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太陽王の五つの影  作者: 藤堂 翔
第一章
13/15

出立

 もう日が暮れてから、ガルシアの使いがシャーニを訪ねてきた。

 オリバーを目当てに王都に来ていた者達がいなくなったため、白い猪の店の客室は空きができ、シャーニはそこに部屋を取っていた。昼間のうちに研ぎに出していた剣を、蝋燭の灯りの元で点検していたところに訪問者はやって来たのだ。

「今から?」

 シャーニは不機嫌そうに使いを見下ろした。まだ少年と呼んでも差し支えのない年頃の小姓は、縮こまりながらこくりと頷いた。

「ガルシア様が、すぐに、と」

 シャーニはため息を吐いた。小姓が不安げに彼を見上げる。

「分かった。すぐに行く。あの裏手の小屋だろう? 行き方は分かるから、あんたはもう帰っていい」

 少年は明らかにほっとした顔になり、失礼しますと頭を下げて帰って行った。その背中を見送って、シャーニはもう一度ため息を吐く。

「ったく、自分が来いよ」

 ぶつぶつ文句を言いながら、蝋燭の火をカンテラに移し、それを持って部屋を出た。階段を下りると、一階の店では酔った客達が騒いでいる。

「よぉ、シャーニ! これからお楽しみか?」

 バーグの大声が聞こえた。首を巡らせてその姿を探すと、酔っ払い客の輪の中で赤い顔をして笑っている。

「なんにも楽しくない所に行くんだよ」

 何が楽しいのか、バーグはゲラゲラ笑った。シャーニはため息を吐いて、そのまま店を出ようとした。

「そういや、お前またなんかやるんだってなぁ。せっかく金が入ったんだから、もっと楽しめばいいのに。俺達みたいに」

 その言葉にバーグの仲間達が笑う。シャーニは思わず足を止めていた。仲間と一緒になって笑っているバーグを見やる。

「なんかやるって、なんでわかる?」

「昼間、お前と組むって野郎が来たのさ。お前のこと教えろってな。お前が俺以外と組むなんて珍しいじゃねぇか」

「……それ、どんな男だった?」

「背の高い奴だったなぁ。黒い髪に青い目をしてた」

 シャーニは舌打ちした。思い当たるのは一人しかいない。

「あの野郎、こそこそ嗅ぎ回りやがって。……で? お前、なんて答えたんだよ」

「出会った頃のことを話してやった。お前にまだ可愛げがあった頃の話をな」

 バーグはゲラゲラ笑い出し、シャーニは酔っ払いを心底嫌そうに見やった。頭を軽く振って、今度こそ店を出る。

 今夜は満月だった。月明かりと星々の明かりで、白い王城の姿がぼんやり浮かんで見えている。シャーニはその姿をじっと睨み据え、カンテラの明かりを頼りに歩き出した。

 城門に着くと、二人の門番がそこを守っていた。一方が厳しい誰何の声をあげ、もう一方が持っていた明かりでシャーニの顔を照らし出す。その瞬間、二人がぎょっとしたのをシャーニは見逃さなかった。暗がりで人と出くわすと、大体同じような反応をされる。暗闇の中、金の瞳はより一層不気味さを増して、妖しく輝くらしい。

「……ガルシア様の客か」

 一方が低い声で言った。ガルシアから何か聞かされていたのだろう。シャーニは口の端で笑ってみせた。

「客なんていう、大層な扱い受けたことないけどな」

「……入れ」

「どうも」

 城の裏手に回り、打ち捨てられたようにポツンと佇む小屋に入る。床下の扉を開け、階段を下りると、黒髪青目の王弟が不機嫌そうに待っていた。

「遅い」

「あんたはそれしか言えないのか?」

 シャーニはエリシダの席であるガルシアの向かいに座った。彼のための椅子はまだ用意されていない。

「で? オリバーから何か聞き出せたか?」

「オリバーは死んだ」

 吐き捨てるようにガルシアは言った。シャーニは目を丸くし、次いで疑うように上司を見やった。

「……何だって?」

「衛兵の隙を突いて武器を奪い、自ら命を絶ったそうだ」

「それで、協力者の情報は?」

「名前と居場所は聞き出せた」

 シャーニは拍子抜けしたようにガルシアを見やり、椅子の背もたれに深く寄りかかった。

「なんだ。じゃあ、何の問題もないじゃないか」

 青い瞳がシャーニをじろりと睨む。

「奴に指示を出した主人の正体を聞き出せなかった」

「あぁ」

 シャーニは納得して頷いた。

「でも、ランドルフが調べてるだろ? 確かに直接聞き出すより時間は掛かるだろうが、そんな気にすることか?」

「オリバーの言質が取れれば、今後、帝国と交渉するときに切り札に出来た」

 イライラとガルシアはテーブルを指で叩く。シャーニは肩を竦めた。そういう政治的な問題には関わっていられない。

「居場所が分かったってことは、すぐ出発か?」

 シャーニが話を切り替えると、ガルシアは指の動きを止めて頷いた。

「明日の夜明け前に出る。南門に来い」

「了解。それで、目的地は?」

「アズール」

 アズールは王国の南の国境沿いにある街だ。そこから半日ほどで隣国アルトレントに入れる。

「ってことは、アルトレント経由で帝国に入る計画だったみたいだな」

「オリバーが捕まったことが既に耳に入っているかもしれん。そうなれば奴はさっさと国に戻ろうとするだろう。奴が帝国に入る前に捕まえる。王国と、我らが王の為に──分かっているな?」

 ガルシアが真剣な目でシャーニを見つめる。青い瞳に飲まれたように彼を見つめ返し、シャーニは頷いた。

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