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ゴブリン、頑張って生きる。  作者: はちみやなつき
Ⅷ 未来に希望を求めて
215/222

215.できる事は全てやりきりました。

ケロマ視点です。

 私はブルールとグリザーの協力を取り付け、今度はターニャに部屋に来てもらう事にした。

 そして先程のように事情を話そうとしたんだけど、その途中で――



「……なるほど、これからそんな恐ろしい事になるのですね」

「ええ。それはどのような未来であろうとそうなるらしいのよ」

「私がカンガ様を傷つける事になるのならいっそのこと……!」

「ああー、それだけは止めて! そうしたら計画がうまくいかなくなるみたいだから! 計画にはまだ続きがあるの!」

「えっ、そうなのですか? てっきり私がそうなる前に命を落としておけば解決する問題かと」

「それじゃ何の解決にならないわよ。それにそんな事をしたらターニャ、確実に地獄行きよ? それにとっても重い罪を背負った者としての過酷な労働が待ち受けている地獄に」

「……それは確かに嫌ですね。続きを聞いてもよろしいですか?」

「いい? よく聞いてね?」



 ちょっと心を取り乱したターニャだったけど、計画の全容を聞いた後はだいぶ落ち着いていたようだった。



「……どう? 協力してくれる?」

「もちろんです。それにそういう事になれば、私はカンガ様を傷つけずに済みますし、それにこれからもカンガ様のお役に立つ事もできます。是非、協力させてください!」



 まあ、ターニャはカンガを傷つけたくないという事が第一優先だったみたいだから、自らがカンガに傷をつけずに済むかもしれないこの計画はすぐに飲み込めたんでしょう。

 という事で、ターニャにも例の事をしてもらって、次は賢者スーフォスさんの番ね。


 スーさんは自分の部屋にいるみたいだったので、私は部屋をノックしてから中に入れてもらう事になった。



「……お主がワシに用があるなんて珍しいの」

「そうですね。実はスーさんに話があってきたんです」

「ほう、ワシに話とな? ちょっと聞かせてもらっても良いかの?」

「はい。ですが、この話はカンガに聞かれるとまずいので、それだけご了承いただいてもよろしいですか?」

「何か訳ありのようじゃな。よかろう。ワシは口がかたい方じゃからな。約束しよう」



 私はスーさんに計画について話した。

 するとスーさんは興味深そうに何度もうなづく。



「スーさんにとっては正直カンガとのつながりは薄いかもしれないんですけど……ですが、どうか協力いただけないかなと」

「なるほどのぉ。万が一、ワシが断ると言ったらお主はどうする?」

「……そうしたら、スーさんが了承するまで、頑張って説得します。何か条件があるのなら、それも出来る限り全力で達成してみせます」

「……お主の気持ちは本気のようじゃな。よかろう。ワシもお主に協力しよう」



 そう言ってフフッと笑みをこぼすスーさん。

 何か私、おかしな事を言ったかしら?



「どうしたんですか、スーさん?」

「いや、何でもない。あの神はみんなにとても愛されておるんじゃなと思ってな。まあワシもその中の一人になりつつあるんじゃろうが」

「そうなんですか?」

「うむ。何しろあの者からはワシにとって未知な事をたくさん学ばせてくれる。知識欲の塊であるワシにとってはまさに理想的な環境じゃ。そんな場にこれからもいられるのであれば、多少の苦労は苦にならないわい」



 ……スーさんも何だかんだいって、カンガの仲間になっていたのね。

 まだ一緒に過ごし始めてそんなに経っていないけど、でもそんなスーさんですら、一緒にいたいと思える。

 そんな魅力がカンガにはあるみたいね。



「ケロマ殿、それでその計画を成功させる為にワシは何をすれば良いのじゃ?」

「あっ、それはですね。私の部屋にまず来て頂いて、それから――」



 一連の流れを説明した私はスーさんに私の部屋まで来てもらい、そして例の事をしてもらった。

 さて、これで残るはへクシアさんとガルサールさんの二人ね。

 私がへクシアさんとガルサールさんの部屋に向かい、二人に私の部屋まで来てほしいと伝えると、すぐにうなづいてくれた。


 そして私の部屋についてから、話を始める。



『ケロマさん、何か未来に向けてやるべきことをみつけたようですね』

「はい。そしてそのやるべき事はカンガにメッセージを送る事なんです。みんなの正直な思いをカンガにぶつける。それが仲間思いのカンガに一番効果的かなと思いまして」

『確かにカンガならそれが一番心に響きそうだな。それで、今度は私達の番という事だね?』

「はい、その通りなんです。あと残るはお二人と、それと私の三人だけです。これで、全ての準備は完了します」

『なるほどね。なら、私達も頑張ってカンガにメッセージを送らないと。あなた、カンガに送るメッセージは決めた?』

『うーん、もうちょっと考えさせてくれ。とっても大事なシーンで流れる言葉だろうから、慎重に言葉を選ばないと……』

『そんなに思い悩んだらかえって言葉が出なくなるわよ。こういうのは取り繕った言葉よりも自分の素直な言葉を伝えた方が心に染みるものなんだから』

『そ、そうか……それなら、ちょっとやってみるか。ケロマさん、これは失敗したらやり直しはきくのかい?』

「できないことはないですよ。ですから安心して下さい」

『なるほど。それなら安心だな。なら早速やってみるとするか、へクシア』

『ええ、あなた』



 それからへクシアさんとガルサールさんにメッセージを残してもらい、そして部屋まで帰ってもらった。

 これで後は私がメッセージを残せば、完了ね。

 さて、どんな言葉を残そうか――。






 その日の夜。

 夕食をとり終え、そしてしばらく経ってみんな寝静まった時の事。

 私は外に出て、住処の入口付近で待っていた。

 もちろん気配を偽装して。


 その時間はとても長く感じられた。

 でも一方でずっとこのままこの時間が続けば良いのにとも思えてきた。

 これから行う作戦が成功する確率はとても低い。

 万が一失敗したら、二度とカンガには会えなくなる。

 そんな事を思うと、運命の時が来るのが怖いのよね。


 だけど無情にもその時間は訪れる。

 カンガが住処から外へ出てきたのだ。


 私は意を決して、カンガの元へ近付いて行った。



「カンガ!」

『……!? ケロマ!? 何でこんな所に!?』

「カンガ、これから決戦に行くのよね? それなら、これを持って行って」



 そう言った私はカンガに小さな緑色の球体を渡した。



『何だこれは?』

「……今は秘密。だけど、もしカンガがどうしようもない、絶望的な状況に陥ったら、この球を壊してみて。そうしたらきっとあなたの助けになると思うから」

『……俺の助けになる、か。よく分からないが、とりあえず預かっておこう。それにしてもここで待ち伏せとは、この事をケロマは分かっていたのか?』

「……本当にゴメン。だけどこれは必要な事だったの。そして、カンガ、必ず生きてね。死なないでね。私、カンガが死んじゃう事が一番嫌だから……!!」



 私はそう叫ぶと、思わず涙が頬を伝った。

 あれっ?

 私、泣くつもりなんてなかったんだけどな……?



『……分かったよ。俺は死なない。必ず生きて、みんなの元に帰ってくる。それでいいな?』

「……うん。そうなったら嬉しい。ありがとう、カンガ。そして、いってらっしゃい」

『ああ、行ってくる。ケロマ達は住処で待っていてくれ。フリじゃなくて、絶対についてくるんじゃないぞ? もしついてきたら、俺も戦いに全力を出せなくなるからな』

「うん、分かってる。私も、そしてみんなも住処で待ってるから安心して」

『ありがとな、ケロマ。それじゃちょっとだけ辛抱、よろしくな』



 そう言うとカンガは雲を作り出して、その雲に乗って遠くの方へ消え去っていく。

 ……私達の思い、カンガに伝わるかな?

 期待と不安が入り混じった感情を持ちながら、私はどんどん小さくなっていくカンガをずっとみつめるのだった。








『お疲れ様でした、ケロマさん』



 住処に帰った私をみんなが出迎えてくれた。

 ちなみにカンガが旅立ちやすいように、他のみんなには寝たふりをしてもらっていたりした。

 そしてカンガが旅だった今、みんなが居間に集まったという訳ね。



「……無事、例の物はカンガに渡せたわよ」

『それは良かった。後はその時を待つだけだな』

「……カンガ様に私の言葉は届くでしょうか?」

「心配はいらぬよ。カンガ殿ならきっと聞き届けてくれる。あの者は超がつくほどの仲間思いじゃからの」

『カンガ殿は今頃何を考えているのだろうか? 何だかだましたようでちょっと気まずかったな』

『すまない、グリザーさん。それに皆さん。このような形で巻き込んでしまって』



 そう言って謝るガルサールさん、あとへクシアさん。

 だけどその二人を責める者は誰もおらず、むしろ二人に感謝する声が目立った。


 それからしばらく私達はみんなと一緒に居間でゆっくりと過ごした。

 その時が来るのを待つ為に。

 そして恐らく数時間ほど経過した頃、ついにその時が来る。

 何て言っても、突然私達の体が白く輝きだしたのだから。



『どうやらその時が来たようです』

『こうなる事は分かっていた。問題なのはその後どうなるか、だ』

「死ぬのは怖いけど……でもそれ以上に苦しむカンガの顔を見るのが怖いわ、私」

「私もです、ケロマさん。もし操られた私がカンガ様を殺す事を想像すると……本当に寒気がします」

『大丈夫だ、カンガならきっと分かってくれる。何よりもオレ達の事を考えてくれるような奴だからな』

『ブルール殿の言う通りだ。拙者達にできる事はただそんなカンガ殿を信じて待つだけ。カンガ殿がそのような決意をする為の最大限のサポートはみんなで既にやりきったのだからな』

「うん、グリザーの言う通りね。私達にできる事はやった。きっとこの後は何も私達に行動させてはもらえないでしょう。だから後はカンガを信じて祈る事しかできないでしょうね」

「そうですね。ならば、祈りましょう。私達が信じる主、風神カンガ様、雷神カンガ様に」



 ターニャがそう言ってから、みんなは目を閉じてカンガに祈る。

 そしてその時を境に、私達の意識はしばらく途絶える事になった。

明日、最終話までの七話投稿予定です。

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