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ゴブリン、頑張って生きる。  作者: はちみやなつき
Ⅰ この世界で生き残るために
31/222

31.秘密がバレてしまいました。

 ブルールは俺が作った料理をひたすら食べ続けた。

 だが、あるとき突然ブルールが止まった。

 どうしたんだろうか?



『どうしたブルール?』

『カンガ、もう料理は作らなくていいぞ。多分これが俺の限界だ』



 そう言ったブルールは目の前の皿に乗った料理を一瞬にして食べつくした。


 どう考えても限界には見えないんだが。

 まあ、ブルールがそういうならそうなんだろう。

 俺も料理をこれ以上作らなくてもいいし、とがめる必要もないしな。


 ブルールの様子を見ると、お腹が少し膨らんでいるが、身動きがとれないほどではなさそうだ。

 なるほど。

 きっとブルールは行動に支障が出ない範囲でのみ食べるようにしたんだな。

 成長したな、ブルール。



{ 【料理 lv28】を獲得しました。 }



 うん。

 料理のレベルが上がったな。

 もうすっかり慣れたもんだ。



『今日の料理も美味かったから許してやる。だから正直にあったことを話せよ、カンガ』



 ブルールは俺の目をまっすぐに見てくる。

 いや、そんなにジロジロ見られたら答えにくいんだけど。


 俺は目をそらしながら回答することにした。



『【念力】できないかなと試していたらできちまったんだ』

『試していたらできた?』

『そう。試したらできた。遠くに鉄鉱石を置いて、フライパンに変えれないか試してみたらできた』

『鉄鉱石をフライパンに? 意味分からない。おい、また嘘ついてんじゃねーだろうな?』

『い、いや本当だから! 実際にやってみせようか?』



 なんか本当の事言って疑われるのは嫌だな。

 まあ信じろっていう方が難しいことではあるんだけどさ。


 そういえばブルールには【加工】のことについてハッキリとは伝えていないもんな。

 普通鉄鉱石をフライパンに変えるなんてことできないから信じられないのも無理はない。

 鉄鉱石を磨いて、形を整えて作るならまだ分かるけどな。



 不審な目で見てくるブルールをよそに、俺は準備を整える。

 鉄鉱石を一つおき、俺は数メートル離れる。

 そして【念力】と【加工】を同時発動させた。



 ふんっ!

 ガキンッ



{ フライパンを入手しました。 }

{ 【念話 lv5】を獲得しました。 }



 はい、フライパンの出来上がり。

 ほら、言った通りだろ?


 俺がやったことを見たブルールは信じられないとでも言いたげな顔をしている。

 まあ、そりゃそうなるよな。

 だってまるで石がフライパンにすり替わったみたいな感じになるし。

 誰が見てもホラーだからな、この状況。



『【念力】は聞いたことはあるが、だからといってそれだけではこんなことにはならないはずだ』

『そうなのか?』

『ああ。【念力】はあくまで遠距離に自分の力を加える手段にすぎない。石をフライパンに変えることはできないだろう』



 うっ……

 確かにそうだな。

 だって俺、【加工】も使ってるしな。

 【念力】はすごい能力だけど、物自体を変化させる力はないはずだ。



『もしかしてカンガ、同時に【加工】のスキルも使ってるな?』

『そ、そうだが、それがどうした?』

『一瞬で巨大な壁を作ったことといい、石をフライパンで変えたことといい、お前の【加工】は規格外だな』



 そうだよな!

 本当、【加工】さんは偉大だよ。

 って、そうじゃない。


 どうする?

 ブルールに【加工】の凄さが知れ渡っちまったよ。

 なんかこれ前々から俺が恐れていた展開じゃねえか、これ。

 まずくねえか?



 ……これは気付かれるのも時間の問題だな。

 仕方ない。

 ありのままを話そう。


 もうどうなっても知らねえ。

 ブルールが俺を殺そうとしてくるなら受けてたつ。

 俺を見限るというのなら、もう追ったりはしない。

 このブルールとの旅の目的も嘘から始まったようなものだからな。

 それ位のことされても文句は言えないだろう。


 

 俺は覚悟を決め、全てをブルールに話すことにした。







『そうか。事情は分かった』



 全てを話終えた俺に対してブルールが口を開いた。



『カンガは誰かが武器を持つことを恐れていたんだな?』

『ああ、そうだ』

『【加工】のことをもし俺が知ったら、武器を作らせようとするんじゃないかと思って恐れたんだな?』

『ああ、その通りだ』

『それならそうともっと早く言ってくれれば良いのにな』



 ブルールはため息をついた。


 俺には命がかかっていることだったから、言いたくても言えなかったんだよ。

 装備なんてなくても強いブルールとは違うんだ。

 俺は装備がなければその辺の弱い魔物にすら歯が立たない最弱な魔物だ。

 だから唯一のとりえである、武器や防具を取られたくなかったのさ。



『俺を恨むか?』

『ああ、恨むさ。だって命まで賭けたんだぞ? お前の偽りの冒険にさ』

『俺を殺すか?』

『いや、そんなことはしない。もっと別の形で償ってもらう』



 ブルールはじっと俺の目を見てくる。

 とても真剣な表情だ。

 俺、こういう雰囲気苦手なんだよね。

 早く言いたいことあるなら言ってくれないかな。



『カンガはずっとあの住処に住むつもりか?』

『え? ああ、そのつもりだが』



 なんで今更そんなこと聞くのか。

 防具が欲しいなら今ここで作ってやるぞ?

 ミスリルもたんまりあるし、一瞬でミスリルアーマーなんて作れる。


 さすがに武器は作れないけどな。

 そんなことしたらブルールに完全に敵わなくなる。

 いくらブルールに悪い事をしてしまったとはいえ、それだけは譲れない。

 自分の命は大事だからな。



『なら、カンガに命じる。お前の住処にオレ用の部屋を作れ。そしてオレに料理を作れ。ずっとな』



 は?

 今何て言った?

 何か一緒に住まわせろ的なことを言ってる気がするんだが。


 しかも料理をずっと作れだと?

 居候するつもりか?

 このクソウルフが。

 自分の食い物位、自分で何とかしろや。 



 なんか予想していたことと全然違うこと言われて拍子抜けしたわ。

 でも何か納得いかないんだよな。

 ずっとコイツの居候生活を支えてやらないといけないなんてさ。

 それなら防具を持ってさっさとどっかに行ってもらった方がまだマシだ。



『そんなのやりたくねえよ。約束のミスリルアーマー作ってやるから帰ってくれないかな?』

『は? お前何様のつもりだよ? 散々オレをだましておいてさ』

『ああ、だましたさ。なら尚更そんな奴と一緒にいたら苦痛だろ。だから帰りな』



 ブルールは不服そうな顔をしている。

 まあ、そりゃそうだよな。

 俺がブルールの立場だったら間違いなく不満を持つもん。


 だからといってブルールのワガママを許す気はないな。

 俺が一番望むのは、安全にぐーたらして引きこもって生活すること。

 それがブルールの料理を作らないといけないとなると仕事が増えて面倒になる。

 しかも偉そうに毎回ブルールが料理を要求してくるなんて考えたくもない。

 そんな生活、絶対あり得ない。


 さあ、ブルールはどうする?

 さすがにここまできつく言えば帰るだろうか。

 寂しくなるが、これも致し方ないよな。

 今までありがとな、ブルール。

 元気に生きろよ。



『どうしても? どうしても、ダメなのか?』

『ああ、そうだ。もう一人分の料理を作るなんてめんどくさい。だから要求は受け入れられない』

『そうか……』


 

 ブルールは残念そうな顔をしている。

 ごめんな、ブルール。

 これだけは譲れねえんだ。

 俺が求めるのは楽な生活。

 ブルールの食事を作るのは負担が大きすぎるんだ。

 俺にとってはな。



『今、約束の防具を作る。だからちょっと待ってろ』

『いや、防具はいらない』



 へ?

 防具はいらないって?

 なら約束はどうなるんだ?

 命を助けたお礼みたいなもんだったよな、確か。

 それがなくてもいいのか?



『カンガの料理が食いたいんだ! 何でもする! だからこれからもお前の最高の料理をオレに食わせてくれないか!? 頼む!』



 ブルールは全力でそう叫んた。


 あれっ?

 なんかいつの間にかお願いされているんだけど?

 悪いの俺だったよね?

 なんでこうなってるの?



『カンガが邪魔だというのなら今まで通り外で寝るし、食材が足りないならオレがとってくる。だからどうかお願いだ! オレに料理をこれからも作ってくれ!』



 なんか自分の要求、全てなかったことにしちまってるよ。

 この食いしん坊オオカミ君。

 どんだけ俺の料理を食いたいんだよ。

 さっきまでのシリアスな雰囲気ぶち壊しじゃねーか。


 そこまでして頼まれたら断れないじゃねえかよ。

 一体どうしてくれる。

 せっかく楽な生活を満喫しようとしていたのによ。


 いや、待てよ?

 ブルールがいたら外を警戒しなくてもよくなるし、食材も取ってきてくれるのか。

 そうなると俺の外出回数も減るし、中が安全になるよな。

 意外と悪くない話かもしれないぞ?


 仕方ない。

 ブルールがそうしてくれるのなら、受け入れよう。

 全くそうする気はなかったんだけどな。

 本当、不思議だ。



 俺がブルールに料理を作ってやることを約束すると、ブルールは子供のようにはしゃぎまわって喜んだ。

 あれっ?

 何か前もこういう展開あったような?

 まあ、どうでもいいか。



 こうして俺とブルールのケンカみたいな何かは幕を閉じた。


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