太陽王
シャーニは男に連行された。行き先は城だ。
男はシャーニの言葉に何も言わなかった。ただ探るように彼を見て、何かを考えていた。そして、ついてくるよう言って、城まで連れてきたのだ。
男は、おそらく機密情報とされている賞金首の事情を知っていた。城に仕える衛士なのかもしれないとシャーニは思ったが、城の中を進むにつれ、様子がおかしいことに気がついた。
男はやけにこそこそと城内を動き回っている。人気のない道をわざわざ選んでいるようだ。
やがて通されたのは豪華な一室だった。派手ではなかったが、全体的に上質な家財道具で纏められているのは一目でわかる。
だが、シャーニは家具の一つを怪訝な面持ちで見やった。天蓋付きの寝台だ。通されたのは寝室なのだ。
「ここなら人は入らないからな」
男はそう言った。それからシャーニに部屋から出るなと言いおいて、自分は出て行ってしまう。
これは明らかにおかしい。確かに、城にはそこで寝起きしている使用人達がいるだろう。だが、彼らの寝室が、こんなに豪華なはずがない。ここは間違いなく王族の寝室だ。それなら、あの男は──。
室内で呆然と立ち尽くしていたシャーニの耳に、その時ドアの開く音が聞こえてきた。振り向くと、彼をここまで連れてきたあの男が、同じくらい背の高い男を伴って部屋に入ってきたところだ。
連れられてきた男は、黒を貴重とした上等な服を着ていた。見るからに身分ある人物だ。黒髪に青い瞳をしている。その瞳が鋭くシャーニを睨んでいた。
「こいつですか」
「あぁ」
黒髪の男はゆっくりとシャーニの周りを回った。猟犬が獲物の様子を窺っているようだと、シャーニは思った。男が正面に戻ってくる。
「お前、何者だ?」
青い瞳は射抜かんばかりにシャーニを見据えている。
「名前はシャーニ。それ以外に言うことなんてない」
牢獄ではなかったが、彼は捕らえられ、尋問を受ける身だった。だが、何も疚しいことなどしていないのだ。相手が身分ある者だろうが、屈するものかと思う。
「ふざけた野郎だ」
黒髪の男は不機嫌そうに眉を寄せた。
「あんた達こそ、何者? 人に聞く前にまずはそっちが名乗れよ」
「生意気な」
「ガルシア」
気色ばむ黒髪の男を、フードの男が止めた。片手で相手を押し止め、彼はシャーニに一歩近づく。
「確かに、命を助けて貰っておきながら、顔も見せないのは失礼だったな」
長い指がフードの縁に掛かり、それを背中に押しやった。
豊かな金髪がこぼれ出る。金の髪、琥珀色の瞳。精悍な顔。肖像画でしか見たことのない顔が目の前に現れた。
男は言う。
「私はアルハンド。この国の王だ」
太陽王と讃えられる国王その人が、目の前に立っていた。