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太陽王の五つの影  作者: 藤堂 翔
第一章
10/15

作戦

 シャーニ以外の影達は自分の定位置の椅子に座った。シャーニの分だけ、まだ椅子が運び込まれていない。ガルシアの嫌がらせかと思ったが、真剣な場の空気を壊しそうなので、口を出すのは止めた。腕を組み、近くの壁に寄りかかる。

「まずは報告を」

「アルトレントは、やっぱり少しきな臭いわね。シェーン砦の方も大変だけど、こっちを放置するのも危険だと思うわ」

 ガルシアの問いに真っ先に答えたのはロアだ。ガルシアは難しい顔をして頷く。

 アルトレントはこの国の南に位置する国で、帝国とも境を接している。帝国に対抗するために、帝国以東の国々で結んだ同盟にも加盟している。

 そのアルトレントがどうしたというのだろう? 一人話について行けないシャーニを、近くに座っていたエリシダが指先で差し招いた。シャーニが顔を寄せると、会議の邪魔にならぬよう、小声で状況を教えてくれる。

「アルトレントが同盟を破って帝国側につくのではないかという情報がありましてね。ロアはそちらの調査を担当していたのです」

「帝国側についたってアルトレントにいいことなんてねぇだろ」

 帝国が山脈を迂回してこの国に攻め込もうとするならば、アルトレント国内に入るしかない。アルトレントが帝国側につき、自国内を帝国軍が通行することを許可すれば、帝国はアルトレントと剣を交えずに直接この国を攻められる。だが、その場合、戦場となるのはこの国とアルトレントの国境沿いだ。他国同士の争いで自国の土地が踏み荒らされるなど、アルトレントにしてみれば利益がないように思われる。

「そこなんですよ。何を考えているのか、よく分かりません。だから不気味なんです。まぁ、もっとも、あの国王のことですから、帝国との正面衝突が怖いだけかもしれませんが」

 シャーニはアルトレントの国王がどんな人物か知らなかったが、エリシダの口振りからすると臆病な質らしい。状況は理解した。シャーニは頷いて、続くランドルフの報告に意識を向ける。

「──って、訳だから、こっちはもう手を引いてもいいと思うね。これ以上は時間の無駄だ」

 話を聞き逃した。エリシダにちらりと目を向けると、彼は得心したように微笑んでみせた。エリシダは、シャーニと話しながらも報告を聞き逃さなかったらしい。

「ランドルフは鋼の流出について調査してたんですよ。流出のルートと首謀者は割り出せましたから、後は役人に任せておけばいいでしょう」

「密輸ってことか?」

「有り体に言えば、そうですね」

「シャーニ、お前も報告しろ」

 シャーニとエリシダの会話に、偉そうな声が割り込んだ。机の対面で、ガルシアが不機嫌そうにシャーニを見ている。

「俺?」

「そうだ」

「あー、俺は……」

 四人の視線を一身に浴びて、シャーニは居心地悪そうに身じろいだ。視線をさまよわせながら、頬を掻く。

「オリバーを捕まえた。野郎、民家に逃げ込んでやがったよ」

「聞くところによれば、お前は最初から民家に狙いを定めていたらしいな。それも、ルクラの木が生えた家ばかりを訪問していたとか。どうしてだ?」

 ガルシアの瞳はじっとシャーニを見据えている。誤魔化しは許さないと言わんばかりだ。元より誤魔化すつもりなどないシャーニは肩を竦めた。

「奴が、ルクラの木が生えた場所の近くにいると、分かったからさ」

「どうして分かった」

「夢で見た時、奴の腕がかぶれてた」

 ガルシアが片眉を吊り上げた。シャーニは疑いの視線を真っ向から見つめ返す。先に視線を逸らしたのはガルシアだった。犬でも追い払うように片手を振る。

「もういい」

 シャーニは鼻を鳴らした。再び腕を組んで壁に寄りかかる。場に落ちた沈黙に、自然と皆の視線がガルシアに集まった。

 ガルシアはしばらく、口元に手を当て、机の一点を見つめて何やら考え込んでいた。不意に目を上げる。

「ロア、お前は引き続きアルトレントの調査を」

「えぇ」

「ランドルフは帝国に向かえ。情報を欲しがっているのは帝国だ。オリバーの主人を探り、俺達がしくじった場合、そこで食い止めろ」

「了解。で、俺達って?」

 ガルシアの青い瞳がシャーニに向けられる。シャーニは眉を上げた。

「俺と、こいつだ」

「なんで俺」

「目を離しておけないからだ。お前は俺と、オリバーの協力者を追う」

「あんたらが探ってるって奴か。成果はどうだったんだよ?」

 ガルシアがエリシダと顔を見合わせた。ロアとランドルフの二人が他の仕事に就いていたなら、その役割は彼ら二人の担当だったのだろう。

「オリバーがバークレインに来てからの足取り、交友関係を全て洗ったが、特定は出来なかった」

「よほど慎重にやり取りしていたようですね。頻繁に手紙のやり取りはしていたみたいですけど、直接会った形跡は欠片もありませんでした。その手紙も、毎回違う人物を何人も経由して渡されているので、追跡出来たとしても時間が掛かりすぎます。あなたがオリバーを捕まえてくれて本当に助かりましたよ」

「ふーん?」

 シャーニはにやにやしながらガルシアを見やった。オリバーの協力者が誰なのかは、オリバーに聞くのが一番早い。ガルシアに上げられなかった成果を自分が上げたというのは愉快だった。ガルシアは不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「ガルシア様、私はいつも通りでよろしいですか?」

 ガルシアとシャーニの子供じみたやり取りに、エリシダが苦笑しながら割って入った。

「あぁ、頼む。──シャーニ、お前はもういい。さっさと帰って出立の準備でもしておけ」

「へいへい、王弟殿下の御心のままに」

 投げやりに答えて、シャーニは壁から背中を離した。階段まで歩いて行き、そこでくるりと振り返る。

「それでは皆様、ご機嫌よう」

 大袈裟な身振りで礼をしてから階段を上がる。四人はこれから、自分には聞かせたくない話でもするのだろうとシャーニは考える。ガルシアだけでなく、影達はまだ自分を信用してはいない。シャーニは小さくため息をついた。

 

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