57.かかっていた呪いを治してあげました。
『助けてほしいってどういうことだ?』
「私のお母さんがタロスを助けに外に出て行っちゃったの! だから助けてあげたいんだけど……」
『つまり、その二人を助けてほしいと?』
「そ、そうなの。この辺りは人通りがほとんどないからあなた達だけが頼りなの! お願い、力を貸して! なんでもするから!」
確かにこの辺りは危険って言われているから人が通る訳ないよな。
つーかなんでコイツらはそんな危険な地域に住んでいるんだよ?
人間なんだから人里に住めばいいのにさ。
意味が分からねえよ。
『人間を助ける魔物なんてどこにいるんだよ? 人間は魔物を殺すし、魔物は人間を殺す。敵対する関係だろ?』
「そんなことない! 私、魔物さんとだって心通じて分かり合ったことある! 今だってそうだもの!」
まあ、今は少なくとも会話できているし、多少なりとも分かり合ってはいるのかもな。
それにコイツ、俺達を見ても怖がって攻撃しようとしなかった。
どうしてそんなに魔物を信用できるんだろう?
ちょっと興味が湧いてきたし、聞いてみるとするか。
『どうしてそんなに魔物を信用できるんだ?』
「私……川におぼれかけたときがあるの。そこで川の龍さんに助けてもらったわ。それにその龍さんからこの世界の色んなことを教えてもらったの」
『龍から教えてもらっただと? 例えばどんなことなんだ?』
「この世界のこと、どんな生き物がいるのか、そして人間と同様、考えて行動する魔物のことも聞いたわ」
人間と同じように考えて行動する魔物……
ブルールみたいな魔物のことだろうか?
確かにブルールは、ゲームでいう人を見かけたら襲い掛かってくる魔物とは違うよな。
自分から人間を避けている位だしさ。
そういう魔物がブルールの他にもいるということか。
『それで俺達もそういう魔物じゃないか? そう思ったんだな?』
「そうなの。あなた達には何の関係もないことだって分かってる。そしてこの頼みも自分勝手なのは分かってる。でもどうかお願い! 私達を助けて!」
『何か見返りはあるのか?』
「見返り……そうね。何だったら、私の命をあげてもいいわ。お母さんとタロスを必ず助けてくれるなら」
いや、そこまで求めてないから。
別にちょっと試してみただけだからさ、そんなこと言われても逆に困っちまうよ。
……俺も悪ふざけが過ぎたか。
この女にとって、この願いはそれだけ重要なことだってことだもんな。
自分の命を懸けてもいいくらい大事なことなんだよな。
『お前の願いの重要性は分かった。だが、俺に何ができる? 俺、ただのゴブリンだぞ?』
「そんなことない。あなたからは何か不思議な力を感じる。この状況も何とかしてしまうほどの特別な力が」
特別な力?
なんだろうな、それ。
【考察】さんのことか?
それとも【加工】、【細工】、【調合】のどれかか?
いまいち特別な力って言われてもピンとこねえな。
『そんな過大評価するなよ。それに、どうしてお前は自分で助けに行こうとしないんだ?』
「私だって助けに行きたい。でもこの状態じゃ……ゴホッ、ゴホッ」
そういえばこの女、かなり体調が悪そうだよな。
【観察】で様子をみてみるか。
ヒューマン lv72
HP ???
MP ???
状態異常 呪い(特大)
ステータス 不明
スキル 不明
うわっ、コイツかなり強いぞ!?
レベル72とか、一体どんだけのステータスなのか想像できねえよ!?
こんな強いヤツだから俺達の正体を見破ってきたのか。
なんと恐ろしい。
『お前、かなり強いじゃないか。お前ほど強ければほとんどの敵には負けないんじゃないか?』
「体調が万全ならね。でも今の状態じゃ……ゴホッ、ゴホッ」
どうやら状態異常の呪いがかなり効いているらしい。
どうしてこの女に呪いがかかっているのか知らないけど。
でも逆に言えば、これさえ治れば大丈夫ってことじゃないか?
なら俺がすることは決まっている。
『体調が万全。つまり、呪いが解ければ大丈夫なんだな?』
「それはそうだけど……でもこんな大きな呪い、簡単に解ける訳が……」
『ちょっと待ってろ』
俺はバッグの中をゴソゴソとあさる。
そして見つけた。
作り置きしておいた黄金の葉を。
『これを手のひらにのせておいてくれ』
そう言った俺は女の手に黄金の葉をのせる。
そしてその黄金の葉は次第に手の中に吸い込まれていく。
黄金の葉が吸い込まれると、突如女の体が黄金の輝きを放ち、悪いものが体内から浄化されていく!
おお、黄金の葉を使うとこんな風になるのか。
俺のときはそんな反応しなかったんだけどな。
不思議だわ。
さて、女の様子はどうなったかな?
ちゃんと治ったか?
ヒューマン lv72
HP ???
MP ???
ステータス 不明
スキル 不明
うん。
状態異常の欄が消えてるし、多分治っただろう。
これで俺達が出る幕はないな。
「な、なにが起こったというの……!? 体が軽い……それに呼吸もすごくしやすくなっている!?」
『これで治っただろ? 自分で助けに行けるじゃないか』
「あなた、さっき何をしたの? 私がかかった呪い、早々治るものじゃないはずよ。それがあの一瞬で……」
女は驚きの表情で俺の顔をまじまじと見てくる。
というか、俺の姿は見えないはずだよな。
どうしてコイツは俺の姿が見えるような様子で俺を見てくるんだ?
おかしいだろ。
『そういえばどうしてお前は俺の姿が分かるんだ? 見えないはずなのに』
「言われてみれば確かに肉眼では見えないわね。一体どうやって姿を隠しているのかしら」
『質問に答えてないぞ』
「あら、ごめんなさい。その答えはスキル【心眼】よ」
シンガン?
心の眼って書いて心眼か?
なんかすごそうなスキルだな。
いわゆるどんな幻覚も聞かずに、真実のみを見通す力みたいなやつか。
そのスキルの前にはどんなまやかしも効かないと。
それは俺がつけているインビジブルブレスレットも例外ではないと。
それってチートだろ、チート。
ずるいぞ、そんな能力があるなんて。
卑怯だぞ。
『そんなスキルがあるなんてずるいだろ。俺の今までの努力返せよ』
「あら、あなたこそ、透明化の道具を持っているなんてずるいわ。私にもちょうだい」
『断固として断る! これは俺のだからな。絶対お前なんかにあげないからな』
「あら、スキルじゃなくて道具だったのね。聞いたことないような道具を持っているなんてホント不思議」
『誘導尋問かよ!? 卑怯だぞ!』
「ふふ、かわいらしいゴブリンさんね。気に入ったわ。あなた、私と一緒に暮らさない?」
は?
なんで急にお前と一緒に暮らさないといけないんだよ。
というか話それすぎだろ。
お前のお母さんともう一人を助けに行くんじゃなかったのか?
『お前、話それすぎてねえか? 一刻も早く母親たちを助けに行かなきゃいけないんだろ?』
「あ、忘れてた! ありがと、ゴブリンさん! お礼がしたいから、ちょっとここで待っててね!」
そう言って女は急いで家から出て行ってしまった。
全く、何だったんだ、あの女は。
魔物に対して恐れるどころか助けを求めるし。
完全に俺達の事を信用している感じだったよな。
普通、見ず知らずの、しかも魔物相手にあそこまで信用できるかってんだ。
俺だったら絶対信用できないわ。
あの女、すごく良い人なんだろうな、きっと。
俺とは真逆の存在だわ。
純粋な善意の塊って感じだもんな。
俺には真似できないわ。
さて、小屋からみんな去ってしまったようだし、俺達もここを後にしようか。
『なあカンガ、あの女のことをちょっと追ってみないか?』
言ってんだ、このブルール君は。
もう用は済んだだろ。
さっさと先に進まないと大変な事になるぞ。
『どうしたんだ、ブルール。早く先に進まなくてもいいのか?』
『ちょっとアイツのことが気になってな。何か謎の魅力があるっていうか……何か目が離せないんだ』
ふーん。
まあ確かに気にならないこともないよな。
いろいろ不思議な力も持っていそうだし。
もうちょっとだけ様子を見てみてもいいかもな。
こうして俺達は女の後を追うことにした。




