「ヒューマンストーリー」 十八話:揺れる内閣
-----愛知県・小牧市・小牧基地-----
朱音「本当に行くの?」
「仕事だからね。」
朱音「でも、東京って・・・」
「すぐ帰ってくるよ。」
朱音「・・・・・・」
「姉ちゃん、分かってくれよ。俺も自衛官としての責任がある!」
朱音「分かってるけど・・・他の人と変わったりは・・・」
「できないし、する気もない・・・」
朱音「・・・・・・」
「大丈夫だから・・・死なない為に訓練してるんだ。」
朱音「無事に帰ってきたら、ちゃんと顔見せてね。裕樹もあなたになついてるから。」
「あぁ。」
朱音「行ってらっしゃい。」
「・・・・・・」
俺は唯一の肉親の姉に出発の挨拶をした。お互いに何かを悟っているのだろうか。今は自然と口数が減った。
-----静岡県・静岡市・某ガソリンスタンド-----
浅井「どうしますか?」
塩上「そちらは何人居ますか?」
浅井「6人です。うち4人は民間人で1人未成年の子がいます。」
塩上「なるほど・・・。保護としてこちらの自衛官をそちらに付けます。よろしいですね?」
浅井「本当ですか?」
塩上「こちらの責務ですから。しかし1つ気になるのですが・・・」
浅井「どうしました?」
塩上「民間人でほとんど丸腰のあなたがたは武器もなしにどうやってここまで来たんですか?」
浅井「そのことなんですが・・・」
塩上「はい?」
浅井「武器は警察官の上条さんのものを使用し、こちらの谷口さんは確かに民間人なんですが元海上保安官らしく銃の扱いに長けていて・・・」
塩上「それはつまり、民間人が警察官の銃を使用していると・・・」
浅井「そういうことになります。」
塩上「なるほど・・・状況も状況ですので、その件に関しては避難が完了した後に・・・」
浅井「分かりました。」
その話を聞くと塩上は少し歯切れが悪そうにそう言った。
浅井「あ、あのあなたの名前は?」
塩上「宇都宮駐屯地・中央即応連隊所属の塩上洋介です。」
浅井「なるほど、沼津消防本部の浅井守です。助けていただきありがとうございます。」
塩上「先程も言ったとおり我々の責務ですから。名倉さん!田島さんの班と共に彼らの護衛をお願いします。銃の使用は各自の判断に任せます。」
名倉「了解!」
浅井「よろしくお願いします。」
名倉「そんなに硬くならないでください。我々がついてるのでもう大丈夫ですよ。」
名倉と呼ばれたその自衛官は愛想よく答えた。
名倉「何か困ったことがあったら我々に言ってください。」
塩上「おい!無線は通じるか?」
自衛官A「ダメです!さっきから何度もやってるんですが音沙汰無しです。」
塩上「分かった。」
自衛官A「どうします?」
塩上「先程の哨戒ヘリのことも気になる。とりあえず翌日までこの場に留まって様子を見よう。」
自衛官A「了解!」
-----海上自衛隊・護衛艦「いずも」・【内閣府・緊急対策委員会】-----
ここ護衛艦いずもには今までどうりの各閣僚だけでなく統合幕僚長や陸・海・空幕僚長、その他にも警察庁長官を始めとし、海上保安庁長官、消防庁長官など各行政の面々も顔をそろえていた。
内閣総理大臣「状況は?」
異様な静けさの中、総理大臣の一言で会議は開始された。
防衛事務次官「現在、感染は関東全域及び東海、北陸まで拡大しており自衛隊は中央即応集団・東部方面隊が現在治安出動により東海・北陸を中心に展開中。中部方面隊及び、東北方面隊には治安出動待機命令が発令されています。」
内閣総理大臣「感染状況の報告を・・・」
厚生労働大臣「はい。現在各自治体と共同で感染者の特定に当たっていますが、関東圏内は封鎖されているため調査自体ができておらず静岡県・山梨県・福島県では一部住人にそれらしき症状がみられ現在本人の同意の上で隔離、経過を観察中です。」
内閣総理大臣「分かりました。防衛大臣!現在の自衛隊の対応は?」
防衛大臣「はい、現在は中央即応集団並びに東部方面隊が対応に当たっています。当初懸念されていた自衛隊内での感染爆発ですが事故発生直後、東部方面隊を一時的に撤退させたことにより現在、都内駐屯地以外の隊員にそれらしき症状が見られる者は居りません。現在は自衛隊を主動とした救出作戦が進行中です。」
内閣総理大臣「なるほど・・・進行中の作戦というものは?」
防衛大臣「現在封鎖中の都内に取り残された中央即応集団零下の中央即応連隊の救出に第1空挺団を派遣するという物です。」
内閣総理大臣「聞いたものによると、その作戦は自衛隊のみで行うわけではないんだろ?」
防衛大臣「はい。被災者及び自衛官の移送の際に海上保安庁・警察の船の使用、並びに護衛の為に双方の特殊部隊の支援を要請しました。」
内閣総理大臣「それは合法の範囲内で行うものなのか?」
防衛大臣「感染者の襲撃に対抗するために現在銃器の発砲を検討中ですが・・・」
内閣総理大臣「発砲だと!?」
防衛大臣「はい、救助員の人命を守るためには発砲は必要な判断だと・・・」
内閣総理大臣「君はそれを本気で言っているのか?」
防衛大臣「はい。」
内閣総理大臣の質問に対して防衛大臣は毅然とした態度でそう答えた。
内閣総理大臣「警察庁長官、発言を許可する!現在の警察の対応は?」
警察庁長官「はい。正直なところ警察力での対応は既に限界であるかと・・・」
官房長官「何を言っているんだ・・・」
警察庁長官「現在警察、治安出動中の自衛隊を含め警職法を運用した上で事態の収拾に当たっていますが警職法の法解釈上、感染者に襲われた場合に対処できないかと・・・」
官房長官「つまり銃の使用を許可しろとそう言いたいのかね?」
警察庁長官「厚生労働省から送られた資料を見る限り銃器の使用以外での対処法が見つからないのが現状です・・・」
官房長官「君、その発言はこの場では不適切だ!わきまえたまえ!」
警察庁長官「私は事実を申してるまでです。現在の自衛隊の運用方法では対応できないのも現状です。本来ならすぐに緊急事態の布告を発令し陸・海・空、全自衛隊に治安出動命令を出すべきです!」
内閣総理大臣「つまり全自衛隊を総動員し感染者に対し警察力を行使しろと・・・」
警察庁長官「それに加えて、先制攻撃の許可を・・・」
官房長官「馬鹿なことを言うんじゃない!そんなことをしてみろ。また軍国主義の再来だ何だと騒がれるぞ!」
防衛大臣「では自衛隊にどうしろと?」
内閣総理大臣「仮に発砲を許可するとして合法的な解釈が何かあるのか?」
法務大臣「この場合、国民の生命と財産を守るための超法規的措置というものはどうでしょうか?」
内閣総理大臣「どういうことだ?」
法務大臣「事実、既に法律の範囲内での活動では収束不可能な状態です。超法規的措置以外での方法が何かありますか?」
防衛大臣「正直なことを申しますと既に各自衛隊の統制が利かなくなっています。それぞれ各指揮官の独断による作戦及び銃器・弾薬などの使用、自衛隊車両の運用が行われています。ここがご決断の時かと・・・」
内閣総理大臣「今言ったことは本当か?」
防衛大臣「はい。現在の自衛隊は政府の承諾を待たずに独断の指揮で行動しています。このままでは本当に政府の統制が利かなくなります!今こそ決断をし、再び統制を政府の元に置くべきです。」
内閣総理大臣「君たちは・・・私に憲法68条を行使させたいのか・・・?」
法務大臣「構いません。」
内閣総理大臣「・・・・・・!?」
法務大臣「構いませんが、今この状況で閣僚を解任すればどのようなことにになるのかをお考えください。それを踏まえた上で、我々に解任を強いるなら、我々は総理の意向に従います!」
内閣総理大臣「お前たち・・・」
法務大臣「どうされますか?」
内閣総理大臣「外務大臣!」
外務大臣「はい。」
内閣総理大臣「全自衛隊を出動させた場合に起こる、近隣諸国からの反応は?」
外務大臣「はい。感染症の被害は世界規模で事態の発生当初から我が国の在外公館との連絡が取れていません。近隣諸国政府も同様です。」
内閣総理大臣「つまり、どのような影響が起こるかわからない・・・ということか。」
外務大臣「あくまで私の推測ですが、この感染症は世界規模で発生しているものかと思われます。仮に我が国が自衛隊を出動させたとして他の国から及ぼされる国際上の影響はないに等しいものかと・・・」
内閣総理大臣「どこの国も自国のことで手一杯か・・・」
一同「・・・・・・」
内閣総理大臣「少し、時間をくれないか?」
防衛大臣「はい・・・」




