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ゴブリン、頑張って生きる。  作者: はちみやなつき
Ⅳ ただ一つのダンジョンを目指して
106/222

106.ゴブリンを助けることに決めました。

 俺はみんなにゴブリンシャーマンが言ってきた内容について伝えた。



『カンガがゴブリンの王を倒すよう頼まれているのか?』

『ああ、そういうことらしい。正直あまり気は進まないんだけどな。同種族とはいえ、部外者の俺が王を倒すとかさ』

『まあそりゃそうだよな。カンガにとって、他のゴブリンと初めて会うみたいだし、思い入れもないだろうしな』



 そうなんだよな。

 正直俺がゴブリン達を助ける理由というのはそこまでない。

 それに王を倒すことが必ずしも全てのゴブリンにとっての救いになる訳ではないと思う。


 今の愚王ゼルデであっても、大事に思っているゴブリンもいるだろうし。

 そのゴブリンにとっては、もし俺が愚王を殺害したら、俺は恨むべき対象になるもんな。

 ……面倒だし、あまり関わりたくないのが本音なんだよな。


 何とかして頼みを断れるよう話してみるか。



『俺にはゴブリンの王を倒すほどの力はねえよ。人違いだろ。他をあたってくれ』

「そ、そんな事はありませぬ! あなたこそが白き英雄”カンガ”様に他なりませ……ゴホッ、ゴホッ!」

「あ、お婆様、大丈夫でヤンスか!?」



 ゴブリンがゴブリンシャーマンを気遣う素振りをみせる。

 どうやらこのゴブリンシャーマンはだいぶ弱っているらしい。

 そういえば、さっきコイツらのステータスを見たとき、HPがだいぶ減っていたよな。


 よくよく見れば二人とも痩せこけているみたいだ。

 飢餓耐性を持っているのに、それでもなお、痩せこけている二人。

 もしかして相当長い間、ここにいたんだろうか?



『なあ、ちょっと聞きたいんだが……お前達って、ずっと飲み食いしていないのか?』

「飲み食いしていない訳ではないんスよ。ただ、残り少ない食料を少しずつ少しずつ食べて耐えていたんス」

『食料を備蓄していたという事か?』

「そうなんス。王打倒計画に協力したみんながかき集めた食料。それがこの奥の倉庫にしまわれているんス。ただもう残りはわずかで、おれとお婆様は身を削りながら生きてきたんス……」



 身を削りながら生きる……

 どうしてそこまでするんだろうか、このゴブリン達は。



『どうしてそんな事をしているんだ? そこまでして王を倒したいのか、お前達は?』

「そうッス。このままではおれ達、ゴブリンの未来は絶望的ッス。ただ労働だけをひたすらさせられる王の駒になってしまうんス。そんなのはおれ達、嫌なんス!」

『王の駒……人権がないということか』

「人権なんてある訳ないんス。だからおれ達は現状を変えようと、百人以上にもわたる同志がこの計画をすすめたんス。ただ、残るはおれとお婆様だけになってしまったんスけど……」



 百人以上にもわたる同志……。

 そんなにも多くのゴブリン達が”白き英雄”を待っていたというのか。



「ですからカンガ様、どうかおれ達をお救い下さい! カンガ様に頼る他におれ達の希望はないんス!」



 ……そんな事情を言われたら断れるものも断れないだろ。

 はぁ、聞かなければ良かったかな。


 そもそも俺がそのゼルデとかいう奴に勝てるかどうかもよく分からねえんだぞ。

 でもこの状況でこのゴブリン達を見捨てるほど俺は割り切ることもできなさそうだ……


 みんなとちょっと相談してみるか。


 こうして俺はゴブリンから言われた内容についてみんなに話してみた。



『百人以上も王を打倒しようとしたゴブリンがいたのか』

『そしてその中で生き残っているのがこのお二方という訳だな』

「でもその情報、本当なのかしら? もし違ったら……」



 うん、確かにゴブリンのいう事が本当とは限らない。

 実は王はゴブリンの住人から支持されていて、一部のゴブリンが騒いでいるだけかもしれないな。

 ただ、それは結局ゴブリンの町に行かないと分からない事なんだよな。


 ここにいるゴブリン達の話が本当ならば放っておけない。

 例え嘘だとしても、そのときはそのときだ。



『嘘かもしれない。でも、もし本当の話だったことを考えると、やっぱり放ってはおけないんだ』

『そうだよな。確かに悲惨な生活を送ってきたことになるもんな、このゴブリン達は』

『罠だった場合はそのときに対処すれば何とかなるだろう。ゴブリンはそこまで強くはないと思われるしな』

「私、全力でカンガをサポートする。だからカンガはカンガがやりたいようにして!」



 みんなありがとう。

 俺がこれからする選択は愚かなものかもしれない。

 でも俺が逃げることでこのゴブリン達がここで朽ち果てるというのは何とも後味悪いからな。

 その危険性も考えた上で、俺はこのゴブリン達を助けてみようと思う。



『二人とも、事情は分かった。できる限り二人に協力しよう』

「ほ、本当ですか、カンガ様!?」

「き、協力して下さるんスか!? いや……本当にありがたいッス!」

『ああ、俺なんかで良ければな』



 ゴブリンの二人は俺の言葉を聞いて泣き出してしまった。

 

 えっ!?

 俺、泣かせるようなことしたか!?



『よっぽど嬉しいんだろうな、このゴブリン達。泣き出してしまうほどにさ』

『それだけカンガ殿を頼りにしていたという訳か』

「この場面を見ていると、何だか私までうるっときちゃいそうね……」



 ゴブリン達はどうやら泣くほど嬉しかったらしい。

 それだけ俺は期待されているという訳か。

 なんかすごい重たいな……

 大丈夫か、俺?



『そういえばカンガ、この辺りで食事にしないか? このゴブリン達、やせ細っているようだし、何か食わせてあげた方がいいだろ』



 ああ、確かにそうだな。

 HPが残り少なくなるほど飢えに耐えていたらしいからな、このゴブリン達。

 たらふく食べさせてやるのもいいかもしれない。


 よし、そうと決まったら早速調理開始だな!




 今回はフワンタクサ草とケロマからもらって穀物に加え、熱林でとったフワンネツマイ草を使って調理する。

 フワンネツマイ草には味をまろやかにする効果があって、胃腸に優しい味わいにすることができるものだ。


 こうしてできた料理が次の通りだ。



 おかゆ

 スープ状の汁にたっぷり浸した米を味わう料理。

 消化によく、胃腸に優しい。

 この料理は隠し味によってまろやかな味わいになっている。



 俺はみんなの分を皿にのせ、食事の準備を終えた。


 では早速いただきますと。



 ブルールはまた三秒ほどで料理を食べつく――さなかった。

 熱いおかゆに苦戦しているのだ。

 確かに直接口で食うブルールには食べにくそうだよな。

 食べるのにだいぶ時間かかるパターンだな、これ。



「な、なんですか、この料理は!? 見たことがないものでございますが……」

「お婆様、でもとても美味そうな匂いがしますよ!」

「確かに……カンガ様、この料理は我々も頂いてしまってよろしいのですか?」



 恐る恐る聞いてくるゴブリンの二人。

 俺はうなづいて許可をする。

 するとゆっくりとレンゲを使っておかゆを口に運ぶゴブリン達。


 おかゆを食べた瞬間、二人は驚きの表情を浮かべ、一心不乱におかゆに食らいついていた!

 そんなペースで食って熱くないのかな、二人とも?

 まあ気に入ってくれたようで何よりだ。

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