202.住処を増築しました。
『正直この部屋に八人が住むのは厳しいな。ちょっと増築しようかと思う』
「……そうね。実は私も薄々みんなで住むには狭いと思っていたのよ」
『そうだな。久しぶりにオレ達で増築、しちまうか?』
『ああ、それは良い。拙者の腕がなるな』
そう言って張り切るブルール達。
一方でターニャは申し訳なさそうな表情をしていて。
「すいません、カンガ様。私が来たばっかりに余計な手間をおかけしてしまって……」
『ああ、別にいいんだ。良い暇つぶしにもなるしな。あと、こういう作業は何度かやっているが、意外と楽しいんだよ。完成に向かってみんなで一丸となって頑張るその感じが楽しくってさ!』
俺がそう言うときょとんとするターニャ。
そして少しすると、ターニャはやる気に満ちたような表情になって。
「私も手伝いますよ、カンガ様! 私も皆さんのお役に立ちたいです!」
『おお、手伝ってくれるのか! それは心強い!』
『ワシも手伝うぞ、カンガ殿。賢者であるワシの力があれば、百人力じゃろう?』
『私も手伝うぞ、カンガ。こういう共同作業をするって何だか楽しそうだしな』
『私も手伝うわよ。ふふっ、こういう事をするのって、ゴブリンの村のみんなと穴掘りをして以来かしら。何か楽しそうよね』
という事で、みんな増築作業を手伝ってくれる事になった。
今回はかなりの人手があるので、せっかくだし、色々部屋を作ってみるか。
まずはみんなで過ごす居間の広さを拡張する。
今の広さの倍、四十畳ほどになるようにみんなで頑張って壁を削り、整地しておいた。
さすがにここまで広ければ八人いても狭くは感じないだろうな。
居間を整地し終えたら、続いてはみんなの部屋作りに取り掛かる。
こちらは一人一人が過ごす用の部屋だから十畳もあれば十分だろう。
という事で、こちらはさほどかかることもなく一つの部屋を作り終え、それを合計八回繰り返した。
こうして住処は完成。
あっ、ちなみに浴室に関してはまだ再利用できそうだったので、そのまま使う事に。
かつての俺達の個人部屋は広がった居間に飲み込まれるような形になったので、なくなってしまったが、新しく部屋は作ったし、別にいいだろう。
正直、こういった部屋には嫌な思い出があるからな……。
そう思ってちらりとケロマの方を見る俺。
するとケロマはきょとんとしていて、どうしたのとでも言うかのような表情をしている。
「どうしたの、カンガ?」
『あー、ちょっと嫌な思い出を思い出しちまってな。それも、もうだいぶ前の事になるんだなと思ってさ』
「……あ、あれはちょっと私もどうかしていたと思うわ。あの時の私の頭はお花畑だったから」
『それを自分で言うか、フツー?』
「それだけカンガに出会えた事が嬉しかったっていうこと! ただ、その感情が抑えきれなくてあんな事をしてしまったのは悪かったと思ってる。本当にごめん……」
『あっ、いや、もう終わったことだし気にしてねーよ。まあそんな過去もあったなと思ってさ。今ではそんな事も良い思い出だ』
まあ、良くはないんだけどな。
それはともかく、ケロマはあの後から改心して、変な事はしなくなったし、仲間の為に命懸けで頑張ってくれていたしな。
今では立派な頼れる仲間の内の一人だ。
『カンガ殿、これはどうやって作ったのじゃ?』
『ああ、これはまず細菌を生物の起源まで戻して――』
『……ううむ、難しくてよく理解出来ぬのじゃ。もっと簡単な言葉に言い換えられないかの?』
『うーん、そう言われてもな……』
賢者は俺が先程鑑賞用として作った生け花の作り方について聞いてきた。
俺はいつも通り説明しようとするも、どうやら賢者にうまく伝わっていないらしい。
「フフフ……カンガ、どうやらうまく言葉に出来なくてお困りのようね……」
『ああ、そうなんだよな。正直感覚で色々やっちゃっているから、改めて言葉にして説明するっていうのがなかなか上手くいかなくてな』
「そんなお困りのカンガにはこれよ!」
ジャーン!
そんな効果音が流れていそうな感じでケロマが見せてきたのは黄色い球形の機械。
一体何なんだ、これは?
『これは何なんだ、ケロマ?』
「フフフ、聞いて驚かないでよ? これは神様の心の声を聞くことの出来る奇跡の機械! その名も神の御言葉くん1! これを使えば神様の心の声、つまり風神カンガ様の心の声だって聞く事が出来るの!」
……は?
何言ってんだ、コイツ?
さっきケロマが変な事をしなくなったという俺の言葉、やっぱり取り消しだ。
ケロマはやっぱりケロマだったという事だな……。
人の本質はそう簡単に変わるものじゃないよな、うん。
俺の考えが甘かった。
『おお! そんな事が出来るのかケロマ殿!? カンガ殿、よろしければ少し試させてもらえないですかな!? これを使えばうまくいけばカンガ殿の仰る意味が分かるかもしれぬ!』
うわぁ、賢者もノリノリなんですけど。
仕方ない、ここは協力してやるとするか。
この機械の性能は神の叡智でも分からないらしいからな。
ちょっと俺も興味なくはないし、いざとなったら破壊すれば良いだけだから、特に問題になる事はないだろう、きっと。




