえてきた!?
何なんだ、いきなり。
ビックリするだろ。
えっと、それはともかく、【命名者】の能力を使用するだと?
よく分からないけど、とりあえず使ってみるか。
悪いことは起きないだろ。
そういう訳で、答えはイエスで。
{ 特殊スキル【命名者】が使用されました。 }
{ 【命名者】が許可する範囲で【命名者】と【被命名者】の存在を互いに認知できるようになりました。 }
互いの存在を認知か。
正直俺にとっては元々認知できているから変化は全く感じないんだが。
グリザーにとってはどうなんだろう?
『お!? いきなりカンガ殿とブルール殿の姿が現れたぞ!?』
どうやらスキルの効果が出たらしい。
ちなみにブルールもグリザー同様、仲間達の姿を見ることができるようになったそうだ。
これで互いの姿が見えないことによって困ることはなくなったな。
よし、これで全員にインビジブルブレスレットが行き渡ったし、人間におびえなくてもいいだろう。
俺達は引き続き、住処への帰還を始めた。
しばらく歩くと、例の巨大な川の所にたどり着いた。
だが、その川は以前のように荒れておらず、穏やかなものだった。
きっと川の巫女が川を鎮めてくれたんだろうな。
さすがは川の巫女だ。
レベル70越えは伊達じゃないな。
橋の復旧作業もだいぶ進んでいるようだ。
だがまだ完成したとはいえず、渡ることはできない。
だからといって、また山岳地帯を通って回り道をするのは正直避けたい。
行くときは川の巫女達がワイバーンを倒してくれたから良かったが、帰りも遭遇したら大変だ。
あんな奴らを相手に勝ち目なんてないからな。
幸い川の流れは穏やかだ。
川に飛び込んで突っ切るのもアリか。
それとも橋を作り出した方が良いか。
どうしようかな。
『川を渡りたいんだが、どうしたらいいと思う?』
『確かに山岳地帯を通るのは避けたいよな、でもどうすれば』
『拙者にお任せあれ。道を切り開いてみせましょうぞ』
するとグリザーは槍をクルクル回しはじめ、青色の渦を出現させる。
『【水流遮断】!』
グリザーが呪文を唱えると、川が二つに割れ始める。
そして川に道ができた。
『長くはもたない。早く移動しよう』
グリザーを先頭に、俺達は川にできた道を通っていった。
俺達が通りきった所から順に川の水が普通に流れ始めるので退路は断たれることになる。
急いで渡らないと川の水がこちらに来てしまうのではと思ったが、グリザーによればその心配は不要だとのこと。
確かに流れ始めた川の水が俺達の方に向かうことはなかった。
魔法って不思議なものだな。
そんな感じで、グリザーのおかげで無事に川を渡ることができた。
俺達が川を渡り切ると、魔法の効力が切れ、また川に水が流れ始める。
『ありがとう、グリザー。助かった』
『これ位大したことない。また何かあったら頼ってくれ』
魔法に長けた人がいるってこんなに頼もしいんだな。
俺が使っているのは大体魔法ではないし。
やはり魔法使える人ってうらやましいな。
まあ今ある能力でも多くの事ができるし、高望みすぎる気はするけどさ。
そんな感じで順調に歩を進める俺達。
道中で一泊し、そしてついに俺の住処のある場所付近までたどり着いた。
九十五日目終了。
現在九十六日目。
ステータス表示は変化がないので省略。




