134.ゴーレムの結晶に異変が起きました。
『本当にこのゴーレム、しぶとかったな……。カンガがゴーレムの核を壊さなければ、延々と復活し続けたんだろうな、きっと』
ブルールは二つに割れたゴーレムの結晶を見て、そうつぶやいた。
確かに脅威の再生力だったよな。
行動を数人がかりで制限して、ようやく攻撃が再生力を上回る事ができるほどだ。
俺一人ではどんなに頑張ってもゴーレムには敵いそうもない。
『だがブルール殿。拙者達はそのゴーレムに勝ったのだ。過ぎた事は気にしても仕方あるまい』
『ああ、確かにそうだな。それより、ここってダンジョンの最奥なのか? だったら何か宝がここに隠されているんだろうか?』
なるほど。
ここはあれだけの実力を持つゴーレムが守っていた程の部屋だし、何かあってもおかしくはないよな。
結構広い空間になっているみたいだし、探せば何か見つかるかもしれない。
なら、せっかくここまで来たんだし、探索してみるとするか。
『じゃあみんな、手分けして探――』
「カンガ、ちょっと待って! ゴーレムの結晶の様子がおかしいの!」
ん?
ゴーレムの結晶がおかしいだって?
ゴーレムの結晶なら真っ二つになったままそこに横たわって――ない!?
どこにいったのかと少し目線をずらすと、ゴーレムの結晶が宙に浮いているのが見えた。
もちろん真っ二つに割れたままだが。
しかし、その真っ二つに割れていた結晶が一つになり、傷一つない状態までキレイに修復されていく。
そして修復し終わった後で、緑色だった結晶は青色へと変化し、俺の目の前まで浮いて近付いてきた。
……あまりに突然の出来事に思わずじっくりと眺めてしまったが、この状況、どうなっているんだ?
てっきり先程のゴーレムが復活するものかと思ったが、そうでもなさそうだしな。
『結晶の色が変わった? それになんでこの結晶は浮いているんだ? まるで俺に手に取ってほしいみたいにさ』
『確かに妙だな。てっきり結晶が元通りになったら、また結晶の周囲に岩石がまとわりついてゴーレム形態になるものだと思っていたが』
『拙者もブルール殿と同じく、ゴーレムになるものだと思っていたぞ』
「もしかしたらカンガの言う通り、本当にカンガの手に取ってほしいのかもね。試しに結晶を手に持ってみたら、カンガ?」
手に持ってみる、か。
まあ、別に手に持ったからといって何かなる訳でもなさそうだし、試してみるとするか。
俺は目の前に浮遊している結晶を手でつかんでみた。
するとその瞬間、結晶が光の粒となって消えてしまう!?
ええっ、なんで手でつかんだだけで結晶が消えちまうんだよ、意味分からないんだけど!?
そんな状況が飲み込めない俺に対して、いつものアナウンスが脳内に響き渡った。
{ 【ゴーレム召喚】を獲得しました }
{ 特殊スキル【召喚者】を獲得しました }
{ 特殊スキル【召喚の極意】を獲得しました }
ゴーレム召喚?
これってさっきのゴーレムを俺が呼び出せるっていう事か?
でも、どうしてこんな事に……?
「あっ、カンガ、ゴーレムを召喚できるようになったみたいね!」
『ああ、そうらしいな。だが、一体どうしてこんな事になったんだろうな? ゴーレムってダンジョンの守護者なんだろ? 俺がそのゴーレムを召喚できるようになる理由が分からないんだが』
「確かに理屈は分からないけど、もしかしたらゴーレムを打ち倒したご褒美だったりしてね! だってカンガがゴーレムにとどめをさしたんだもの。そういう事があるのって何かロマンがあるじゃない?」
ロマンねぇ……。
まあ、でもそう考えると悪くもない気もする。
ゴーレムを打ち倒したご褒美にゴーレムを使役できるようになる、か。
力を認められて、その資格を得たみたいな感じで何か良いよな。
『なあ、カンガ。せっかくゴーレムを召喚できるようになったんなら、ここで一回召喚してみないか? 場合によってはかなりの戦力になってくれるかもしれないぞ?』
『拙者もそう思う。何しろゴーレムは拙者達全員がかりでようやく打ち倒せた相手だ。その者が味方になってくれるなら、この上ないだろう』
確かにそうだな。
俺が呼び出せるゴーレムはどんな感じなのか。
それは実際に使ってみないと分からないもんな。
なら、早速試してみるとするか。
……試してみると決めたものの、実際にどうやってやればいいのやら。
うーん、分からない。
とりあえずゴーレムを呼び出すようなイメージをすればいいか。
俺は先程戦ったようなゴーレムをイメージし、そのゴーレムを呼び出そうと目をつぶって念じてみる。
すると――
『お、おいっ、地面から何かが湧き出てくるぞ!?』
ブルールの声を聞いて、俺は目を開ける。
すると確かに目の前の大地の一部が動き出し、巨大な怪物を形作ろうとしている。
そしてしばらく経つと、目の前には俺達を襲ってきたゴーレムと全く同じやつが現れるのだった!
『おっ、イメージ通りにゴーレムが現れたな』
『まさか本当にゴーレムを召喚できるとは……これで相当カンガの戦術も広がるんじゃないか?』
『だが、何だか今にも襲い掛かってきそうで少し怖いな……』
「確かにグリザーの言う通りね。この姿を見ると、またあの地割れ攻撃が来るんじゃないかと思わず身構えてしまうわ」
先程まで激闘を繰り広げた相手がすぐそばに出現している。
そりゃ、そいつが仲間であるとすぐに認識するのは難しいよな。
だけど、今までの奴とは違って、今のゴーレムは身動き一つしておらず、おとなしいものだ。
明らかに今までの敵のゴーレムとは違うと言ってもいいだろう。
『だけどこのゴーレム、全く動かないな。何か指示をしないと動かないのか?』
そう言ってゴーレムをペタペタとさわるグリザー。
グリザーがさわっているにも関わらず、ゴーレムは身動き一つしない。
やはり命令をしないと動かないものなんだろうか?
それじゃ、試しに命令してみるとするか。
『ゴーレム、グリザーと握手』
俺がそう言うと、ゴーレムはミシミシと音を立てて顔を動かし、グリザーの姿を捉える。
そしてゴーレムは右手をグリザーの前へと差し出した。
グリザーが同じように右手を差し出すと、ゴーレムはグリザーの手を握って握手をしたのだ。
ちなみに握手をした後のゴーレムはまた静止状態へと戻った。
この事から考えて、ゴーレムは命令された事だけを実行する存在と思った方が良さそうだな。




