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ゴブリン、頑張って生きる。  作者: はちみやなつき
Ⅵ 真相を求めて
178/222

178.デュラスの記憶は飛んでいたようです。

「えっと……周りに色んな人達がいるようだが……」

『あっ、この人達は、オレの仲間だから心配しなくてもいい。デュラスとしばらく会わない間に色々あってな』

「しばらく……という事は、だいぶ時間が経っていたのか。俺にとってはお前を逃したのがつい先程のように思えるんだけどな。あれからどれ位経ったんだ?」

『そうだな。軽く一年は経つだろうな。いや、下手したら二年か』

「二年!? というか、二年も俺は気絶していたのか。そりゃ、お前だって心配するよな……。心配かけてすまなかったな」



 そう言って申し訳なさそうにするデュラス。

 別にデュラスが悪い訳ではないんだから、そんな表情をする必要はないんだろうけどな。

 きっと仲間思いの優しい人なんだろうな、デュラスは。



『そう言えばあれから何があったのか教えてくれないか、デュラス?』

「ああ、構わないぞ。とは言っても、そんなに覚えている事は少ないんだけどな。だって、ブルールを逃し切るまでドラゴンの注意を引いて、そしてドラゴンの攻撃に当たって気絶した事しか覚えていないんだからな。俺は正直その時に死んだと思った」

『……えっ?それだけなのか? 白い龍に何かされたとかそういう記憶は? あと魔物を召喚出来るようになった経緯とかは?』

「へっ、何だよ白い龍って? そんな奴は俺、知らねえぞ? それに俺が魔物を召喚出来るだって? そんな事ができたら魔物使いなんてやってないっての」



 ……へっ?

 それはつまり、今のデュラスはブルールの記憶にある通り、瞬間移動を使ったりも出来ないし、魔物を召喚する事できない、ただの魔物使いっていう訳か。

 どうやら先程までの記憶は完全にないみたいだ。


 先程の白い龍に関しては、ますます謎が深まるばかりだな……。



「うむ、どうやら先程の記憶は完全にないようじゃの」

「……えっと、あなたはどちら様でしょうか?」

「おお、そういえば自己紹介はまだじゃったの。ワシはスーフォスじゃ。スーさんとでも呼ぶと良い」

「……えっ? えっ? スーフォスって、あのスーフォス? 賢者スーフォスなのか!? で、でも見た目は若い男だし、賢者とは別人か」

「いや、ワシがそのスーフォスじゃよ。こうすれば分かるかな?」



 スーフォスは恐らくデュラスを認識阻害の対象から外した。

 すると、デュラスの顔が驚愕に包まれる。



「えっ……ガチで賢者様じゃねえかよ、おい!? お、おい、お前、これはどういう事なんだ、説明しろ!」

『お、落ち着けってデュラス。一から説明してやるからさ』



 そうしてブルールになだめられるデュラス。

 それからブルールがデュラスが目覚めるまでに何があったのかを伝えていた。



「……なるほどな。つまり、今のお前にはブルールという名前がある訳か。そして名付けたのがそこにいるカンガさん、と」

『そういう事だ。カンガは料理が美味いからな。それ目的でずっとついてきたらデュラスの事を聞いてな。それで助ける事になった訳だ』

「なるほどな。えっと、その料理ってどれだけ美味いんだ、ブルール?」

『もう今まで食べた中で一番といっても良いほど美味いぞ』

「そ、それは是非食べてみたいものだな! あっ、でもこんな所じゃ食べられないか……」



 そう言って周囲を見渡すデュラス。

 ここは鬱蒼と生い茂る深い森の中。

 昼の今でもだいぶ薄暗いし、正直食べ物を食べるような環境ではない。

 別にここで料理をする事は出来なくもないんだが、あまりそうする気は起きないよな。



『そうだな。だからとりあえずは森から出て街へ向かおう。そこでゆっくりと食べればいい』

「本当か!? で、でもどうやって森を抜ければ……。そもそもここってどこなんだ?本当に森を抜けられるのか?」

『それは心配ないだろう、なっ、みんな!?』



 ブルールがそう声をかけると、みんなが黙ってこくんとうなづく。

 そして森脱出の為にみんなは行動を起こし始めた。


 賢者が風の刃で周囲の木々を切り刻めば、グリザーがその倒れた木々を水の魔法で受け止める。

 そしてケロマが研究の謎の力を使って、その木々を整然と俺の前に並べ、俺がその木々を消滅させる。

 こうしてこの周辺には日が差す明るい空間の出来上がり。


 仕上げにターニャが人数分のペガサスを召喚して、お迎えもバッチリ。

 これにて森脱出の準備は完了っと。



 あっ、ちなみに木々を消滅したという表現は正確ではない。

 実際は木々を細工して、小さなチリに変化させたといった所か。

 チリがあまりに小さいから、周りには木々を消滅させたように映ったかもしれないが。



「えっ……ええーっ!?」



 あまりに一瞬に色々な事が起きたからか、デュラスは混乱した様子だ。

 まあ、まさか一分もしないうちに森脱出の目処が立つとは思わないよな。



『ほら、そういう事だ。さっさと街に向かおうぜ、デュラス』

「お、おう……」



 あっけにとられながらも、ペガサスに次々と乗って飛び立っていくみんなを見て、デュラスもペガサスに乗って飛び立つ。

 こうして、無事俺達のデュラス救出作戦は成功をおさめたのだった。

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