39.紙に書かれた文章を読んでみました。
ブルールはガラス瓶を割り、中の紙を取り出す。
そして紙だけくわえて移動させ、ちょっと離れた所に紙を広げだした。
遠くてよく見えないが、紙に何か文字が書いてあるようだ。
ブルールはその文字を見て、首をかしげている。
まあ、魔物に文字は読めないわな。
ってことは、その紙ってまさか、この世界の人間が書いたものなのか!?
まあ、人間がいるようなことはブルールの話から分かっていたしな。
こういう事があってもおかしくはないだろう。
でも何でこんな何もない荒野地帯の土の中に埋め込まれていたんだ?
ブルールはしばらくして紙を器用にくるくる巻き直し、その紙をくわえて俺の所にやってきた。
よく四足歩行で手がないのに、そんな器用なことができるよな。
そういうのも慣れなのかもしれないけどさ。
『カンガ、この紙に書いてある内容読めるか? 元人間のお前なら読めるんじゃないかと思ってな』
『俺か? 俺、この世界の人間じゃないから、多分言語が違うし、読めないと思うぞ?』
『別に読めなくてもいいさ。ただ、この紙に書いてある文字はいつも見るのと少し違うんだ』
まあ、多分ブルールの期待には応えられそうにはないけどな。
だって俺、日本語しか分からねえもん。
しかも現代の日本語だけな。
古文とか全然分かんなかったし。
そんな俺が読めるわけ――――
読める。
ということは、この文字、まさかの日本語か!?
何でこの世界に日本語で書かれた紙があるんだよ!?
いや、落ち着け俺。
この紙にその理由が書いてあるかもしれない。
とりあえず読んでみようか。
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この紙を読んでくれているあなたへ
まさかこの紙を読んでくれる方がいるなんて、素敵!
あなたもきっとロマンを追い求める者なのね。
何もない、見つかるはずのないこの場所でさえ見つけるあなた。
まさにあなたこそ私の運命の人よ!
是非、一目あなたに会いたいわ!
メアド聞かせてよ、お願いだから!
あ、ここケータイないんだった。
忘れてたわ、ごめんごめん。
という訳だからどこに住んでいるのか教えてね!
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期待した俺がバカだったようだ。
つーか、なんだよ、この紙。
出会いを求めてこんな何もない所に紙を埋めるか、普通!?
おかしいだろ。
コイツ、ケータイとか言っているし、絶対日本に住んでいたヤツだ。
文体からすると多分女だな。
ってことは転生者なのか?
前世の記憶持ちってことだもんな?
それに紙に文字を書いていることからすると、コイツは人間で間違いないだろうな。
魔物が紙に文字を書ける訳ないしな。
いくら前世が人間だとはいえ、厳しいだろう。
フフ、ということはコイツは人間の男に向かって書いた紙なんだろうな、きっと。
残念だったな!
拾ったのはただのゴブリンだ!
出会いなんてそんな簡単に起きねえんだよ!
俺がこの脳みそお花畑の女の出会いをつぶしてやったぜ!
はあ……はあ……
ちょっと大人げなかったか。
年齢イコール彼女いない歴だった俺はつい反応してしまったが。
つーか、この女、バカだろ。
なんで異世界に来てまで日本語でこんな紙を瓶に入れて埋めるんだよ?
もし奇跡的に人間がこの紙を見たとしても言語が分からないだろ。
だから普通、この世界の言語を使って内容を書くよな?
色々と大丈夫か何か心配になってきた。
魔物の俺が心配するのもアレだが。
まあ、人間なんだったら弱肉強食の世界ではないだろうし、大丈夫だろ。
多分。
そういえばこの紙、まだ比較的新しそうだな。
特に時間経過で紙が痛んでいる様子も見られないし。
この手紙を書いたヤツはどこかの集落に住んでいるんだろうか?
まあ、俺には関係ないけどな。
『カンガ、この紙の内容読めたか?』
ブルールが首をかしげて聞いてくる。
別に読めたことを言ってもいいんだが、変に深読みされてもアレだな……
全然大したこと書いてないし、読めなかったことにしておこうか。
『すまん。読めなかったわ』
『そうか。変なこと頼んで悪かったな』
『いや、こちらこそ悪いな、期待に沿えなくて』
『気にするな。それよりこの手紙、気になるな……初めて見る文字だし、何か重要なことが書いてあるのか?』
いやいや、全然大したこと書いてないよ。
むしろ読んでいるこっちが恥ずかしくなるような手紙だから。
だからさっさと破棄した方がいいんじゃないかな。
持っていても意味ないしさ。
『よし、これはとっておこうと思う。何かのカギになるかもしれないしな。カンガ、別にいいよな?』
『えっ……あ、ああ。別に構わないが』
『ありがとな。じゃあ住処に戻るとするか』
その手紙とっておくんですか、ブルールさん。
まあ別に止めはしないけどよ。
多分内容を知ったらがっかりするぞ?
もう今更本当のことを言うのもアレだし、ブルールの名誉の為にも言わないけどさ。
別に言わなくても特に問題にならないだろ。
それから俺は荒野地帯に開けた穴をササッと塞ぐ。
そしてブルールに乗って荒野地帯から立ち去った。
俺達は住処に無事たどり着いた。
ブルールは入口近くの自分の部屋にて座り込む。
『今日の料理は何にするんだ?』
『うーん、そうだな……』
正直、俺の住処の周辺には魔物がいないので、作る料理は限られる。
いるのは水龍くらいなもんだからな。
つまり、肉料理はまず作れそうにない。
作るとしたら、生えている野菜を使った料理ということになるな。
だが意外にも野菜【料理】は作ったことないんだよな。
まあキノコ料理は作ったけどさ。
グリーンサラダは【調合】で作ったものだから【料理】ではないし。
野菜を【料理】するとどうなるんだろうな?
『フワンタクサ草を使って料理をしようと思う』
『えっ、あのたくさん生えている草か!? 確か毒あったよな……』
あっ、そういえばそのことすっかり忘れてた。
危ない、危ない。
このまま【料理】していたら毒物作っちまっていたかもしれないよな。
【料理】の場合、素材の影響をかなり大きく受けるもんな。
ジャイアントマッシュを料理するときも怪物キノコシリーズになったし。
つまり毒物を原料にすると、全部毒入り料理になりかねない。
ちょっと考え直す必要があるか。
いや、ちょっと待てよ。
グリーンサラダに変えてから【料理】すればいいんじゃないか?
グリーンサラダなら毒ないもんな。
まあ調理済みのものをさらに料理するのはおかしい気もするが。
そんなことはこの際どうでもいいだろう。
ちゃんと食べられる物を作れればそれでいいのだ。
では早速グリーンサラダ作りから始めるか。
まぜまぜ……
{ グリーンサラダを入手しました。 }
オッケー。
もう慣れたもんだ。
さて次はどうするかな?
料理リストを見てみようか。
料理リスト
野菜の肉巻き
野菜の煮込み
野菜炒め
……
お、結構あるじゃん。
【調合】よりも圧倒的に料理のラインナップが豊富だな。
って、そりゃそうか。
これ、【料理】のリストだもんな。
むしろ【調合】で料理を作れる方が不思議な位だ。
そういえば俺のスキルって基本的には同じ系統の物しか作れないよな。
【料理】なら料理系のもの。
【加工】なら金属系のもの。
【細工】なら装飾品とかな。
まあ、当たり前っちゃ当たり前なんだが。
だが例外もあるんだよな。
例えば【調合】で作った金剛砥石。
【調合】を使っているのに金属系のものができているのが不思議だ。
しかも金剛砥石はどんな金属よりも硬くて丈夫なんだよな。
まあそのおかげで【加工】の際は大助かりなんだけどさ。
あまり【調合】のイメージが湧かないよな。
というか、金剛砥石ってどういうものだっけ?
改めて説明文を見てみるか。
金剛砥石
エリュミュスのどこかに存在する金剛ジョウ草を基に作られた伝説の砥石。
どんな金属よりも硬く、これを使えばダイヤモンドすら研いで加工できると言われている。
あれ?
なんか説明文変わってない?
金剛ジョウ草なんて名前の草、初めて聞いたぞ。
この草の詳細も調べられたりしないかなー?




