114.みんなで王の家におじゃましてみました。
「かんがー、おれを置いていくなんて酷いよー!」
ん?
この声は確か……
『あれ? 誰かが近づいてようだな』
『あれは……ゴブリンか。間違いない』
「しかもゴブリンキングって……、ゴブリンの王って事じゃない!? 一体どうして!?」
三人とも警戒態勢に入っていた。
そうか、三人ともゴブリンの王に会うのは初めてだったんだっけ。
紹介してあげないとな。
『ああ、みんな、そんなに警戒しなくてもいいぞ。こいつ、王は王だけど所詮ただの泣き虫な子供だから』
「むむっ!? その発言はいくらかんがと言っても許せないぞ! おい、誰かこの者にお仕置きを!」
しかし、王は一人でここまで来たみたいなので、その言葉に従う者はいなかった。
ってあれ?
何で念話で話したはずの内容が王に伝わっているんだ?
もしかして【王の覇気】の効果だろうか?
王の前では隠し事はできないとかそういう所だろうか?
まあこの王に聞かれてもそんな困ることもないし、どうでもいいんだけど。
「お前一人で来たのか?いくらなんでも危なすぎるだろ」
「だって……かんががどうなったか心配で……」
「心配してくれるのはありがたいけど、もう少し身の程をわきまえた方がいいぞ。お前はこのゴブリンの王なんだ。お前がいなくなったら誰がその代わりになれる?」
「うっ、それは……」
俺の言葉を聞いてしょんぼりしてしまう王。
ちょっと言い過ぎたかもしれないな。
「王様ー! どこにおられるのですか!?」
「王様ー! 返事をしてくださーい!」
あっ、ゴブリンの集落の方から王様を呼ぶ声が聞こえてくる。
やはり心配する人がいるようだな。
「早く行ってあげろよ。俺はもう大丈夫だから」
「ああ、分かった。それならかんがも一緒に来いよ!」
「えっ?」
俺は王に手を引っ張られ、そのままゴブリンの集落の中に連れて行かれてしまった。
「心配しましたよ、王様、どこに行かれていたのですか!? あれっ、その者は?」
「紹介しよう。この者は我が命の恩人、かんがなのである! この者がいなければ、我はとうに命を失っていたであろう」
「そうなのですか!? では早くおもてなしの準備を……」
「だが! この者は少々口が悪く、我に無礼を働いた。よって、そんな手厚いもてなしは必要ない。ありのままで迎えよ」
二人の召使いらしきゴブリンは頭に?マークを浮かべていそうな困った表情をしていた。
命の恩人でありながら、王に無礼を働いた者。
そんな者をどう出迎えれば良いのか理解に苦しんでいるようだ。
「要するに、友達を出迎えるような感じで出迎えてほしいって事だろ? 王様?」
「そ、その通りだ。今すぐ準備に取り掛かれ!」
ようやく理解に至ったと思われる召使いは急いで建物の方へと戻っていった。
おそらく”友達を出迎える程度のおもてなし”をする準備をしに行ったんだろう。
『カンガ、オレ達は中に入らないほうが良いのか?』
ブルールから念話が聞こえてきた。
あっ、そういえばそれを聞かないとな。
ここ、一応ゴブリンの集落だし、ゴブリン以外の種族が中に入ってきたら混乱しかねないもんな。
「なあ王様、俺の仲間達もこの村に入れてもいいか? みんな寂しがっているみたいなんだが」
「その者達はかんがが信用に足る人物なのか?」
「ああ、もちろんだ」
「なら入れても構わない。事情はおれから伝えておくからさ!」
さっすが王様、太っ腹!
王の了承を得ることができたので、俺はみんなに入っても大丈夫だということを念話で伝えることにした。
するとブルール達は恐る恐る、村の中へと入ってきた。
「準備ができましたよ、王様! って、その方達は誰ですか!? 人間までいますよ!?」
「ああ、この人達は命の恩人の仲間なんだ。だから手出ししないでくれ!」
「そうなのですか……? まあ王様がそう仰るのなら……」
召使いがブルール達を見て驚いていたが、王様からそう言われると、落ち着きを取り戻したようだ。
「かんが、準備が出来たようだ。中へ入るぞ!」
「ああ、分かった」
俺はみんなに念話で王の住む家へ向かうことを伝え、みんなとともに王の家へと入っていった。
比較的広い部屋に通され、その部屋においてある椅子に俺達は腰かけることにした。
机の上にはゴブリンが食べているであろうお菓子らしきものがカゴの中に入れてあった。
「かんが、これ、スイートマッドというんだけど、これが結構美味いんだ。食べてみろよ」
そう言った王はそのお菓子らしきものを俺の前に差し出してくる。
確かに甘い匂いはするんだが、見た目は正直泥の塊にしか見えなくて、食欲はわかないんだよな。
せっかくだからかじってみようとは思うんだが。
俺はスイートマッドを一つ取り出し、少しかじってみた。
パリッ!
うーん、あれっ?
意外といけるかもしれない。
サクサクしていて食感も良いし、味もマイルドなチョコ味といった感じで美味いな。
『みんなも食べてみろよ。結構美味いぞ、これ』
俺は他のみんなにもそのスイートマッドの入ったカゴをまわした。
俺が食べているのを見たからか、みんなは躊躇なくスイートマッドを手に取ってかじった。
『ああ、結構美味いな、これ。なかなかいけるぞ!』
そう言ったブルールは残りのスイートマッドを一気に丸飲みしてしまった。
正直丸飲みしてしまったら味なんてあまり分からないんじゃないかと思ったりするんだが。
まあいつもの事だな。




