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太陽王の五つの影  作者: 藤堂 翔
第一章
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初仕事

 白い猪の店に戻ると、バーグが待ち構えていた。夜明けに二人で森に行く計画だったのだ。

「シャーニ、てめぇ! 一体どこ行ってやがった! 早く動き出さねぇと他の奴に先越されちまうだろうが!」

 唾を飛ばして怒鳴る大男を片手で押し留めて、シャーニは席に腰掛けた。皆仕事に出ている時間の為、店内はガランとしている。

「おい、聞いてるのか!?」

 テーブルに突っ伏したシャーニの肩を掴んで、バーグは更に声を荒げた。無理矢理身体を起こされて、シャーニは不機嫌にバーグを見やる。

「あぁ、聞いてる。ちょっと国王の寝室に招待されてたんだ」

「あぁ、そうかよ!」

 紛れもない事実だったが、バーグは冗談だと思ったようだ。それが正しい反応である。シャーニ自身にも、先程までの状況が信じられなかった。

 王の影になる。護衛や賞金稼ぎで日々を食いつないでいるようなこの自分が、王直属の密偵になるのだ。とても信じられる話ではなかった。そして、信じられないと言えば、もう一つ。王は彼の能力を信じた。人の過去や未来が見えるといる荒唐無稽な話を信じてくれた。

「……初めてだ」

 この能力を最初から信じてくれたのも、素晴らしいと言ってくれたのも。

「何だって?」

「いや、何でもない」

 隣にどっかりと腰を下ろしたバーグに、手を振って答えながら、シャーニは自分の口元が綻んでいるのを自覚した。どうやら自分は嬉しかったらしい。

「バーグ、賞金首捕まえるぞ」

「おうよ」

 あの王弟の命令に従うようで癪だったが、元々シャーニの目的は賞金首だ。ガルシアのことなど関係ない。それに王の為に動くというのは、悪い気分じゃなかった。

「太陽王アルハンド陛下の為に」

 シャーニは口の中でこっそり呟いてみた。悪くない。

「よし、森に行くか!」

 バーグは勢い良く立ち上がった。

「待て。少し考える」

「何でだよ? 昨日、どうするか考えただろう?」

「いいから」

 バーグは不服そうに椅子に座り直した。

「おい! エールだ!」

 大声で酒を注文する。シャーニは朝食も食べていなかったが、何も頼まなかった。考えに集中する。バーグは頬杖をついて退屈そうにしている。

 これはシャーニにとって、いつもの賞金稼ぎとは違う。王の影としての初仕事なのだ。確実にやり遂げなければならない。

 一晩でオリバーは何処まで逃げられただろうか?

逃げたのは夜だ。そう遠くには行けない。そして翌日の朝には、彼の手配書は、周辺の街にまで回っている。今やこの周囲で彼の顔を知らない者はいない。彼は迂闊に人前に顔を出せないはずだ。周辺のどこかに身を潜めているのだろう。

 バークレインの北側には、広大な森が広がっている。逆に南側はのどかな農村地帯だ。この森が一番隠れ場所として有効だろうとシャーニは思っていた。おそらくオリバーを狙う多くの者が同じことを考えているだろう。

 今や多くの人間が五百ギールの賞金首を狙って森に入っている。オリバーが人前に出られず、森の中に潜み続けるなら、時間はかかってもいずれ見つかるはずだ。あるいは、賞金を狙う者達の関心が薄れるのが先かもしれない。それでは駄目だ。なるべく早く見つけ、協力者の情報を聞き出さなければ。

 シャーニは目を瞑って、今朝の夢を思い出す。オリバーの居場所を絞り込む手掛かりが、何かないだろうか。

 夢の中でオリバーは、ボロボロの服を着ていた。罪人に着せるための、何も隠し持てない、袖のない服だ。手は後ろで縛られている。その剥き出しの腕は、皮膚がかぶれていた。シャーニはハッと目を開けた。

「バーグ! この辺りにルクラの木はないか!?」

「ルクラ? 南に行けばどっかの家が植えてるだろうよ」

 ルクラは刺と尖った葉を持つ低木で、畑を動物から守るために、しばしば家の周囲に植えられている。その刺は外敵を傷つけると同時に、特殊な樹液を分泌するのだが、その樹液に触れると人の皮膚はかぶれてしまう。

「よし、南だ。南に行くぞ」

 立ち上がったシャーニを、バーグは怪訝そうに見やった。酒をぐいと呷る。

「南? 森に行くんだろう。だったら北だ」

「いや、南だ。ルクラの木が生えた家を探す」

「はあ?」

「いいから行くぞ」

 大男の肩を叩いてシャーニは店を飛び出した。バーグはテーブルに酒の代金を放り投げ、慌てて後を追った。


 

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