表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴブリン、頑張って生きる。  作者: はちみやなつき
Ⅰ この世界で生き残るために
11/222

11.命懸けの戦いをしてみました。

 俺は住処から外に出て土をかき集め、全力で入口を修復する。

 だが思ったよりも時間がかかりそうだ。



 ウルフは体長二メートルはあるんじゃないかと思える程大きな魔物だ。

 今はそのウルフが四,五匹同時に入れそうなほど大きな穴が空いてしまっている。

 故に、いくら周辺の土をかき集めてもなかなか穴は塞がらない。


 それに穴が空いた影響で、隠れ蓑にしていた茂みが陥没してしまっている。

 土台になっている土がえぐられてしまったんだから当然か。


 そして一番まずいのは、茂みの陥没によって俺の住処の入口が丸見えになったことだ。

 だが、茂みを移動させることはまずできない。

 できたとしてもどれだけの時間がかかるやら。

 なので現実的ではない。 


 だからといってここを置いて他に住処を作ることもしたくない。

 あの黒歴史の塊さえなければ他の所に住処を作ればいい話なんだがな。

 本当、昔の俺のバカ。



 ここをこのままの形で放置してしまうのは今後の事を考えるとあり得ない選択肢だ。

 なぜなら今の俺の住処には強力な武器や防具がごろごろ眠っているためだ。

 もし俺よりも強い奴がそんな装備を身につけたらどうなる?

 万が一にも俺に勝ち目がないだろう。

 自分が作ったもので自分の首をしめることになるとはなんたる皮肉なんだ。


 ちなみに俺は作った武器の破壊を試みたこともあった。

 だが失敗に終わった。


 一応武器の破壊自体ができない訳ではない。

 実際、今身につけているアダマンダガーで鉄剣を壊すことはできた。


 だが、同格の武器や防具を壊すことはできなかった。

 俺が脅威に思っている武器や防具を壊せないのだから、もう使えないように隠すしかないよな。

 ちなみに俺はその武器を使わせないことも兼ねて引きこもり生活をするつもりだったのだ。



 だが、その引きこもり生活の安寧も危うくなってきた。

 隠れ蓑としていた茂みの消失。

 いや、茂み自体は地面にめりこんでいるだけだが。


 とにかく、もう茂みに頼ることはできなくなった。

 俺の住処の入口は周辺から丸見えな状態だから、いつ住処が荒らされても不思議じゃない。

 でも、それでもここを死守しなければならない。

 例え食事中に襲われても。

 寝ているときに襲われてもだ。


 本当、俺、詰んでるな。

 でも何とかするしかないんだよな……




 俺は憂鬱になりながらも修復作業を続ける。

 そしてようやく入口の修復は終盤に入った。


 細い通路に狭い入口はできた。

 後は蓋を作ってその蓋で入口を閉めれば完成。

 ふう、あともう一息だ。


 俺はホッと一息いれる。

 だが、その一瞬が仇となった。



 突如俺の周りが真っ暗となる。



 一体何が起こっているんだ……!?


 何が起きたか分からないが、一つ分かることがある。

 身体中を噛みつかれたような痛み。

 そう。

 きっと俺は襲われたんだ。

 何者かに。


 俺を狙って襲うようなヤツは決まっている。

 ウルフだ。

 仲間を殺されたウルフが怒り狂って俺に襲いかかってきたのだ。


 恐らく先ほど辺りが真っ暗になったのは、ウルフが集団で一気に襲いかかってきたからだ。

 急に視界が塞がれて不意をつかれた俺は対応が遅れてしまう。

 その結果、大きな傷を負うことになってしまった。


 でも何とか襲いかかってきたウルフを一掃することはできた。

 ウルフ一体一体は強くない。

 冷静に対処すれば何とかなる。

 だがさっきのダメージはかなりの痛手だな……

 一体どれ位のダメージを負ったんだろうか。



 ベビーゴブリン LVMAX

 HP 12/50

 MP 15/15

 攻撃力    10(+530)

 防御力    10(+720)

 魔法攻撃力  10

 魔法防御力  10(+720)

 素早さ    10(+530)

 スキル

 観察、考察、隠密、猛毒耐性、暗視、耐震、恐怖耐性、採掘、器用、根性、調合、加工、細工

 特殊スキル

 調合の極意、調合の極意Ⅱ、加工の極意、加工の極意Ⅱ、細工の極意、職人の神



 ぐっ、こんなに食らったか。

 俺が対処するまでにそれぞれのウルフから四、五発は攻撃を食らったから妥当な所か。

 逃げようにも足を噛まれたりして思うように動かせてくれなかったからな。

 なかなか手こずってしまった。


 それにしてもこんなにダメージを負ったのは大きすぎるな。

 急いで回復したい所だが……ない。

 回復薬の土瓶が入った俺のバッグがない!?


 辺りを見渡すと、俺のバッグのある場所が判明する。

 ウルフの口の中だ。

 既に俺が倒したウルフの中に俺のバッグを食いちぎったヤツがいたのだ。


 全くなんて事をしてくれる……


 バッグには深くウルフの牙が食い込んでおり、なかなかひっこぬけそうにない。

 回復薬を使って回復するのは絶望的か。


 こうなってしまったのは仕方ない。

 もう一度住処に帰ってから出直せば何とかなるだろう。


 そう思って住処の入口に向かう俺だったが、その穴を一匹のウルフが塞いでしまう。

 狭い穴は防犯力に優れるが、それは侵入が難しいことと表裏一体だ。

 このままでは住処に戻ることが出来ない。


 そして住処への入口を塞がれて、気が動転した俺に背後から複数のウルフが噛み付いてくる!


 痛ッ!?

 全く、しつこいんだよ!


 俺は噛み付いてきたウルフを一刀両断する。


 全く、狭くした穴まで裏目に出るとは。

 つぐつぐついてないな、俺。



 本当、今の状況はまずいな。


 四方をウルフに囲まれているから俺に安全圏などない。

 唯一の安全圏、住処への入口はウルフに閉ざされている。

 そしてその入口の重要性をウルフも分かっているようだ。

 入口を囲んで守るような布陣で俺と対峙しているからな。

 なので俺は入口に近づくことさえできない。


 ちなみに一応バッグをウルフから引き抜いて、無理矢理回復薬を飲むということも考えてはみた。

 だが、それはあまりにも危険すぎる賭けだ。


 何よりウルフからバッグを引き抜くまでに時間がかかり過ぎるのだ。

 そんなことをしている間にウルフ達が集団で襲いかかってきて、一気に畳み掛けられる可能性が高い。


 その上、もし薬を無事入手したとしても、それがすぐに効果が出るとは限らない。

 俺は素早く動けるものの、早く薬を飲める訳じゃないら、薬を飲み切るには時間がかかるのだ。

 回復薬を飲んで効果が出るまでに攻撃を複数回食らったらアウトだからな。

 回復薬を飲むという選択肢はほぼないだろう。



 つまり残されたHPで全てのウルフを倒し切るしか生き残る術がないということだ。

 ちなみに俺の残りHPは……



 ベビーゴブリン LVMAX

 HP  9/50

 MP 15/15

 攻撃力    10(+530)

 防御力    10(+720)

 魔法攻撃力  10

 魔法防御力  10(+720)

 素早さ    10(+530)

 スキル

 観察、考察、隠密、猛毒耐性、暗視、耐震、恐怖耐性、採掘、器用、根性、調合、加工、細工

 特殊スキル

 調合の極意、調合の極意Ⅱ、加工の極意、加工の極意Ⅱ、細工の極意、職人の神



 残るHPは9。

 受けられる攻撃は最大でも八回まで。

 あまりに防御力が高ければダメージを受けない可能性もあるだろう。

 だが残念ながら、俺はウルフの攻撃に痛みを感じるし、ダメージも入る。

 よくて1ダメージで済むといった所だろう。


 だが八回攻撃を受けられるというのも、それも全ての攻撃がダメージ1ですめばいい話。

 ダメージを2くらう攻撃があることも否定できない。


 いけるのか?

 いや、やるしかないんだが。

 できなかったら死ぬからな。 




 俺はウルフの攻撃を避けながら、一匹一匹倒していく。

 そう、一匹一匹では大したことはないのだ。

 だが相手は複数。

 三十匹位はいるだろう。

 一匹を倒した程度では攻撃の手は緩まない。


 俺はウルフの猛攻を頑張って避け、余裕があったら一匹ずつ倒すことにした。

 だが、それでもなお、避けられない攻撃を何度か受けてしまう。


 1ダメージ。

 たかが1ダメージ。

 されど1ダメージ。


 防御力を底上げしているから、ウルフの攻撃は1ダメージしか通らない。

 それは一瞬自分を【観察】して確認済みだ。

 だが、今はその1ダメージが限りなくでかい。



 俺はあれから既に七回攻撃を受けている。

 つまりあと残りHPは2。

 残るウルフはあと五匹。

 いけるか?



 戦いも佳境を迎えた。

 俺はあと二発攻撃を受けたら死ぬ。

 一方でウルフ側も残り五匹しかいない。

 戦いの決着も近そうだ。


 そんな状況の中、ウルフが勝負に出たようだ。

 三匹のウルフが一斉襲い掛かってくる。 

 俺はその攻撃をよけ、ウルフの背後から短剣で切りつけていく。

 だが、その間に背後から別のウルフからの攻撃を受けてしまう。

 そのウルフに対しては反撃の切りつけで倒すことができた。



 これで残るウルフは一匹。

 対して俺の残りHPは1。

 互いに一撃食らったら終わりの状況。

 まさに一騎打ち。


 ウルフは俺に襲い掛かってくる。

 速い。

 多分このウルフがウルフの群れのリーダー格なのかもしれないな。


 俺はその速さに不意をつかれつつも、なんとかウルフの攻撃をさけきる。

 そして、そのウルフに短剣による攻撃を当てた。

 攻撃を受けたウルフは真っ二つに切り裂かれ、絶命した。



 勝った……



 俺は最後のウルフが息絶えたのを確認し、ほっと胸を撫で下ろす。

 しかし、その油断が命取りになった。

 どこかから来た他の一匹のウルフに気付いたのは、今にも噛みつかれそうというときだったのだ。


 何でこんな所からウルフが?

 このウルフが襲ってきた方角には大きな穴が空いていて、そこには陥没した例の茂みがある。

 まさか、その茂みに潜んでいたのか!?

 もう一匹いるなんて聞いてないぞ……



 盲点だった。

 俺は戦っている最中、ウルフに対して【観察】を使う余裕がなかった。

 だから目に見える範囲にいるウルフが全てだと思っていた。


 だが、実際はそうではなかった。

 現に、こうして今にも俺はウルフに攻撃されようとしている。


 俺の素早さの能力は高い。

 だが、それはただ単に反応速度が速いというだけの話。

 今にも噛みつかれようとしているこの場面を回避することまではできない。



 終わった。

 せっかくここまで頑張ったのに、もう終わりか。

 俺、結構頑張ったんだけどなー。


 だけど俺って本当ドジすぎだろ?

 無駄に強い武器作って、危ない環境を作っちまったし。

 今回の件もそうだ。

 ぶっちゃけ、もっと早くからウルフの攻撃に気付いていれば、普通に勝てたのにな。

 なんで気づかなかったんだろう?

 せめて、あともう一、二秒早く気付いていれば、ウルフの奇襲を避けられたのに。



 後悔しても仕方ない。

 だが、もう俺にできることはない。

 体はもう反応しきれないし、ただウルフの攻撃を待つしかない。

 ああ、今までの短い人生が走馬灯のように流れていく。

 いや、ゴブリン生か。

 俺、ゴブリンだし。



 ウルフの攻撃を食らう直前、俺は色々と考えたり思い出に耽っていた。

 死ぬ直前ってこんなに長く感じるものなんだな。

 話には聞いたことがあったが、実際に経験するのは初めてだしな。

 いや、トラックにひかれる直前もそうなっていたんだろうか?

 全然覚えてないが。


 まあ、そんなこともどうでもよくなってきた。

 さよなら、俺。

 せめて痛くないように死ねますように。



 俺は目をつぶり、ウルフの攻撃を待つ。



 グシャッ!!



 何かが噛み砕かれる音が聞こえる。

 ああ、俺、噛み砕かれたんだな。

 不思議と痛みはない。

 痛くないならそれでいい。

 このまま意識が遠のけば……





 しかし、しばらく経っても体の感覚はあった。

 あれ?

 どうして俺、死なないの?



 疑問に思った俺は目を開けた。

 すると目の前には黒いウルフの亡骸が横たわっていた。

 そしてすぐそばにはこちらを見つめる青いウルフの姿があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ