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太陽王の五つの影  作者: 藤堂 翔
第一章
3/15

賞金首

 白い猪の店は二階が宿になっていたが、その日はもう一杯だった。そこに宿をとっているバーグが、同じ部屋に泊まっていけと言ったが、シャーニは謹んで辞退した。バーグはいい友人だが、同じ部屋で寝起きはしたくない。

 結局その日、彼は厩を借りて干し草の中で眠った。寝心地は良くなかった。だからあんな夢を見たのかもしれない。

 そこは薄暗くてジメジメした牢獄だった。一人の男が捕らえられ、尋問を受けている。男は枯れ草色の髪に濃い色の目をしていた。左頬に殴られた跡があったが、間違いなく手配書の男だ。そして彼の口から驚くべき事実が語られた。

 シャーニは飛び起きた。心臓がバクバクいっている。

「なんてこった」

 彼は呆然と呟いた。

 まだ外は暗かったが、そのまま寝直す気にもなれず、シャーニは厩を出た。睡眠を邪魔された馬が迷惑そうに鼻を鳴らす。

 いかな王都といえど、早朝の人通りはほとんどない。シャーニは静かな道をふらふらと歩いた。

「シャーニ!」

 声を掛けられたのは、パン屋の角を曲がった時だった。シャーニは立ち止まり、曲がったばかりの道に、パン屋の影からひょいと顔を出した。

 背の高い男が手を振りながら、大股に向かって来ている。茶色いフードを目深に被り、顔はほとんど見えない。

 誰だったかと思いかけ、すぐに昨日森で助けた男だと思い出した。そう言えば名前も聞いていなかった。

「良かった、見つけた。昨日、泊まる宿の名前も聞かずに別れてしまったから、随分探したんだ。どこに泊まってたんだ?」

 男は嬉しそうに告げた。まさか一晩中探していたわけではないだろうが、それでもこんな早朝から探しているなど、シャーニには信じられなかった。礼をする云々の話は、踏み倒されるものかと思っていた。

「白い猪の店だよ」

 男は首を傾げる。

「そこも行ったが、主人はそんな宿泊客はいないと言っていたぞ?」

「あの親爺、厩を借りた客のことなんてすっかり忘れてたんだろうよ」

「厩……」

 二人はゆっくりと歩き出した。目的地があるわけではなかったが、男は何も言わずにシャーニに合わせて隣を歩いてきた。

「それで、何をくれるって?」

「何でもいい。欲しいものを言ってくれれば用意しよう」

「欲しいものって言ってもなぁ」

 二人は大広場に着いた。早起きの老婆が石畳を掃いていたが、彼女以外に人影はない。ガランとした大広場は未知の場所のようで、なんとなく落ち着かなかった。

 何とはなしに辺りを見回したシャーニは、大広場の端に佇む掲示板に目を留めた。賞金首の情報や護衛の求人などが掲示されることもあるそれは、彼にとっては大事な情報源だった。

 一枚の紙が風に靡いている。シャーニはゆっくりと掲示板に近づいた。既に何度も見た五百ギールの男の手配書である。やはりどう見ても夢の中の男だ。

「これを狙ってるのか?」

 男が静かに聞いてきた。フードの奥の瞳は、親の仇でも見るように、手配書の似顔絵を睨んでいる。

「あぁ。もしかしてあんたもか?」

「いや、私は……」

 男は言いにくそうに言葉を濁した。もしかしたら、この男は手配書の男を知っているのではないかと、シャーニは思った。だとしたら、何をして首に賞金を掛けられたのかも、知っているだろうか。

「五百ギールなんて、一体何したんだろうな? この男」

「あぁ、何だろうな」

 シャーニは男の様子を観察する。顔はほとんど見えないが、声が若干硬いような気がする。

「神の花嫁を寝取ったとか? それとも──」

 シャーニは金色の瞳でじっと男を見上げた。

「シェーン砦の情報を盗み出した、とか?」

 男がぎょっとしたようにシャーニを見下ろした。フードから覗く琥珀色の瞳が、一気に警戒の色を帯びる。

「どうしてそれを知っている」

 ぐっと低くなった声が、鋭くシャーニに向けられた。答え次第では剣を向けられるかもしれない。だが、これにはシャーニも肩を竦めるしかない。

「夢を見たんだ」

「……何だって?」

「夢の中で、この手配書の男がそう言っていた」

 男の手が腰の剣に掛かる。

「本当のことを言った方が身のためだぞ」

「本当だ」

 シャーニは真剣な眼差しで、相手の目を見返した。

「信じられないだろうが、俺には見えるんだ。人の過去や未来が」

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