171.賢者スーフォスと出会いました。
しばらく待っていると、ターニャがようやく叡智の館から出てきた。
「カンガ様、すいません、お待たせ致しました」
『やっと出てこれたか。何か収穫はあったのか?』
「申し訳ありません。全く何も得られませんでした。本当、ここの人達、酷いんですよ? 私に色々試練を課してきて、それを全部乗り切ったにも関わらず、今度は賢者の情報を一定以上集めないと会わせてくれないとか言い出すんですよ? 賢者の情報を知るためにここまで来たのにこの仕打ちはないですよね?」
ターニャにはどうやら相当鬱憤がたまっていたようだ。
俺もあいつらから酷い扱いを受けたからな。
正直、もう関わりたいとも思わない。
本当に酷い奴らだな、あいつらは。
『そういえばターニャ。さっき賢者スーフォスっぽい人とそこで会ったぞ』
「ええっ!? そうなんですか!? でも賢者って山奥に住んでいるんじゃ?」
『俺もそう思ったんだけどな。俺に話しかけてきて、この紙を渡して帰っていったんだ』
「紙ですか? えっと、どれどれ? タクサリティ丘陵の山小屋?」
『ああ、そこに来てくれれば何かしらのもてなしができるだろうと言っていたぞ、そのお爺さん』
「タクサリティ丘陵ですか……フワンタクサ草の原産地とも言われる所にお住まいなのですね、賢者は」
フワンタクサ草の原産地?
そういえばあのお爺さん、フワンタクサ草を見ている俺に話しかけてきたよな。
わざわざ原産地に住むなんて、よほどフワンタクサ草が好きなんだろうか、賢者は。
『ターニャはタクサリティ丘陵の場所を知っているのか?』
「はい、知っていますよ。ちょっとここから遠いですが、行く分には問題ないはずです」
『そうなのか。どれ位かかりそうなんだ?』
「そうですね……大陸の果てですから、ペガサスで向かって30分はかかるかと」
『そ、それは随分とかかるんだな……』
ペガサスは飛んで移動するので、時速でいえば軽く数百キロは出ているはずだ。
そんなペガサスで30分もかかるという事は、つまりそれだけの距離があるという事。
めっちゃ遠い場所にいるもんだな、おい。
というか、そんな遠い場所をあんな笑顔で指定するなよ、爺さん。
普通そんな距離なんて、行こうと思っても行ける距離じゃねえぞ。
「とにかく、手掛かりがそれしかない以上、行くしかないでしょう。カンガ様、ご準備はよろしいですか?」
『ああ、大丈夫だ。早く行こう』
あんまりこの叡智の館の近くにいたくないもんな。
とりあえずここから早く離れたい。
という事で、さっさと俺とターニャはこの場を後にし、町から出て、ペガサスで移動を開始した。
「カンガ様、この辺りがタクサリティ丘陵ですよ!」
そのままペガサスで移動することおよそ30分。
ようやく目的地へと到着したようだ。
『なあターニャ、あそこの辺りにあるのってまさか全部フワンタクサ草なのか?』
「ええ、そうです。何て言ってもここはフワンタクサ草の原産地ですから、そこら中にフワンタクサ草が生えていますよ」
『あっ、ターニャ、あそこに山小屋みたいなものが見えるぞ』
俺が指差す方向には、ちょっと高い丘の所にぽつんと建っている山小屋が一つ。
あれがお爺さんの言っていた山小屋だろうか?
「もしかしてあそこが目的地なんでしょうかね?」
『そうかもしれないな。とにかく、この辺りで降りてみるか』
俺達はこうして山小屋の近くに着地して、そのまま山小屋まで歩いて向かう事にした。
辺りは一面フワンタクサ草のじゅうたんみたいになっていて、とても静かで、時折吹く風が心地よい。
フワンタクサ草には毒があるし、虫もよりつかないだろうから、虫にも比較的悩まされなくて済むのかもな。
そう考えると、ここは隠居して静かに暮らすにはもってこいの場所っていう訳か。
そんな場所をゆっくりと歩いていると、先の方に一人の人の姿が。
その人に近付いていくと、先程見た顔が。
『おお、随分と早いご到着だな、ゴブリン殿。ようこそ、いらっしゃい』
にっこりと笑顔でそう出迎えてきたお爺さん。
その姿はスーフェ町で出会った姿と何ら変わりない。
「あなたは……賢者スーフォス様ですか?」
「おお、お主はゴブリン殿のお連れ様か。ようこそいらっしゃい。いかにも、ワシが賢者スーフォスという者じゃよ」
「そうなんですね、出会えてよかったです! 私はターニャと申します。どうぞよろしくお願い致します」
「ターニャ……ああ、川の巫女殿か! 巫女殿が一緒にいらっしゃるとは、やはりこのゴブリンさんは何か特別みたいですな」
そう言ってまじまじと俺の事を見てくる賢者。
……そんなにじろじろと見られるのって何か嫌なんだけど。
「スーフォス様、あまりじろじろ見過ぎるとゴブリンさんも困ってしまいますよ?」
「おお、それは失敬。立ち話もなんだし、中でゆっくりとお話しするとしようか。飲み物と簡単な食べ物位なら用意できるからの」
そう言って賢者はゆっくりと山小屋の方へ向かっていき、山小屋の中へ入っていく。
俺達もお言葉に甘えて、山小屋の中にお邪魔する事にした。




