22.隠し事を見抜いてみました。
『カンガ、起きてくれ!』
突然、ブルールが強烈な念を飛ばしてきた。
そんなに強く念じるなよ。
びっくりするだろ。
俺は眠い目をこすりながら辺りを見渡す。
すると周囲には巨大なキノコが複数動いているのが見えた。
え?
キノコが動いているだと?
マジか。
とりあえず訳分からなかったら【観察】だな。
ジャイアントマッシュ
森の中にあるキノコが突然変異で怪物化した生物。
普段は大人しく、こちらを襲ってはこない。
非常に執念深く、一度敵意を持たれた者はどこまでも追跡される。
普段は大人しく、こちらを襲ってはこない、か。
それなら安心だな。
えっ?
でも明らかにコイツら俺達に向かって襲ってきているよな。
一体何があったんだ?
『なあ、ブルール。どうしてあのキノコが襲ってきているんだ?』
『ああ、そのことか。なんか近くを通りかかったら急に襲い掛かってきてな』
急に襲い掛かってくる?
【観察】さんが言っていることと違うな?
どういうことだ?
何かの間違いかもしれないので俺はもう一度後ろを振り返る。
だが、そこにはやはり俺達を追いかけてくるジャイアントマッシュの姿があった。
その数、恐らく三匹。
視認できる範囲で三匹なので他にいることも否定はできない。
だが、周囲に【観察】をかけても反応がないから恐らく三匹以外はいないとは思うけどな。
【観察】さんによれば、普段のジャイアントマッシュはおとなしいやつらしい。
近くを通りかかっただけでそんなやつらが本当に襲ってくるのか?
何か腑に落ちないんだよな。
そう思った俺が前を見ると、ふとある物が目に入った。
ブルールの口元。
そこにキノコの食べカスがくっついていた。
一応【観察】をかけてみる。
プチマッシュ
フワン大陸の森林地帯に生息するキノコ。
プチプチした食感は癖になり、食用としても重宝される。
しかし、これを取ろうとするともれなくジャイアントマッシュに狙われ、どこまでも襲われる。
そのため、手に入れるまでの労力がかかり、価格もかなり高価である。
……ブルール、全くお前って奴は。
『オレは逃げるので精一杯だ。だからカンガがあのキノコに何か攻撃してくれ』
ブルールはそう俺に言う。
だが、俺には全くそうする気が起きない。
このキノコの襲撃はブルールの行動が原因となっていることは間違いないだろう。
もしブルールがプチマッシュを食べてさえいなければ、こんな状況にはならなかった。
だからこの件に関してはブルールだけで片付けてほしいんだよな。
俺には関係ないし。
『どうした、カンガ。返事をしてくれ』
『ブルール、俺に何か言う事はないか?』
『え? 何のことを言って―――』
『プチマッシュ。食っただろ?』
その瞬間、ブルールは急停止した。
その影響で俺の体は大きく揺すられ、危うく投げ出されそうになる。
おい、急に止まるなよ。
危ないだろ。
『なぜそのことをカンガは知っているんだ? 寝ていたはずなんだが。睡眠状態だったのは確認済みなんだが……』
コイツ、俺に【観察】を使ってたな?
【観察】を使って俺の睡眠状態をチェックしてからプチマッシュを食っていたのか。
俺に気付かれないように。
なんて奴だ。
ますます腹が立ってきた。
『これはどう考えてもブルールが悪い。だからこのことは自分で解決してくれ。俺は遠くから見ているから。じゃあな』
『お、おい! オレを見捨てる気か、カンガ!?』
謝りもせずによく言うよ、全く。
俺はブルールから降りて、近くにある木の上へと昇った。
停止していたブルールの元にはすぐそばにジャイアントマッシュが押し寄せてきている。
ブルールは俺の方をチラリと見てから、ジャイアントマッシュからの逃走をはかった。
まあ、せいぜい頑張って俺を楽しませてくれや。
俺に黙って勝手にプチマッシュを食った罰だ。
それにブルールならきっと一匹でも勝てるだろう。
あいつ結構強いからな。
ちなみに俺が傍観を決めた理由は、ジャイアントマッシュが俺を襲ってこないと判断したからだ。
ジャイアントマッシュはプチマッシュを食った相手を追いかける。
だからプチマッシュを食っていない俺は標的にはなり得ないのだ。
ジャイアントマッシュが狙うのはプチマッシュを食ったブルールのみ。
俺はブルールから離れさえすれば、追いかけられることはなくなる。
絶対確信を持っていた訳ではないけどな。
でも実際そうなっているから、この仮説は合っていたのだろう。
もし実際はそうではなく、俺も標的対象になっていたらそのときはそのときだ。
そうしたらブルールと連携して戦えばいいだけの話。
という訳だから、ブルール、頑張ってくれよ。
自分の後始末は自分でやってくれな。
……俺も性格悪いな。
もし万が一ブルールが危なそうだったら助けてやるか。
もっとも、ブルールが倒せない相手を俺なんかが倒せるとは思わないけどな。
三体のジャイアントマッシュに囲まれたブルールは逃走を諦め、対決姿勢をとった。
さて、ブルールのお手並み拝見といこうか。
複数の魔物を相手にしても一匹で勝ち抜いてきた、そのお手並みをな。
ちなみにジャイアントマッシュの強さはどうなんだろう?
最初に【観察】したときはなぜか道具みたいな表記をされたが、どうしてなんだろうな?
とりあえずもう一回【観察】してみるか。
ジャイアントマッシュlv12
HP 89
MP 102
ステータス 不明
スキル 不明
今度は魔物としての表記だな。
というか、実は今の【観察】さんって種族の説明もしてくれるのか?
俺が今まで気づかなかっただけで。
そういえばもう【観察】もlv5まで上がっているもんな。
できなかったことができるようになっていてもおかしくない。
ちょっと俺自身でも試してみるか。
ベビーゴブリン
フワン大陸の一部地域に住む亜人の赤子。
成長は比較的早く、一年程で成体になると言われている。
戦闘力はほぼない。
成体になるまでは集落の中で保護されているため、まず集落外で見かけることはないだろう。
お、見れた。
やっぱりステータス以外の情報も見れるようになったみたいだ。
こりゃ便利だな。
というか、ベビーゴブリンって集落に住むのか。
いや、普通そうだよな。
赤ん坊だもんな。
自分じゃ何もできないだろう、普通。
そういえばどうして俺はこの世界に来たばかりの時、あんな道端にいたんだろうな?
親らしきゴブリンはオオカミに食われちまったが、その前から既に死んでいたようだったし。
多分ガリガリに痩せていたから、死因は餓死だろうな。
そう考えると、俺は何かしら集落にいられない事情のあるゴブリンの家庭に生まれちまったのかもしれないな。
それは俺にとって幸運だったのか?
それとも不運だったのか?
まあ、幸運はないわな。
だって俺、何度も死にかけたし。
今だって安全とは言い切れないしさ。
今は旅を楽しむ位の余裕があるから全然いいんだけどな。
ゴブリンの村にいなくてもいいという点だけは幸運かもしれないな。
だってこうやって自分のしたいように自由に生きられるし。
村の掟みたいなものに全く縛られないから良いよな。
その分生きること自体が自己責任にはなるが。
おや?
ブルールが動いたようだぞ。
目で追うのもやっとのスピードでキノコのそばまで移動していく。
キノコは何かの胞子を出すが、ブルールはそれをあっさりと避ける。
そしてキノコを爪で切り裂いた。
ブルールから受けたダメージは大きかったようで、攻撃を受けたキノコは思わず倒れる。
そして身動きがとれなさそうだ。
いや、あれは【バインド】を受けているのか。
ブルールが爪攻撃と同時に【バインド】の魔法をかけたんだろうな。
結構えげつないな。
そんなキノコに対し、ブルールはとどめを刺そうとする。
だが、他の二体のキノコがブルールの前に立ちはだかり、ブルールの邪魔をして近づかせない。
するとその間に、ダメージを受けたジャイアントマッシュの体が光る。
そして全く傷のないジャイアントマッシュの姿が現れた。
あのキノコ、回復魔法を使ったのか?
いや、再生したというべきか。
あの再生スピードからすると、一瞬でも時間を空けるとすぐ全回復してきそうだな。
なかなか厄介な相手みたいだ。




