64.ようやく目が覚めました。
俺は目が覚めた。
辺りを見渡してみる。
するとベッドが三つほど並んだ十畳ほどの部屋に俺がいることが分かった。
ちなみにベッドは布製で、それなりに暖かくて気持ちの良いものだ。
まあ俺の超極上綿花の布団には敵わないけどな。
そういえばここはどこなんだ?
見たことのない場所みたいだが。
もしかして……死後の世界!?
俺、竜巻に巻き込まれちまったもんな。
死んでいると言われても不思議じゃない。
まあ、その割には感覚もハッキリしすぎているし、現実的すぎるとは思うけど。
ちなみに今の俺の状態ってどうなっているんだろう?
【観察】でちょっと見てみるか。
カンガ【ベビーゴブリン】 LVMAX
HP 50/50
MP 15/15
攻撃力 10
防御力 10
魔法攻撃力 10
魔法防御力 10
素早さ 10
スキル
観察、考察、隠密、猛毒耐性、暗視、耐震、恐怖耐性、採掘、器用、根性、調合、加工、高速加工、細工、束縛耐性、合成、料理、念力lvMAX、水操作、浄化魔法、念話、水魔法、水流操作
特殊スキル
採掘の極地、調合の極意、調合の極意Ⅱ、加工の極地、細工の極意、細工の極意Ⅱ、料理の極意、料理の極意Ⅱ、合成の極意、職人の神、超能力者、神速職人、命名者、水を統べる者
あっ、そうか。
そういえば今の俺、白い布でできた寝巻みたいなものを着ているみたいだ。
だから武器も防具もつけていない扱いになっているのか。
でも体力は全回復しているみたいだな、良かった。
しばらくその場で色々考え事をしていると、部屋にあるドアが開いた。
『おっ、カンガ、目が覚めたのか! 心配したんだぞ!』
現れたのはブルールだった。
目が覚めたってことはしばらく俺は寝込んでいたということか。
というか、ブルールがいるっていうことは生きているのか、俺?
一応確認してみるか。
『ブルール、俺達、助かったのか?』
『ああ、そうだ。それもカンガの防御魔法のおかげだ。ありがとな』
いや、あれ魔法じゃないんだけど。
だって魔法なんて使ったら、俺の貧弱なMPじゃ、あっという間になくなっちまうからな。
俺が魔法でできることなんてたかが知れてるわ。
『そういえばそのカンガの魔法を見て、リザードマンも驚いていたな』
『あの竜巻の魔法を放ってきた奴らがか?』
『そうだ。「この魔法を防ぎきる魔物は珍しい。しかもゴブリンが防ぐとは」とか言っていたな』
なら、そんな魔法放つんじゃねーよ。
完全に俺達を殺す気だったって事じゃないか、あいつら。
いくらヒラメが目標だとはいえさ。
でもそんな状況で何で俺達は助かったんだ?
正直リザードマンが俺達を助ける理由なんてない気もするしな。
だって、リザードマンにとっての俺は未知の力を持つ他種族の魔物なんだぞ。
そのまま野放しにするのは危な過ぎるもんな。
魔法で仕留め損なっても追い打ちをかけて殺すことは十分にあり得そうなんだが。
『そういえば誰が俺達を助けてくれたんだ? リザードマンとは別の奴か?』
『いや、そのリザードマンだ。結局なんだかんだ言って助けてくれたらしい。ターゲットのヒラメを倒し切ったし、もう攻撃する理由もないんだと』
『ふーん』
ターゲットじゃないから殺さないのか。
かなり割り切っているんだな。
だがそれにしても、だからといって、助けてもくれるのか、リザードマンって。
意外といい奴らじゃないか。
まあそれでもあの竜巻の魔法で攻撃したことを許すつもりはないけどな。
『ターゲットじゃないから殺さないだけでなく、助けてもくれたのか。いい奴なんだな、リザードマンって』
『いや、そうとも言えないぞ。何しろ助けた対価として、カンガの短剣が没収されているからな。短剣を預かっているその対価でオレ達を養ってくれているみたいだ』
えっ、何だって?
短剣が没収された……だと?
そういえば俺の装備って全部ないよな。
武器だけでなく防具も、それに道具もだ。
もしかして、全部身ぐるみはがされたのか!?
『ブルール、もしかして俺、道具を全て盗まれたのか?』
『いや、持っていかれたのは短剣だけらしい。防具や道具はこの宿屋の別の部屋に保管されているぞ』
一応防具はあるのか。
全て盗まれた訳じゃないみたいだな。
良かった。
……いや、良くないだろ!
そもそもあの短剣がリザードマンの手に渡ったのがまずい。
あんな強力な短剣を元々が強いリザードマンが振るったら、俺に勝ち目がないだろう。
マジでこれからどうしようか。
何とかして短剣を回収できないかな……
まあその話は後だ。
とりあえずは防具を着て身の安全を守ろう。
今のままだと、ただの貧弱なゴブリンの赤ん坊に過ぎないからな、俺。
ブルールの甘噛みでも多分即死するぞ。
そんな怖い思いはしたくないからな。
そう思った俺はベッドから抜け出して移動しようとする。
しかし、体に力が入らない。
は?
何でだよ?
別に今の俺って、体力も満タンだし、状態異常でもないよな。
なのに何でこんな体に力が入らないんだ?
おかしいだろ。
『ブルール、俺、体に力が入らないみたいなんだ。どうしちゃったんだろうな?』
『そりゃ無理もないだろう。だってカンガは寝ている間何も食べてないからな。一応栄養の入った点滴みたいなものは時々されていたみたいだが。それでも栄養が足らないことには変わりないだろう』
寝ている間何も食べないってそりゃ当たり前じゃないか。
別にそれは前世でも、今のゴブリン生活でも変わらない事だ。
だが確かに俺の体を見ると、どう考えてもやせ細って見えるんだよな。
見て分かる程痩せるってヤバいだろ。
それに元々俺って多分普通体型だったし。
今がどんだけ痩せているんだって話だよな。
何かがおかしいな。
一体何なんだ?
『ブルール、寝ているだけでこんなに痩せ細るって何かおかしくないか?』
『いや、おかしくはないだろ。むしろ、よく生きていてくれたと思っている』
『生きてくれていたって……ずいぶんと大げさな言い方するんだな』
『いや、誰だって心配するだろ。だってお前―――半年以上もずっと目を覚まさなかったんだぞ!』
えっ、半年……!?
そんな長い間目覚めなかったのか。
俺にとってはそんな時間が経っているようには感じなかったんだけどな。
確かに半年も寝込んでいたというのなら、痩せ細るのも無理ないよな。
半年も飲まず食わずじゃそもそも生命を維持できないだろ。
そこは点滴みたいなもので何とかしてくれていたんだろうが。
それでも栄養不足には変わりないよな。
『半年……つまり、約180日も寝込んでいたのか。全然考えられないな』
『ん? 何寝ぼけたこと言ってんだ、カンガ。栄養不足でちょっとおかしくなっちまったか?』
『え? 俺、何か変なこと言ったか?』
『ああ。なんで半年が180日なんだよ。そんな長い訳ないだろ』
半年が180日じゃない?
あ、もしかしてこの世界の一年って365日じゃないのか!?
確かに一年が365日というのは、地球が太陽の周りを一周するのにかかる日数だ。
つまり、地球ではないここでは全く意味のない数字になるのか。
盲点だった。
ちょっと前世の常識にとらわれ過ぎていたのかもしれないな。
この世界にも太陽みたいなものがある。
なので昼や夜も地球と変わらずあるし、つい誤解してしまったようだ。
それにしても、そうだとしたら、この世界の一年って何日になるんだ?
ブルールの言葉からすると、思ったよりもだいぶ短そうだが。
『ブルール、この世界の一年って何日になるんだ?』
『本当に知らないのか。てっきりジョークで言っているものとばかり思ったぞ』
『俺がこの世界に生まれてそんな経っていないんだから知らなくて当然だろ』
『ああ、そういえばカンガって赤ん坊だったもんな。すっかり忘れてたわ』
ブルール……
全くお前って奴は。
『で、この世界の一年が何日なのか教えてくれないのか?』
『ああ、悪い。この世界の一年は100日だ。な、分かりやすいだろ? お前が半年180日なんて半端な数字を出してきたときは驚いたな』
『100日か……ずいぶんと短いんだな。ということは、俺が寝込んでいたのは50日位か?』
『まあ大体はそれ位だろう。もっとかかっているような気もするけどな。ここ、湖の底だし、日の光があまり入らなくて日数経過が分かりにくいから、正確には分からないけどな』
湖の底……
俺達はリザードマンに助けられた訳だし、今いるのはリザードマンの住処だよな、きっと。
ということは、リザードマンの住処って湖の底にあったのか!?
気付く訳ないだろ、そんな所!
良くも悪くも、ここにたどり着けた訳だし、その点では幸運だったというべきだろうな。
でも本当にここって湖の底なのか?
部屋は普通に空気であふれているし、水の中にいるという感じがしないんだが。
『ここって湖の底なのか? その割には部屋は空気で満たされているような気がするが』
『ああ、そのことな。オレも最初は不思議に思ったさ。どうやらリザードマンの町には白水球という空気を作り出す道具があるらしい。そのおかげで町に空気があふれているんだと』
へえ、そんな便利なものがあるのか。
湿度を管理する蒼水球といい、なかなか便利な物のオンパレードだな、リザードマンの町って。
『ちなみに町の中は光水球というもので照らされている。だから昼夜関係なく過ごすことができたりするぞ。便利だよな』
光水球……
前世でいう電球みたいな役割をしているのか。
まあ、そういうものがないと湖の底なんて暗くて過ごしにくいもんな。
昼間でも日の光があまり入らなくて暗そうだし。
だからこそ一日の感覚が狂いそうだ。
それにしても俺、50日も寝込んでいたのか……
地球換算だと、二ヵ月弱といったところか。
半年とまではいかなくても、かなりの間寝込んでいたことになるな。
それだけダメージが大きかったということか。
結構頑張って防御してしかも直撃していないのにこれって、リザードマンの魔法、ヤバすぎだろ。
『そういえばブルールはいつ頃目覚めたんだ? 俺みたいに長い間寝込んでいたのか?』
『いや、オレは三日で目覚めた。リザードマンの魔法はどちらかというとカンガの方を向いていたからな。オレはあまり大きな巻き添えを食らわずに済んだ。だからそれだけで済んだんだろう』
ブルールはたった三日で目覚めたのか。
確かにそんな早くに目覚めたんなら、寝込んでいる俺を見て心配もするよな。
『とにかく、そういう訳だから、カンガはしばらく安静にしていろ。しばらくしたら食事が出る。しっかりと体力をつけてからやるべきことをやればいい。それからでも遅くはないだろ?』
『ああ、そうだな』
リザードマンに対して色々思う所はあるが、今の俺では移動もままならない。
無理して動いてもロクなことがなさそうだし、万全な状態になってから行動するとしよう。
ゴブリン生活九十日目終了時のステータス
カンガ【ベビーゴブリン】 LVMAX
HP 50/50
MP 15/15
攻撃力 10
防御力 10
魔法攻撃力 10
魔法防御力 10
素早さ 10
スキル
観察lv8、考察lv?、隠密lv9、猛毒耐性lv1、暗視lv8、耐震lv1、恐怖耐性lv1、採掘lvMAX、器用lvMAX、根性lv5、調合lv26、加工lvMAX、高速加工lvMAX、細工lv20、束縛耐性lv1、合成lv16、料理lv28、念力lvMAX、水操作lvMAX、浄化魔法lv1、念話lv5、水魔法lv1、水流操作lv16
特殊スキル
採掘の極地、調合の極意、調合の極意Ⅱ、加工の極地、細工の極意、細工の極意Ⅱ、料理の極意、料理の極意Ⅱ、合成の極意、職人の神、超能力者、神速職人、命名者、水を統べる者
二十三日目(五十二話)からの変更点
装備の着脱。
水操作lv7→MAXにアップ。
水魔法lv1の獲得。
水流操作lv16の獲得。
水を統べる者の獲得。
実際に経過したのは五十日どころではありませんでした。(ブルールは正確に日数を数えていた訳ではないので)




