222.管理体制に大きな見直しが必要なようです。
七話目。
ラストです。
「ここが閻魔様のお部屋です」
『うわぁ……』
地獄へと入り、そしてしばらく進んだ後、とある巨大な建物に入っていった俺とメリナ。
そんな中の一室である俺の部屋に今、たどり着いた所だ。
そしてその部屋を見れば、そこら中に散乱した紙、紙、紙!
閻魔大王用の椅子と机だからか、とっても大きな椅子と机には山積みになった書類の山が。
そしてそこに乗り切らなかった紙が床に散乱している。
……これ、一体何年分の書類が溜まっているんだよ?
『えっと、あまり聞きたくないんだが、この書類って何年分あるんだ?』
「そうですね……あまり数えてはいませんが、恐らく数千年分はあるかと」
『えっ……数千年分だと!? でもその割には少ないような気もするが。意外と閻魔の仕事って少なかったり?』
「……だといいですがね。実はあまりに書類が溜まってしまったので、古い書類は廃棄されてしまっているんですよ」
『えっ……そんなんでいいのか地獄!? それって本来しないといけない処理をしてないって事だろ、おいっ!?』
「そうですよ。ですけれどそれを処理できる権限のある方がいらっしゃらなかったですから私達にはどうしようもありませんから。ですから今の地獄は混沌状態なのです」
……ああ、これは予想以上に酷いな、おい。
書類が溜まっているだけではなく、処理をされずに廃棄されてしまったものがあるなんて事例初めて聞いたぞ、俺。
そして実際その弊害は地獄のあちこちで起きていて、地獄は混沌状態、と。
地獄なんだから混沌としていて不思議ではないんだろうが、それでもここはこれから長年俺達が住む世界になるんだ。
できるだけ過ごしやすい環境は作っていきたいよな。
『とりあえず、ここに溜まった書類から片付けていくか。ここにない書類の件はその後何とかするしかないだろうな』
「そうですね。私もそうしてもらうつもりでした。では、私はひとまずこれで。何か分からない事があったら一つ下の階にある私の部屋にたずねにいらっしゃってください」
『ああ、分かった。案内ご苦労様』
メリナはぺこりと軽くお辞儀をして、スタスタと自分の部屋へと戻っていった。
……さて、とりあえず一つ一つ片付けていくとするか。
まずは椅子に積み上がった書類を何とかしないとな。
山積みになった書類に椅子がとられてしまっているので、これじゃ座って作業すらできないからさ。
俺は書類を一枚手に取って、中身を確かめてみる。
えっと、どれどれ?
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閻魔城老朽化による改築の申請
閻魔城の第十五倉庫の老朽化が激しいので、改築を申請致します。
見積もりはおよそ5000万Z。
予想改築年数は1年。
詳細は添付資料にてご確認下さい。
ご許可をお願い致します。
担当 デルサ
財務長 ベステス
閻魔大王
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倉庫の老朽化による改築か。
えっと、よく分からないが、とりあえず許可しておけばいいんだな。
財務長のサインもあるし、多分やっておいた方が良いものなんだろう。
それじゃサインっと。
俺がササッと近くにあったペンでサインをし終えると、その瞬間、紙が消え去った。
どうやらこの申請書、全ての申請が通ると、その担当の者の手元へ行くようだ。
なかなか便利な紙だな、これ。
だけど、その性質上、最後の閻魔大王がサインしなければいつまで経っても申請は通らない、と。
……あっ、もしかしてこれって、そこに欠陥があったんじゃ?
だからこそ、閻魔がいない期間はずっと紙が放置され続けた、と。
…………うん、とりあえずとっとと進めよう。
俺はとりあえず片っ端からサインをし続けて、書類の数を減らした。
頑張ってサインをし続けたおかげで、みるみるうちに部屋の中にある紙が減っていき、ついに部屋の中にある溜まっていた紙は全てなくなった。
……うん、何だかスッキリ。
途中から中身を大して見てなかったけど、他の財務担当とかがサインしてあったし、きっとそのまま通しても大丈夫なものなんだろう。
だから俺はとりあえずひたすらサインをするだけ。
だって、地獄の財務の基準とかよく分からねえもん。
そんな状態でいきなり仕事しろと言われても、なぁ?
俺が部屋の椅子に座ってくつろいでいると、扉を開けて秘書のメリナが入ってきた。
「閻魔様、例のお仲間がいらっしゃいましたよ。……あれ、ここにあった書類の山は?」
『ああ、それな、全部サインして片付けておいたぞ』
「……あっ、やっぱりそうなりますよね」
『もしかしてサインしない方が良いのも混じっていたとか?』
「……正直言いますと、その通りです。ですが、これは必要経費としてみておきましょう。仕事を放置していたここのみんなや教えなかった私も悪いんですから。もし上手くいかなければ私が力ずくで何とかしますから」
力ずくで何とかするって、とても秘書の言葉とは思えないんだが……。
この地獄のお金回り、何だかとっても心配。
もしかして踏み倒しとかそういうのを平気でやっているのではなかろうか。
……とりあえずは仲間に会う事にするか。
今は仕事の事は考えない。
うん、考えないようにしよう。
俺はそれからメリナについて行き、とある客間に入る事になった。
するとその中には――
「あっ、カンガ。やっと会えたわね!」
ケロマをはじめとするみんなが部屋の中で座って待っていた。
みんな、元気そうで何よりだな。
『おお、みんな元気そうで何よりだ』
「カンガもね。正直ここに来るまでの様子を見ていたら、本当にカンガ大丈夫かなって心配になったもん……」
『えっ、それってどういう事だ?』
ケロマによれば、とある地獄の施設から脱走していた囚人がいたのだという。
それもあちこち至る所で。
えっ?
そんな状況になっているの、今?
『メリナ、それって本当なのか?』
「はい……。閻魔様の許可が下りない影響で地獄中の施設が老朽化で建物が弱ったり、使えなくなったりして、囚人が脱走するケースが増えているんです」
『おい……それってまずくないか?』
「まずいですね。でもかれこれ百年弱はこのような状況なので、もう慣れました。今や後方支援担当だった私もそこらへんの囚人になら負けない程の強さを持つまでに成長しましたし!」
そう言ってメガネをくいっとあげて威張るメリナ。
いや、そこ、威張る所じゃないから。
「何だか大変な事になっていそうね……。えっと、何か私達が担当できそうな仕事があったら手伝うけど……」
「あっ、それならですね……財務長、人事部長、衛生部長、総務部長、治安部長、企画部長、物流部長などはどうでしょう?」
『えっ!? まさかそれって、その役職全部が空席ってことじゃねえだろうな、おいっ!?』
「あっ、えっと、実はそうなんです。かつてはいたんですが、皆さん辞められてしまって……。何といっても今いる役職付きの人材は閻魔様と私しかいない状態ですから……」
俺とメリナだけって……ええっ!?
それはつまり、今まではメリナ一人で頑張ってきていたっていうのかよ!?
そりゃあ、仕事が回らない訳だわ……。
地獄全域の仕事がここに降ってくるというのにメリナ一人でさばききれる訳ないだろう……。
「やっぱり大変そうね。なら、私は企画部長をやるわ。色々と企画して地獄を盛り上げればいいのよね?」
『オレは衛生部長だな。鼻が利くし、汚い所は徹底的に綺麗にするよう指導すればいいんだろ?』
そんな感じでみんなはそれぞれ役職につくことになった。
ちなみに財務長へクシア、人事部長ターニャ、衛生部長ブルール、総務部長スーフォス、治安部長グリザー、企画部長ケロマ、物流部長ガルサールに決定。
『すまないな、みんな。せっかくここまで来てくれたのに苦労かける事になってしまって』
「いいのよ、別に。むしろゼロからやり直すって感じでいいじゃない。ある意味私達の努力次第でどれだけここを良くできるか見ものじゃないの!」
「ケロマさんの言う通りです。大丈夫、私達ならできます。カンガ様、やってほしい事があったらどんどん言って下さいね!」
『ゼロから始めるというよりもマイナスから始めるといった方が正しそうじゃがのぉ……。まあ、当分退屈はしないようで何よりじゃわい』
『オレはカンガの料理が食えればそれでいい。食った分はしっかりと働くから心配すんな!』
『大変な分だけ、カンガ殿に恩返しができる……。ここは、頑張り所だな。拙者の日頃の鍛錬がついに役に立つ時が来たか!』
『ふふ、皆さんお元気そうで何よりです。私達も皆さんに負けていられませんね。ねえ、あなた?』
『ああ、そうだな。カンガの親として少しは頼りになる所を見せてやらないとな。へクシア、共に頑張ろう!』
これからは想像を絶するほどのトラブル、そして仕事量が待ち構えているだろう。
にも関わらず、みんなの表情はにこやかであった。
どんな苦労だって、この仲間達と一緒ならば、きっと乗り越えていける。
そういった確信みたいなものがきっとみんなそれぞれにあるのかもしれない。
かくいう俺だってその一人なのだから。
『それじゃみんな……これから共に地獄へ行こうじゃないか! そしてこの最悪な状況を立て直すという地獄の仕事を今から始めよう!』
俺の発言を聞いて、みんなは黙ってうなづく。
どうやらみんなやる気十分なようだな。
よし……それじゃこれから頑張ってやっていくとしますか!
こうして俺達は力を合わせ、全く管理体制のなっていない地獄を立て直す為に奮闘していくのだった!
これにてカンガ達の物語は完結です。
なかなか書けない期間もありましたが、何とか書ききる事ができてほっとしています。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました!




