123.第十二階層には何かがいるそうです。
階段を下りた先にある二階層。
そこにたどり着くと、先程までのお祭り騒ぎが嘘のように静まり返り、人の姿も見当たらない。
やはり一階層と二階層では全然違うようだな。
ダンジョンらしくなった空間を俺達は緊張感を持って突き進む。
「みんな、角を曲がった所に魔物がいるわ。気をつけて!」
ケロマの言葉を受けて気を引き締める俺達。
そして角を曲がるとそこにいたのは赤いウルフが三匹。
さて、ステータスはっと。
レッドウルフ LV2
HP 31/31
MP 2/ 2
攻撃力 9
防御力 7
魔法攻撃力 2
魔法防御力 2
素早さ 8
スキル
俊敏、弱毒
あれっ、めっちゃ弱くね?
これなら俺がこの世界に来たばかりに戦ったウルフの方が断然強いんだが。
毒を持っているようだからそこだけは注意しないといけなそうだけど。
『ダンジョンの敵って思ったよりも弱いんだな』
「まだ第二階層だからね。深い階層にいくにつれて空気中の魔力濃度が高くなるから魔物も強くなるとは言われているわよ」
『そういう事だろうな。深い階層までこんなに魔物が弱かったらとっくに誰かダンジョン攻略できているはずだしさ』
第二階層から強すぎる魔物がいたら第一階層があんなに発展して盛り上がる訳ないもんな。
あの様子から見ると第一階層は魔物にやられたことはなさそうだし。
つまり、第一階層付近の魔物は大したことない可能性が高い。
油断は禁物だけどな。
俺達はあっさりとウルフを倒して先に進む。
やはり少し攻撃したらすぐに倒れたので、ウルフはステータス通りの弱さだった。
こんな感じなら、しばらく戦闘面では苦労しなさそうだ。
途中でワナらしきものがあったらしいが、それはケロマの【観察】によって見破ってもらえたので何事もなく進むことができた。
【観察】って本当に便利だよな。
魔物の情報、ワナの発見なんでも見ることができるしさ。
本当、頼りになる。
順調に進んで今や俺達は第十階層まで来ることができた。
魔物は少し強くなってきたが、それでもレベル20程度なのでまだまだ余裕がある。
それよりも問題なのは……
ぐ~~~
『すまん、カンガ。そろそろ限界だ。そろそろ食事にしないか?』
そう、空腹である。
ダンジョン自体が結構広いので、順調にいっても一階層を進むのに時間がかかるのだ。
多分一時間はかかるのではないだろうか。
だから九階層下まで来た今はだいぶ時間が経っている事になる。
「空腹。実はこれがダンジョン攻略の大きな障害になっているのよ」
『なるほどな。でもいざとなったら魔物を倒して食べればいいんじゃないのか?』
「そうできなくもないけど……でもここの魔物、すごくまずいらしいの。土の味がするんだって」
『あっ……ならちょっとそれは遠慮しておこうか』
土って食べ物じゃないだろ。
どんな味がするのか気にならないでもなかったが、変に食べて調子が悪くなったら嫌なので止めておいた。
ということで、いつも通り【料理】で何か作るとするか。
『ブルール、どんな物が食べたいんだ?』
『そうだな……冷たい物が食べたい』
『冷たい物か。確かにここ、結構暑いもんな。よし、ならあれでいくか』
動き回って結構暑さを感じている今でも食べやすい物。
それは―――
『待たせたな。出来たぞ』
『何だこれは? 麺が水に浸っているようだが?』
『それに別の容器に何か汁のようなものがあるな』
「懐かしいわね。これってそうめん?」
そう、そうめんである。
夏の食べ物の定番中の定番だよな。
暑くて食欲がない時でもスルスルと食べやすい。
食欲を増幅させるための薬味もつけておいた。
『ケロマの言う通り、そうめんという。結構食べやすくて美味いぞ』
『なるほど。なかなか興味深い食べ物だな。では早速いただくとするか』
俺達はこうしてそうめんを食べ始めたのだが……
『カンガ、そうめんってやつ、味しないんだな』
ブルールは水に浸かった麺をそのまま食べていた。
というより、水もかなりガブガブ飲んでいた。
あっ、そういえばブルールには水に浸かった麺を汁につけて食べるなんて事をするのは難しそうだよな。
ちょっと手伝ってやるか。
『すまない、ブルール。ちょっと食べ方が違うんだ。こうして食べるんだぞ。これ、ブルール分に皿に分けておいたから』
『おっ、サンキューな』
俺は汁をあらかじめ絡ませておいた麺を別の皿に取り分けてブルールに渡す。
その麺を案の定、一気に丸飲みしてしまったブルールだったのだが、味は気に入ったらしく満足そうにしていた。
気に入ってくれたようで何よりだな。
「あっ、何かが近づいてくる気配がするわ! みんな、気を付けて!」
魔物だろうか?
ダンジョンの中に安全な場所なんて存在しないから、食事中に乱入されるのは覚悟はしていたが。
食事の手を止め、俺達は周囲を警戒する。
「あっ、あのぉ……その食べ物、あたしにも分けてくれませんか?」
その声がすると同時に現れたのは一人の少女だった。
「人間……? ここまで来るなんて珍しいわね」
「あたしもここまで来るつもりはなかったんです。でも逃げてたらここまで来ることになってしまって」
少女の顔には疲労感がにじみ出ている。
よほど必死に逃げてきたんだろうな……
『大変そうだな。作ってくるからそこでちょっと待ってろ』
「良かったわね。カンガ―――いや、ゴブリンさんがあなたに料理を作ってくれるそうよ」
「あ、ありがとうございます!」
フワンタクサ草のストックはまだまだたくさんあるし、別に少し位減っても問題ないだろう。
という事で、少女用のそうめんを用意してあげた。
「不思議な料理ですね……どうやって食べるんですか?」
「麺をすくって汁につけて食べるのよ」
「なるほど。それでは……なにこれ、美味しい!?」
食べ方を知ってからは勢いよくそうめんをすする少女。
気に入ってもらえたようで良かった。
「そういえば逃げてきたっていうけど、何かヤバい魔物でもいたの?」
「そうなんです。あたし、地下5階位にいたはずなんですけど、落とし穴のワナに引っかかってしまって……それで多分すごい下の階層まで行くことになってしまったのではないかと」
「なるほど。ここ第十階層だし、相当下まで来たようね」
「ええっ!? 第十階層ですって!? ということはあたし、第十二階層まで落ちてきたってことですかぁ!?」
第十二階層まで落ちてきたって……七階層分まで落ちたってことじゃねえか!?
よくそれで体が無事だな、おい。
落とし穴のワナって、普通に落下したら全身骨折で済まなそうだが、何かカラクリがあるんだろうな。
「第十二階層からここまで逃げてきたっていう事は第十二階層に恐ろしい魔物がいるということ?」
「そうなんです。とてもおっかないですよ、あいつは。姿を消して、どこからともなく現れるんです。本当、恐ろしかったですよぉ」
少女はブルブルと体を震わせている。
とても恐ろしい体験をしたみたいだな。
「貴重な情報ありがとう。私達、ダンジョン制覇をしようと思っているから、そういう情報は本当助かるわ」
「ええっ、ダンジョン制覇ですか!? たった一人なのに!?」
「一人じゃないわよ。私には頼もしい仲間が三人もいるもの。何とかなるわ」
「強いんですね、あなたは。それに使役する魔物を仲間というなんて珍しいですね。そういう考え、嫌いじゃないです」
使役する魔物を仲間扱いしないのが普通なのか。
というか、まあそりゃそうだよな。
普通は言葉を交わす事もできないし、何かの戦闘に使うとか何かをするための手段でしかないだろうしさ。
今魔物の身である俺にとってはあまり良い気分はしないけど。
少女はそうめんを食べ終わったら、お礼を言って、上へと向かっていって地上を目指すとのことだった。
「一人で大丈夫?」
「ええ、平気です。私、これでも逃げ足にだけは自信がありますから!」
逃げ足だけでなんとかなるのかという気もするが……
とにかく本人が大丈夫だというので、そこを止めることはしなかった。
少女と別れた後、俺達は再びダンジョンの先へと向かう事にした。




