175.準備が整ったようです。
ペガサスで飛ぶこと30分。
俺達はメルデサーナ街へと到着した。
ちなみに例の川の巫女様の顔パスによって、見た目が若く見えるスーフォスが一緒に街の中に入っても何の問題もなかった。
この街の警備、本当に大丈夫か?
いや、トラブルなく出入りできるのは助かるんだけどさ。
……まあ、今の所平和だし、大丈夫なんだろうな、うん。
街の中を歩いていても特に騒ぎになる事はなく、そのまま宿屋の部屋までたどり着くことができた。
「あっカンガ、おかえり。……って、その男性はどちら様?」
部屋の中で作業をしていたケロマは、俺達と一緒に来た賢者を見て、不思議そうな顔をしている。
まあ、そりゃいきなり一緒に部屋に入ってくるなんて、不審に思うわな。
『この人は賢者スーフォスだ。騒ぎにならないように認識偽装をかけてもらっているから若く見えるかもしれないが。スーさん、この子に対しても魔法を解除してあげてくれないか?』
『了解じゃ。これで良いかの?』
「……あっ、確かにその顔、本で見た事がある! ……って、本当に賢者様と会えたのね、カンガ! しかも連れてくるなんて!?」
ケロマはひどく驚いている。
そりゃ、賢者に話を聞きに行くだけのつもりだったから、まさか賢者を連れてくるとは思わないよな。
別に俺も連れてくるつもりなんてさらさらなかったし。
『これはこれは驚かせてすまなかったの。カンガ殿、こちらの女性はお主のお仲間かな?』
『そうだ。ケロマというちょっと変わった女だ。まあ、何だかんだで頼りになる奴だよ』
「ちょっと!? 変わった女とか失礼ね!? あっ、私がケロマと申します。どうぞ、よろしくお願いします」
そう言うとぺこりと頭を下げるケロマ。
こうしていると普通なんだけどなぁ、ケロマって。
「ほっほっ。元気が良いようで何よりじゃ。それにしても特異種が二人か。とっても珍しいの……」
そう言ってブルールとグリザーの事をまじまじとみてくる賢者。
やはり賢者にとっても特異種は珍しい存在のようだ。
俺もブルール以外に青色のオオカミは見た事ないし、グリザー以外に緑色のリザードマンは見た事ないからな。
『そういえばケロマ、そちらの準備は終わったのか? もう少しで終わりそうとか言っていたが』
「ええ、つい先程終わった所よ。いつでも行けるわ」
どうやらケロマはデュラスの転移防止の為に必要な準備を終えたらしい。
なんだかんだで前にデュラスと会ってから二日は経っているからな。
まあ、ちょうど俺達の方も、ケロマ側も準備が整ったみたいだし、ちょうどいいか。
『準備が整ったのは良いんだが、後はデュラスがどこに出現するかだよな。それまではまた待機か……』
「えっ? 別に待つ必要ないわよ? もうデュラスがどこにいるのか分かってるし」
えっ、そうだったの?
そういえばケロマは一度直接デュラスに会えれば何とかって言ってた気がする。
もしかして、この前にデュラスを見た時に何かしら仕組んでいたのか、ケロマは。
『もしかして、例の追跡の能力を使ったのか?』
「そういうこと。しっかりと【研究】を使ってマーキングもしておいたから間違いないわ。みんなが準備できたら、すぐにでも出発できるけど、どうする?」
ケロマって直接デュラスに触れた訳じゃないのに、それでも追跡できるのか……。
ケロマは味方だからいいが、敵がそんな能力持っていたら厄介な事この上ないな。
ケロマの能力、実に恐ろしい。
『俺は大丈夫だ。ただ、ブルールが大丈夫かどうかだよな』
『……オレは大丈夫だ。覚悟は出来てる』
『だそうだ。他のみんなはどうだ?』
俺はみんなの顔を見渡す。
するとみんな黙ってこくんとうなづいていたので、心の準備は出来ているようだ。
『みんな大丈夫らしいぞ、ケロマ』
「了解。それじゃ、行くとしましょうか。……さて、今度は私達から攻める番よ! これで決めるわよ!」
『ああ、決めてやろうじゃないか!』
デュラスの件に関しては、いつも後手後手に回らざるを得なかった。
だが、今回は違う。
初めて俺達から先手を打つ事が出来る絶好の機会だ。
そしてこれで決める。
その為に俺達は色々準備をしてきたのだから。
こうして俺達は街を出て、そしてターニャのペガサスに乗って、デュラスがいる所へ向かう。
そんな中、ブルールは一人浮かない顔をした。
そりゃそうだろう。
デュラスを救える可能性は限りなく低い。
だからこそ、これから行う事は、デュラスを倒しに行くようなものなのだから。
いくら今のデュラスが正常な状態ではなくても、やはりデュラスを傷つけたくないというのがブルールの本音だろう。
『……ブルール、大丈夫か?』
『……あっ、ああ。すまない。ぼーっとしてた』
『辛いなら無理しなくても良いんだぞ?』
『いや、大丈夫だ。オレはあいつの元パートナーとして、しっかりと最期を見届けないとな。あいつを早く楽にしてあげないと』
そう真剣な表情でつぶやくブルール。
ちなみにブルールにはデュラスを救える可能性がある事は伝えていない。
色々とできる事はダメ元でやってみるとは伝えているが。
元々救える可能性は相当低いから、そんな期待を持たせるのは酷だと思ったからだ。
下手に期待させて裏切るような事はしたくないからな。
『そうだな……。だが、俺は最善を尽くしてみる。どこまでやれるかは分からないが、少しでもデュラスの救いになるような方法をとれるように努めるつもりだ』
『……ありがとう、カンガ。ただ、もし引導を渡す必要がある時はオレにやらせてくれ。身内の不始末は身内で片付けないとな』
『ああ、そうなった時は任せるぞ』
そうならないように、俺は全力を尽くさないとな。




