王都
バークレインは王都の名だ。王城の足元に広がる、堅牢な市壁に囲まれた大都市である。
着いたのは太陽が真上に輝く頃で、都が一番の賑わいを見せる時間帯だった。
門を潜ったところで、シャーニは馬車を降りた。男は先に、御者を医者に診せたいと言い、シャーニも反対しなかった。必ず礼をすると約束し、男は去って行った。
通りは、売り子の声や走り回る子供達の笑い声、馬の蹄の音や馬車の車輪の音に満ちていた。心地良い喧騒にしばし身を浸してから、シャーニはぶらぶら歩き出した。
大通りの一角に彼の馴染みの店がある。看板には白い猪が描かれているのだが、煤けて灰色になっている。
扉を押し開けると、熱気と食べ物と酒の匂いが一気に襲ってきた。シャーニは一瞬顔をしかめ、店に踏み入った。
食事時とあって、店内は大変な賑わいである。席を探す彼の視界に、その時ひらひらと手を振る人物が映った。
「おい、シャーニ。こっちだ、こっち」
厳めしい髭面の大男が、にこやかに彼に笑いかけていた。
「バーグ、久しぶりだな。こっちに戻ってたのか」
人混みを掻き分け、彼はバーグに近づいた。大男の隣に腰を下ろす。
バーグは、今年で二十一になるシャーニの倍近くも年上の男だが、二人は極親しい友人同士だった。
「昨日の夜な。お前さんも、アレが目当てなんだろう?」
バーグがニヤリと笑いかける。彼が示すものが何かを察して、シャーニも同じ笑いを返した。
「まぁな」
「首尾はどうだ?」
「俺は今着いたばかりだよ」
シャーニは首を巡らせて給仕を探し、手を振って合図した。
バーグが煤けたテーブルに頬杖をつく。
「それにしても、五百ギールたぁ恐れ入ったね。そいつ一体何をやらかしたんだ?」
「王妃様のベッドにでも潜り込んだんじゃないか?」
給仕が注文を取りにくる。食事と酒を頼んで、シャーニはバーグに向き直った。
「だが、奴が何をやらかしたにせよ、五百ギールはとんでもない大金だぜ? これを逃す手はねぇよな?」
「あぁ、全くだ。どうだ、手を組まないか?」
「一人二百五十ギール。悪くないな」
二人は顔を見合わせてニヤリと笑った。
数日前、王都を始め、周辺の街に一枚の手配書が回った。とある男を捕らえた者に、報奨金五百ギールを出すというものだ。その一報を受け、シャーニのような己の腕で生計を立てている者達が、続々と王都周辺に集まっている。
手配書の似顔絵によると、賞金首は細面の神経質そうな顔立ちだ。年は三十代だという。依頼主は政府で、必ず生け捕りにすることとの条件が付いていた。
料理と酒が届いた。大金の為に、シャーニとバーグは計画を練り始めた。