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黒き聖伝  作者: ヨクイ
【少年編】
9/52

第8話 生徒会

 俺がいる学校の中等部には、三大派閥がある。

 国内最大手の商会の子息であるジャイルがまとめる、富豪商人の子弟が所属する派閥。

 国の軍統括を任されているゾルニク元帥の娘、フェラニカが幅を利かせている軍人家系の派閥。

 そして、俺も一応属していることになっている、貴族派閥。

 この貴族派閥は、皇族に名を連ねる名家の子息、マラエヴァという少年が筆頭だ。

 そして、各派閥のトップである三人は、そのまま生徒会役員でもあった。


 マラエヴァが会長。

 噂によれば、彼は家柄が良いだけでなく、自身も隙がない優秀な人物らしい。


 副会長は、フェラニカ。

 彼女は女でありながら、元帥の娘の名に恥じないほどの男勝り。

 家柄だけでなく、彼女の人柄に純粋に惚れている生徒も多いと聞く。


 そして、残るジャイルは会計。

 彼のその商才は、生徒会においても遺憾なく発揮され、教師たちを喜ばせていると専らの噂だ。

 ただ、彼自身は五男なので、残念ながら家の商売を継ぐ余地はなさそうだが。


 派閥は誰かから指示されたものではないが、教師たちもその恩恵にあずかっており、また、進学や進路、将来の人脈にも関わってくるものなので、意外と根強い。

 俺の今後を考えると、この三人と今のうちにつながりを作っておけば、後々何かと便利なのは確かだ。

 だが、今の俺に、彼らとの接点は何もない。

 彼らは取り巻きに囲まれており、同じ中等部の生徒であるにも関わらず、言葉をかけることも許されない。

 それ以前に、近づくことすらできないだろう。

 そこで俺が目をつけたのが、 "生徒会"の存在だった。

「生徒会役員?」

「うん。みんな魅力的な人たちで、かっこいいなと思って」

 自称親友のケラーニをいつものようにおだてて、俺はそれとなく、奴に生徒会の話題を振ってみた。

「――まあ確かに、"ある意味"、よくできた人たちだけど。いいか、生徒会ってのはな……」

 そう言って、ケラーニは小声で俺に話し始めた。

 この学校の生徒会役員というのはそもそも、生徒から多く推薦のあった者が選ばれるのが慣例だった。

 すなわちそれは派閥から支持された者――、つまり派閥のトップというわけだ。

 過去には親の権力を受けて、教員が推薦するという例もあったようだが、派閥のトップは往々にして名家の出身者が多いので、ここ数年、教師推薦枠はないということだった。


 ――教師推薦枠、か。


 つまりは、家からの賄賂だ。

 本来は、将来の進路を案じた親が教師にねじ込むものだろう。

 生徒会の役員でもやれば、進学に有利だからだ。

 神学学校への道が約束されている俺にとっては、あまり意味のあるものではない。

 "親が金を積んで将来を買わなければならないほど無能"であることの証明になってしまうわけだから、周囲に与える印象はむしろ、最悪だろう。

 だが、彼らとの接点を持つには、それしか方法がないと思われた。


(やるか)


 金なら闇くじで稼いだ裏金が十分にある。

 それに、彼らと接触さえできれば、与える印象など、いくらでも変えられるだろう。

 俺にはその自信があった。

 生徒会に入るため、俺は教師推薦枠を金で買うことに決めた。

 まずは、ハンを使って役者を雇い、アルザス家の使用人を装わせて、教師たちに金を握らせる。

 俺の両親が、俺を生徒会に入れたがっているというシナリオで。


 賄賂は実に効果的だった。


 数日のうちに、俺は職員室に呼ばれた。

 あまりにすんなりと事が運びすぎて、俺の方が拍子抜けしたぐらいだった。

 担任の教師は、いつも俺に見せないような笑みを浮かべて、俺を待ち構えていた。

 その薄気味悪さに、俺は嫌悪感すら覚えたが、ここはぐっとこらえる。

 既にベテランと言えるような年齢に達している担任教師だったが、教師とは思えないような高そうな服に身を包んでおり、彼はのっぺりとした顔にはりついた計算高そうな細い目で、俺を見ていた。

「お前、生徒会に入りたいのか?」

 俺はまるでその話を知らないという体で、首を横に振ってみせる。

「そんなこと……。考えたこともありません」

 それを聞いて、彼はしばらく考え込むそぶりを見せた。

 てっきりオレが「そうです」などと、はりきって答えるものと思っていたのだろう。

 だがすぐに、合点がいったというように、彼はひとつうなずいた。

 子爵の両親が息子に内緒で、良かれと思って勝手に金を積むなどという筋書きは、それほど珍しい話ではない。

 彼もどうやら、その筋書きに思い至ってくれたようだ。

「セルベク。良く聞け。先生は以前から、お前のことをなかなか見所のある奴だと思っていたんだ。その力をぜひ、学校のために使ってみてはどうだ?」

「ぼ…、僕がですか?」

「そうだ。先生が推薦してやる。生徒会に立候補しなさい」

「で、でも……」

「心配するな。今の生徒会役員たちは慣れている。初心者のお前が入っても、いろいろ丁寧に指導してくれる。それに、どうしても分からないことがあれば、先生に聞きに来ればいい」


(分からないことがあれば、先生に聞きに来ればいい――、か。笑わせる。そんなこと、授業でも言ったことがないくせに)


 教育の世界にまで、賄賂やえこひいきが蔓延し、常習化しているのだ。

 どこを見ても腐敗しきっていた。

 この世界は完全に腐っている。

 そして俺は、この腐敗を最大限、利用しようとしていた。

「どうだ? やるか? やれるだろう? セルベク」

 教師は半ば強引に、俺を説得し続けていた。

 すべては今後の賄賂のために。

「先生がそこまでおっしゃられるのでしたら……。が、頑張ってみます」

 俺が熱意に押し切られるようなフリをして承諾すると、教師は安心したように笑った。

「そうか。よし、よし。じゃあ、先生が推薦状を書いてやるからな。なあに、安心しろ。生徒会に入れば、高等部に入る時もかなり有利になるぞ?」

 そんなことはどうだっていい。

 必要なのは、現在の生徒会三役の彼らとつながりをつけることだ。

 だが、俺はひとまず曖昧に笑っておいた。

 教師は俺の反応など気にしてはいない。

 彼は彼の中の小さな尺度で、俺を図っているのにすぎない。

 これで生徒会への足掛かりができた。

 あとは、この教師の手腕と賄賂の力をのんびり見せてもらうことにしよう。


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