「ヒューマンストーリー」 二十話:取り残される者
-----静岡県・静岡市・某所-----
辻岡「くそっ!どこに行っても奴らだらけだ!」
小隊陸曹「どうしますか?」
辻岡「今考えている!・・・田村!目標地点まであとどの位だ!?」
田村「500mです!」
小隊陸曹「強引に突破しますか?」
辻岡「そうだな・・・よし!目標地点まで全力で走るぞ!駅まで行けばきっと援護が受けられる!」
小隊陸曹「全員腰を上げろ!合流するぞ!」
辻岡「弾薬は足りてるか?」
小隊陸曹「十分です、小隊長!」
辻岡「よし!合図で一斉に行くぞ!」
-----JR静岡駅前・南口付近-----
「1小隊 射撃用意!目標 前方の暴徒先頭集団! 距離300 単連射! よく引き付けろ! 辻岡の隊には当てるな!・・・撃て!」
銃声「パパンッ! パパンッ!」
「そのまま撃ち続けろ! 1班から交互に後退!」
銃声「パパンッ! パパンッ!」
「急げ!中に入れ!早く!」
萩原「全員入ったか!?」
辻岡「大丈夫です!」
「扉を閉めろ!早く!」
俺たちと辻岡の隊は運良く近くの建物内に逃げ込むことが出来た。
辻岡「どうする!?夜明けまでに生存者を見つけてさっさと撤退しないと・・・やばいぞ!」
「今考えている!目標のガソリンスタンドまであと、どのくらいだ!?」
久保「ここから約1kmです。」
扉「バンッバンッ!!!」
萩原「扉をしっかり押さえろ!何かバリケードになりそうなものは!?」
「ここもいつまでもつかわからんな・・・」
辻岡「中村さん、無線は繋がりますか?」
中村「大丈夫です!」
辻岡「上空から位置情報を送ってもらうというのは?」
「そうだな、それが最善かもしれないが・・・外がこの状況だと要救助者が屋外に居る確立は低い・・・」
辻岡「とにかく、ここでしばらく身を潜めよう。1kmなら不可能な距離じゃない。」
-----静岡県・磐田市・浜松バイパス-----
浜松市職員「誘導に従って進んでください!各自必ず検閲を受けるように!」
医官「はい!大丈夫です。次の方・・・」
河川敷に設置された磐田市と書かれたテントの中では自治体・警察・自衛隊などの関係者がそれぞれ話をしていた。
磐田市職員「全員の避難が完了するまで、どれくらい掛かりそうですか?」
自衛官A「検閲を行う人間にも限りがあります。現在ここに居る人数だけでも今日中に終われるかどうか・・・」
警察官A「検閲を終えれたとしても愛知県まで移送するための車両が圧倒的に不足してます。既に自衛隊・警察・自治体の車両は出払っていて、民間のバス会社にも協力をお願いしていますが、今日中の移送は難しそうです。詳細はまだ分かっていませんが・・・袋井の方では既に感染者が何人か確認されていて機動隊との衝突があったとも・・・」
磐田市職員「陸路がダメなら空というのは?」
自衛官A「空自のチヌークが何機か向かっているそうですが、その程度です。自衛隊のヘリは既に部隊・物資の移送や要救助者の救助などに使用されており、民間人の移送にはとても・・・」
警察官A「県内にある県警のヘリは2機ですが、とてもじゃありませんがこの人数は・・・」
磐田市職員「これ以上打つ手はないのか・・・」
警察官A「ここまで感染者が来るのも時間の問題です。既に警戒線に機動隊及び放水車の配備は完了していますが、これでどれだけ粘れるか・・・」
-----静岡県・磐田市・JR磐田駅-----
ここにはまだたくさんの人間が居た。高速や国道は逃げ惑う人々であふれ、通行は困難となっていた。自動車による移動手段を断たれた者たちが考えることはみな同じで鉄道による避難を求め駅へと人が詰め掛け長蛇の列が並んだ。俺の所属する第34普通科連隊は部隊単位で駐屯地からの撤退を余儀なくされ、安息の間もなく要救助者の安全確保のため避難民が集まるここ磐田駅へ派遣された。最初にここに派遣された頃は危険地域に取り残された、生存者たちを救出するため県の中部まで列車を走らせていたが感染者たちの侵攻に伴い後退を余儀なくされていた。脅威が今もここへ着々と侵攻を続けていることを知らない者はまだ少なくなかった。
板垣「静かですね・・・」
俺は隣に立っている上官の桐嶋二曹に話しかけた。
桐嶋「そりゃあな・・・何て言ったって日本だからな・・・」
世界がひっくり返ろうとこの日本人特有の異様な落ち着きようは崩れないんだろうなと自然と頭の中でそう思った。
桐嶋「板垣・・・お前、入ってどの位経つ?」
板垣「3年です。」
桐嶋「なるほど・・・。てことは今回が初めての現場か・・・」
板垣「そうなりますね・・・。」
桐嶋「初めての現場が治安出動か・・・」
桐嶋二曹は苦笑いを浮かべながらそう言った。彼がそう言うのも無理はない。これまで、安保闘争、学生運動、労働争議、新宿騒乱、などで治安出動が検討されたことはあり、治安出動の請願が地方議会で可決されたこともある。しかし、“軍隊”の実力を騒動鎮圧や治安維持に用いるのと同じなので、実際に治安出動が発令されたことは一度もなかったからだ。
板垣「仕方ないですね・・・こんなことになってちゃ・・・」
桐嶋「それにしても・・・多いな。人。」
板垣「他県からの人も少なくないですからね。」
そんなことを話してると後ろから怒鳴り声が聞こえてきた。声に集中して聞いてみると何やら2人の男性が怒鳴りあってるように聞こえた。
民間人A「私たちが並んでただろうが!割り込むんじゃない!」
民間人B「何だよ!おめぇらが列空けてたんだろうが!」
民間人A「皆並んでるんだ!ルールを守れ!」
民間人B「なんだてめぇ!何様だ!」
民間人A「喧嘩がしたいんじゃない!子供だっているだろ!怖がってるじゃないか。少し落ち着きなさい!」
民間人B「はぁ!?それで列譲れってか!?」
そう言って。興奮気味の男性は揉めてる男性の胸倉を掴んだ。
桐嶋「板垣。」
板垣「はい!」
板垣「落ち着いてください!」
桐嶋二曹に名前を呼ばれ、俺は2人の間に止めに入った。2人を引き離すと俺は興奮気味の男性を押さえに掛かった。それに続いて桐嶋二曹も近くから連れてきたのであろう。腕に「MP」の腕章を着けた2人の警務官と1人の警察官を連れてきた。
民間人B「何すんだこの野郎!おめぇらがもっと車用意すればこんなとこで並ぶ必要ねぇだろうが!」
彼がそう言うのも無理はないもう既に群集が列をなしてから5時間は経過してる。しかしこの群集が一向に進む気配はない。恐らく車両側でも何かトラブルが起きてるのだろう。俺は興奮気味の男性の身柄を警務官と警察官に任せ、桐嶋二曹と共に自分の持ち場へと戻ろうとした。しかし近くにまだ幼い男の子を抱きかかえながら蹲る女性が居た。
桐嶋「大丈夫ですか?」
女性「子供が・・・喘息の発作が出て。」
桐嶋「吸入器などは?」
女性「それが・・・自宅に置いてきてしまって・・・」
板垣「あの、僕のでよければ・・・」
女性「良いんですか?」
板垣「はい。どうぞ。」
女性「すみません・・・」
板垣「少し待っていてください。」
僕はそういうと近くの自販機でハーブティーを買い、女性に手渡した。
板垣「これ結構効くので、飲ませてあげてください。」
女性「すみません、ありがとうございます。」
板垣「いえ、それと子供連れの方は優先的に避難させてるので車両まで一緒に行きましょう。」
女性「はい。」
子供を助けられて良かった。一息つくと俺は桐嶋二曹と共に女性を連れて駅へと歩を進めた。この時既に侵攻の手がすぐそこまで迫っていることを誰も予想だにしなかった。
板垣 大輔 年齢:21 職業:自衛官
階級は三等陸曹。正義感に溢れ震災を機に人を助けたいという思いに駆られに高校を卒業し一般曹候補生として陸上自衛隊へ入隊。第34普通科連隊へ小銃手として配属される。一見すると優しい顔立ちが特徴で高校時代は陸上部へ所属し長距離を得意とする。軽い喘息もちで中学時代から付き合ってる大学生の婚約者が居り、いつも写真を肌身離さず持っている。
桐嶋 彰人 年齢:23 職業:自衛官
階級は二等陸曹。板垣が居る第34普通科連隊所属で年齢が近く板垣が最も隊内で親しく頼りにしている上官である。板垣と同じく高校卒業後一般曹候補生として入隊。レンジャー徽章保持者で周りからは強面の顔とは裏腹に優しい内面をもち面倒見の良い自衛官として知られている。悩みは高校卒業以来、恋人が出来ないこと。




