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太陽王の五つの影  作者: 藤堂 翔
第一章
5/15

王弟

 うすうす感づいていたこととはいえ、実際に目にすると衝撃は一塩だった。

 シャーニは一瞬、目の前が真っ白になり、琥珀色の瞳を見てハッと我に返った。慌てて跪く。

「知らぬこととはいえ、大変なご無礼を。陛下」

「よせ。礼を尽くすのは私の方だ。危ないところを助けてもらったのだからな」

「もったいないお言葉です、陛下」

 王はシャーニを立ち上がらせた。黒髪の男が鼻で笑う。

「最低限の礼儀はわきまえているらしいな」

「ガルシア、そう突っかかるな」

 王は男を困り顔で見やった。それからシャーニに向き直り、男を手で示す。

「シャーニ、これは私の弟だ。ガルシアという」

「陛下!」

 王の紹介に、男が慌てたように声を上げた。

「弟……?」

 シャーニは首を傾げる。確か王に兄弟はいないはずである。

「母親が違う。所謂、異母弟というやつでね。公にはなっていない庶出の王弟だ」

 アルハンド王はそう補足した。隣で王弟ガルシアが、額を押さえてため息を吐く。

「陛下、こんな得体の知れない男に、なんてことを」

 王は弟にニヤリと笑ってみせた。悪戯を企む子供の顔だ。ガルシアは眉間に皺を寄せた。

「ガルシア、お前、戦える人材を欲しがっていたな?」

 ガルシアの眉間の皺が深くなる。王はシャーニの肩を引き寄せた。

「この黒猫はどうだ? 腕は私が保証しよう」

「陛下! 何を考えているんですか!? 敵の間者かもしれないんですよ!?」

 ガルシアが王に食ってかかる。凶暴な犬が吠えたてているような剣幕だが、アルハンド王はどこ吹く風だ。

「でも、もうお前のことを知ってしまったしな。そのまま帰すわけにもいかないだろう?」

「……それが狙いですか」

 一国の王に向けてはいけないような憎々しげな表情を浮かべ、王弟は兄を睨んだ。

「それに、過去や未来を見る力なんて素晴らしいじゃないか。ほとんど無敵だ」

 弟とは対照的に、王は朗らかに笑う。

「信じるんですか? そんな胡散臭い話」

 ガルシアはじろりとシャーニを睨んだ。だが、王のこの発言には、シャーニ自身も驚いていた。

「彼は私の命の恩人だ。あそこで助けに入ってくれなければ、私は背中から斬りつけられていた」

 王はシャーニに微笑みかける。シャーニは呆然と彼の瞳を見つめ返す。

「それとこれとは話が別でしょう。そもそも──」

 ガルシアの鋭い視線が王を射抜く。それまで平然としていた王が、その瞬間たじろいだ。話の矛先が変わったことに気づいたのだ。

「どうして護衛がいなかったんですか。陛下、私におっしゃいましたよね? 帰りは護衛がいるから大丈夫だと。だから私は別行動を取ったんですよ」

「いや、それは、その……」

 王の目が泳ぐ。弟の視線が鋭さを増す。

「陛下?」

 地を這うような声が答えを要求した。

「……せっかくのお忍びなのに、護衛なんて物々しいもの、付けたくないじゃないか。自分の身くらい自分で守れる」

「守れてないですよね? だからこんな事態になったんです」

 ガルシアのつま先が苛立たしげに床を叩く。太陽王と讃えられる偉大な王は、叱られる子供のように首を竦めた。

「その件については、後ほどゆっくりと」

 殊更恐ろしげに言い放ち、ガルシアはシャーニを顎で指す。

「とりあえず、そいつは連れて行きますよ。いいですね?」

「あぁ」

「それでは、失礼します」

 消沈した王に颯爽と告げて、ガルシアは部屋を出て行った。扉を開けたところで振り返り、シャーニを睨む。

「何してる。早く来い」

 シャーニは慌てて王に頭を下げ、王弟を追った。



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