23.とどめを刺してみました。
三体のジャイアントマッシュは連携をしながらブルールを追い詰めていく。
ジャイアントマッシュの一体一体の強さはそうでもない。
だが、一体がやられそうになるとすかさず他の二体がカバーに入るのだ。
そしてその間にやられそうな一体が回復する。
その繰り返しだ。
ブルールは強い。
だが、ジャイアントマッシュの連携をくずすほどの決定打がなく、ジリ貧になっている。
このままだといくら強いブルールでもいつかは負けてしまうだろう。
だからといってこのまま俺が助けに行った所で二対三で不利なことには変わりない。
もっと効果的な方法があるはずだ。
この状況を打破する方法は……これだな。
俺はその策を実行する為の準備を始めた。
ブルールは再びジャイアントマッシュに襲い掛かる。
そしてその一体がやられそうな所で、また残りの二体が邪魔をする。
ブルールはどうしても倒し切ることはできないでいた。
そんな中、傷ついた一体はいつも通りまた回復を―――しなかった。
いや、できなかった。
ストンッという音と共に弱ったジャイアントマッシュの体に穴が空く。
するとジャイアントマッシュは完全に力尽き、倒れた。
『カンガ、お前がやったのか!?』
希望に満ち溢れた表情をしたブルール。
その目にはある武器を手に持った俺の姿が映っていることだろう。
ある武器とは、弓だ。
ジャイアントマッシュは一体が弱ると他の二体がカバーをする。
だから短剣を持った俺が助けに行ってもその二体に邪魔され、攻撃が当たらない。
だが、弓矢による攻撃は違う。
【器用】レベル最大の俺が放つ矢は正確に目標を捉える。
そしてその弾道は直線だけでなく、曲線を描くこともできる。
つまり、邪魔をする二体の頭上を飛び越え、直接弱った一匹に攻撃を当てることができたのだ。
ちなみに俺が作った弓矢は次の通りだ。
ウッドボウ+1
攻撃力 5+1
フワン大陸のありふれた木材から作られた弓。
良心的な値段なので、駆け出し冒険者によく愛用される。
ウッドアロー+1
攻撃力 3+1
フワン大陸のありふれた木材から作られた矢。
良心的な値段なので、駆け出し冒険者によく愛用される。
ただし使い捨てにすると出費がかさむので、大切に使うようにしよう。
あまり強く作ってはいない。
むしろあえて強くならないように作った。
矢なんて基本的に使い捨てな上、それが目にもつく。
だから良いものを作って目立たせたくないんだよな。
いちいち打った矢を毎回拾いに行くなんてことしたくないし。
悪いな、【観察】さん。
そういう矢の特性から、俺にとって使い勝手良くするためにはありふれたものにする必要があったのだ。
ありふれた矢であれば、わざわざ回収しなくても不審に思われないだろう。
余計な心配をせずに気軽に打つことができるということが大きい。
それにブルールが削りきれなかった分だけのダメージを与えれば十分だ。
だからこの弱い弓矢でも十分間に合っている。
処分が楽になるし、弱い弓矢一択なんだよな。
俺のこの矢による攻撃によって戦局は一気に傾いた。
ブルールの攻撃を受け、ダメージを受けるジャイアントマッシュ。
そしてとどめを刺そうとするブルール。
それを邪魔しようとするジャイアントマッシュは2体から1体へと減った。
ブルールは邪魔をするジャイアントマッシュを振り切る。
ブルールが弱った方へと追撃を加えることに成功し、とどめを刺すことができた。
残った一匹はこの状況に焦ったのか、ブルールに一気に襲い掛かる。
だが一対一でブルールが負けるはずもない。
ブルールは真正面からジャイアントマッシュを切り刻み、あっさりと倒した。
こうして俺達はジャイアントマッシュとの戦いに見事勝利することができた。
ブルールがジャイアントマッシュを倒したのを見届けた俺は木から降りた。
そしてブルールがそんな俺に近づいてくる。
『ありがとな、カンガ。なんだかんだ言っても助けてくれるのを信じていたぞ』
『あまりにお前がもたもたしているから見ていられなくなっただけだ』
『手厳しいな。だがでもそれも事実だから受け入れよう。日々、精進だな』
俺の言葉を素直に受け入れるブルール。
あれっ、コイツ、こんなキャラだったっけ?
何か調子狂っちゃうんだけど。
俺が一方的に性格悪い奴になっちゃってない?
大丈夫?
というかもともと悪いのはブルールだよな?
そうだよな?
ちょっと悪い気もするので少しブルールに感謝の意を示しておくか。
『ブルールがいなかったらあの場を切り抜けられなかった、ありがとう』
『お世辞はよせ。お前だったらあの程度の敵、一人であっさり倒せただろう。それより、早くこの森から出るぞ。他にもあいつがいないとも限らないしな』
『ああ、そうだな。もうそんな戦いになるのはごめんだよな』
俺だったら一人でもあの三体のジャイアントマッシュを倒せただって?
まさかぁ。
ブルールでも苦戦する奴だぞ。
あり得ないって。
ブルールが削りきれなかった分の体力を削るだけで精一杯だよ?
所詮、か弱いゴブリンの赤ん坊だしな、俺。
そんなに過大評価されても困る。
ブルールの悪い癖だよな。
本当に。
それよりブルールの言う通り、早くここから出た方がいいな。
ジャイアントマッシュの仲間がいたらまた足止めを食らっちまう。
そんなんで永遠と戦い続けるなんて俺はごめんだぞ。
俺はブルールの背にのって、再び移動を開始した。
それからは順調だった。
ほとんど魔物と遭遇することもなかったし、もし遭遇しても襲ってこなかった。
なので戦わずにあっさりと森を抜けることができた。
森を抜けるとそこには岩肌が露出したゴツゴツとした地面が広がっていた。
植物は所々、まばらに存在する位で、石や岩が地面にそこら中に転がっている。
俺は確かに森林地帯を抜け、山岳地帯へと突入したようだった。
『無事ここまで来れたな。時間も時間だし、ここで小休止しよう』
確か森を抜けたら一泊とか言っていたよな。
それがこの地点という訳か。
今はちょうど夜明けでブルールが寝る時間だし、休むタイミングもバッチリなんだろうな。
というか、今ってブルールの話の一泊追加プランの進行状況と重なる。
色々トラブルはあったが、このままいけば二泊までは追加しなくても良さそうだ。
ブルール、頑張ったんだな。
『よく頑張ったなブルール。俺が見張りしておくから、休んでいてもいいぞ』
『ああ、そのことなんだが。オレ、眠くないんだ。昨日夕方まで寝ちまったからな』
あ、そういえばそうだったな。
俺の料理を食べたブルールは昼間ずっと寝ていたんだっけ。
それじゃ眠くならなくてもおかしくないよな。
『だからさ。また料理作ってくれよ。とびきり美味いものをさ』
えー。
それだとまた昨日の二の舞になりそうで怖いんですけど。
あんな思い、もう勘弁だからな。
とはいえ、俺自身もそれなりに腹が減っているのも事実。
仕方ない。
作るとするか。
だが、ブルールにこれだけは言っておかなければ。
『ブルール、作ってもいいが、一つだけ約束してくれないか?』
『ん? なんだ? なんでもいう事を聞くぞ?』
『お前分を俺分の二倍は作る。だからそれで我慢してくれ。あんな思いをするのはもうこりごりだ』
『二倍だけだと!? あっ、まあ迷惑をかけたのは事実だしな。辛抱するとしよう』
『よし、いい子だ。じゃあ準備してくるとするか』
俺は前に【料理】したときと同様の準備を行った。
木の破片を集め、フライパンや皿を用意する。
マッチは持ち運んでいるのでそれを使う。
そして今回の食材はどうだろう?
ブルールに食材選びは任せてあるけど。
『待たせたな。これを使ってできないか?』
そう言ってブルールが持ってきたのは、あのジャイアントマッシュの破片だった。
え?
コイツを食うの?
というか、コイツ、食えるの?
【観察】さんを使ったときに食用という文字は見当たらなかったけど。
俺、どうなっても知らないぞ?
ゴブリン生活六日目終了時のステータス
カンガ【ベビーゴブリン】 LVMAX
HP 50/50
MP 15/15
攻撃力 10(+530)
防御力 10(+720)
魔法攻撃力 10
魔法防御力 10(+720)
素早さ 10(+530)
スキル
観察lv5、考察lv?、隠密lv6、猛毒耐性lv1、暗視lv8、耐震lv1、恐怖耐性lv1、採掘lv20、器用lvMAX、根性lv5、調合lv26、加工lv20、細工lv10、束縛耐性lv1、合成lv1、料理lv20、念話lv3
特殊スキル
採掘の極意、採掘の極意Ⅱ、調合の極意、調合の極意Ⅱ、加工の極意、加工の極意Ⅱ、細工の極意、料理の極意、料理の極意Ⅱ、職人の神、名付ける者
五日目(十七話)からの変更点
観察lv4→5にアップ。
合成lv1の獲得。
料理lv20の獲得。
料理の極意の獲得。
料理の極意Ⅱの獲得。




