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神文字使いの魔女とゴーレム  作者: killy
出会いは爆風とともに
6/21

06

 階段は、螺旋を描いてぐるぐると続いており、入り口から射し込む明かりを頼りに覗きこんだくらいでは、終点を見通すことはできなかった。

「かなり深いところまで降りてくみたいね」

 底の方から吹いてくる冷たい風にぶるりと身体を顫わせながら、アデリーナが推測する。

「これ、どこに通じてるんだ?」

 滑らかな壁面に手這わせながら、ウゴが疑問を呟くと、アデリーナは肩をすくめた。

「さあ?あんたこそ、ここに出入りしてるんでしょ。城の配置から何か思いつかないの?」

 云われたウゴは、少しの間考えたのち、かぶりを振った。

「さぁて、……判んないなぁ。この回廊の近くは、普通の居室ばかりで、特に特別な使い方をしてるようなところはないし、あんま思いつかないなあ……」

「ンなあっさり諦めないで、ちょっとは考えなさいよ。云うでしょう、『鉄も使わなければ錆び、水も用いなければ腐る。人の知力もまた絶えず用いなければ、結局退化する』って。頭は常に使い続けてないと、すぐに退化するのよ!」

「へいへい。んじゃ、お前の頭が退化しないよう、今回は機会を譲りましょう。……んで、これは結局どこへ行くんだとお前は考える?」

 自分に訊ね返すウゴを、アデリーナはじとっと細めた目で睨みつけて、唇を尖らせた。

「また巧く云って逃げるし」

 不満そうにぼやきながらも、訊かれれば結局自分の頭を働かせてしまうのが、アデリーナである。「ええと、……ここは厨房からはかなり距離があるようだから、食料保存庫ではないでしょうし、かと云って礼拝堂からもだいぶん離れているから、納骨堂でもないと思うけど」

「納骨堂はヤだけれど、二〇〇年前の食料貯蔵庫も遠慮したいな。腐って腐って、すんげえことになってそうだ」

「だから、それじゃあないだろうって、云ってるでしょ。人の話はちゃんと聞きなさいって。それに、二〇〇年も過ぎてれば、腐るものは皆腐りきって、砂になってるわよ!」

「でも、鼠とかゴキブリとかは生き延びてそうだよなあ。あいつら、ごみ屑や埃だって何だって餌にしちまうんだしさ。降りてったら、床や壁がざーって動くんだ。何かと思ったら、ゴキブリの大群。……うえっ」

 自分で自分の想像にげんなりしたウゴの脇で、アデリーナも、両手でのど元を押さえてげーえっと顔をしかめた。

「気持ち悪いこと云わないでよ」

「ンなこと云ったって、考えちまったモンはしようがねぇだろ。……あー、なんか、気持ち悪くなってきた。オレ、外で休んでるわ」

 口元を押さえて、わざとらしくよろよろと階段室を出ようとしたウゴの上着を、アデリーナは掴んで引き止めた。

「お待ち!逃げようったって、そうはいかないわよ」

「ンなこと云ったって……。そもそもオレ、暗いところはにがて――」

 アデリーナを振り返ったウゴの背後でそのとき、壁がすーっと、音もなく動き始めた。

「えっ?」

「はあっ?」

 何をどうする暇もなかった。

 二人が呆然と見詰める中、さんさんと陽光のあふれる中庭と、それに続く回廊の景色はするすると遮られ、……


 二人は、漆黒の闇の只中に取り残された。


「う、うわ~あっ!何だ何だ何だよおっ。出せ。出せ~え!」

 幽霊やお化けといったものと同じくらい、暗闇が怕いウゴは、すぐに恐慌状態に陥った。つい最前まで扉があったはずの壁に飛びついて叩き、引っかき、どこかに指を引っ掛ける取っ手でもないものかと暴れまくる。

「出してくれよう!」

「しょうがないわねえ……」

 ため息交じりの呆れ声が、背後でそんな風に呟いた。数拍遅れて、青白い光が背後に現れる。先刻はあれほど薄気味悪いと感じた人造の光が、これほど心安らぐ効果をもたらしたことに驚きと後ろめたさを覚えながら、ウゴは涙目で振り返った。

「ちょっとどいて」

 アデリーナは、慌てて袖で目元をぬぐうウゴを乱暴に退かすと、自分の左の手のひらに描いた神文字をかざして、壁面の隅々まで調べにかかった。が、いくらも過ぎないうちにあっさりと探索をやめてしまう。

「あー、ダメだな」

「ダメって……ダメってなんだよっ!?」

「ちょっと、判んないやってこと。何だか知らないけれど、こっち側には、扉を開けるような仕掛けがついてない観じなのよ」

 ほら、と明かりをかざしてウゴにも見せた壁面は、なるほど、磨かれたようにまっ平らで、把手はもちろんのこと、表にあった神文字のような飾りすら、ついていなかった。

「一方通行なのかも知れないわね」

「なんで、ンなに落ち着いてられんだよっ。どうすんだよっ。オレはンなところで死ぬのは真っ平ごめんだぞっ!?」

「うるっさいなあ。ぎゃあぎゃあ喚いたってどうにかなるわけでもないでしょ。だから、どうするって、決まりきってるじゃない。先に進むのよ。昔のヒトだって、閉じこもるためにここを造ったんじゃないだろうし、だったらどこかに出口があるはずだもの。それを探しに行くの。だからほら、ぶつぶつ云ってないで、行くわよ!」

「閉じ込めるためにここを造ったんだったら、どうするんだよ」

 ウゴが絞り出した低い唸り声に、アデリーナの足がぴたりと止まった。硬直したアデリーナの背中に恨みがましい視線を射し込んで、ウゴは続ける。

「なあなあ、もしここが、罪人なんかを閉じ込める地下牢だったりしたら、どうするんだよ? 地下牢の出入り口は、外からだけ開けば良いよな? なあ、なあ、だったらどうするんだよ?」

 が、アデリーナは、ウゴのこの問いかけをあっさり無視した。

「ほーら、前を向いて行くわよ! 人間が前に目を持ってるのは、前を見て歩けってことなんだから!」

 握りこぶしと一緒に「おーっ」と、威勢の良い掛け声をあげた彼女は、すたすたと階段を降り始める。

「おい、どうするんだって……」

 最初の段に留まって叫んでいたウゴも、アデリーナが螺旋の向こうへと去って行き、ひとり暗闇に取り残されると、急に心細くなって、慌てて彼女の後を追いかけた。

「おい、待てって!」

 駆け足で追いかけてくるウゴを振り返るでもなし、アデリーナは、手のひらの神文字で螺旋階段のそこかしこを照らしながら下ってゆく。小柄な彼女が両手を突っ張ったほどの幅しかない狭い階段は、弧を描いてどこまでもどこまでも続いていた。

「……七九、八〇、八一……」

 降りながら段数を数えていたアデリーナは、やおら足を止めると、更に延々と続く気配を見せる階段を見、軽く眉根を寄せて唇を尖らせた顔で、背後のウゴを振り返った。

「どこまで落ちたのかしらね」

 危うくアデリーナにぶつかりかけたウゴは、壁に手をついて身体を支えた。

「何が?」

「あたしの大事な大事な荷物のことよ」

「あ。……そう云や、落ちてたんだっけ」

 閉じ込められた衝撃で、そのあたりのことはすっかり失念していた。

 「そういや、そうだったなぁ」と自分に云い聞かせるように呟くウゴを、アデリーナはジトっと座った眼で睨みつけた。

「落ちたのよ!それも、あんたのせいでね!」

「オレのせいじゃないだろ。どさくさにまぎれてオレのせいにするなよ」

「あの中には、特に繊細な割れ物なんかは入れてないんだけれど、それだって、あんまり長い距離を転げ落ちたりしたら、本は折れて傷むだろうし、他の物だって損害を受けるわ」

「オイコラ、ヒトの云うこと、無視するな」

「ねえ、ウゴ。伯爵って、ケチ?」

「何だよ、藪から棒に」

「ここに来てすぐに、あれが欲しい、これが必要だって云ったら、渋い顔とかするかな」

「ねだる物にもよるんじゃないのか?閣下はケチじゃああないだろうけど、それでも黄金の塊を寄越せとか、そんなことを云ったら、聞き入れてはもらえないだろうな」

「羊皮紙五〇枚とかは?」

「五〇枚って、……本でも作るのかよ!?」

「もし今度のことであたしの蔵書が痛んでたら、その修理やなにやらに、やっぱりそれくらい使うかなぁ……って、ぎゃっ!」

 考え考え、また足を踏み出したアデリーナの身体が、不意にウゴの視界から消えた。

 うぎゃ~あっと、年頃の女の子には余り似つかわしくない悲鳴に重なって、ずだだだだ――と、何か重いものが転がり落ちてゆく音がする。

「おい、アデリーナ、だいじょう――」

 だいじょうぶかと、慌てて足を踏み出したウゴのつま先が、ずるっと滑った。

「へ?」

 何か薄い紙様の物が落ちていたらしい。身体の重心が狂った。立て直す暇も取っ掛かりもないまま、ふわりと身体が宙を浮き、……


 尻と背中に鈍い衝撃が走った。


「あでででっ……いっで~ぇっ!!」

 自分が螺旋階段を転げ落ちたのだと気がついたのは、落下が全部終わって身体が落ち着いた後のことだった。

「……いってぇ……」

 膝や肘、腕や腹や背中、とにかく身体の節々、全体がひどく痛んだ。暗くてよく見えないが、絶対あざだらけ、擦り傷だらけになっているはずだ。

「……ったく、何で……」

「それはこっちの台詞~!」

 身体の下から、恨みがましい声が聞こえた。

「ゑっ?」

 慌てて視線を下にやると、声に負けず劣らず恨みがましい顔をしたアデリーナと目が合った。

「重いのよ、あんたっ。いつまで乗っかってるつもりよ!」

 ウゴと同じだけ階段を転げ落ちたとは思えない元気な口調でアデリーナは叫びまくる。

 ウゴは耳を押さえつつ、悪い悪いと呟きながら、痛む身体を騙し騙し、ゆっくりと身体を起こした。

「あー、重かった!」

 重い物体に押しつぶされて死ぬかと思ったわと、まるで死にそうにない元気な声で嫌味たらしく云い放ったアデリーナは、そして、自分の周囲に散らばる荷物を、嬉しそうに眺めやった。

「あたしの荷物。ノート!予備の溶剤!文献資料!皆ここにあったんだ!無事だったんだ!」

「オレは無事じゃねーけどな」

 ウゴの独言は聞こえなかったのか、それとももともと聞く気がなかったのか、アデリーナは嬉々として布包みを開いたり、革袋の口を開けたりして中身の確認を始める。あちこちに散らばった荷物の間をてけてけ駆け回るその姿からは、軽傷ひとつ負ったようには見受けられない。

(あいつって、昔から、悪運だけはむっちゃくちゃ高かったんだよなぁ、そう云えば)

 すりむいて血のにじむ腕の傷口を舐めながら、ウゴはため息を吐いた。

「ま、オレだって、骨とか折らなかっただけましなほう?」

 声に出して呟いてみたけれど、何となく、不公平感はぬぐえなかった。

 ウゴが痛む身体を休めている間に、アデリーナはさっさと荷物をまとめなおし終えた。

「メモ帳のページや思い付きを書き溜めていた紙片の何枚かが見当たらないけれど、それはまあ、あたしの頭の中に残ってるからいいわ。じゃ、帰りましょうか」

「どうやって?」

 ウゴが冷静に突っ込むと、どうやら荷物が見つかった嬉しさで、出口がなくなったことを忘れていたらしいアデリーナが口を開けたまま硬直した。

「どうやって地上へ帰るんだ?」

「あ~、……」

 まるで空中にその答えが書いてないかと探すように、宙に視線をさまよわせるアデリーナに、ウゴは半眼で詰め寄った。

「階段の上の出口は閉まっちまって、開け方が判らない。どっからどうやって戻るんだ?」

「あ~、……」

 適当にさまよわせていたアデリーナの目が、ふと、右手の一点を見つめて停止した。

「あそこ、壁に切れ目がある」

「切れ目?」

「別の空間に続いてるんだわよね。よしっ、ひとまず荷物はここにおいたままにしておいて、先に進もうか!」

「おい待てよ……」

 ウゴの返事を待たずにさっさとアデリーナは歩いて行く。それにつれて、彼女の左の手のひらにある光源も去ってゆく。

 このままではまた、ひとり暗闇に取り残されてしまうことに気がついたウゴは、傷の痛みも全部忘れて、慌ててアデリーナの後を追った。

「待てって、待てよ、リーナ!」

 幸い、アデリーナはさほど奥には進んでいなかった。奥へ進むどころか、入り口から一歩入ったところでぽかんと目を見開いて立ち尽くしている。

「おい、リーナ。どうかしたのか……?」

 追いついたウゴが顔の前で広げた手を振って見せても、瞬きひとつしない。

「……さてはさっき、頭でも打ったか?」

 ウゴが幼馴染の頭の心配を本気で始めた、そのとき。

「すごい……」

 アデリーナがうっとりと、柔らかなため息を吐いた。

「すごい!なんてたくさんの本!」

 胸の前で両手を組みかけて――それでは手のひらに描いた光源を塞いでしまうことになると気がついて、慌てて手を離す。

「あー、……確かにすげぇな、この量は」

 云われてはじめてウゴも気がついたが、アデリーナの見つめる先には、成人男性の平均身長の二倍はあるだろう背の高い書架が何列も並んでいた。もちろん、差し渡された棚には、ぎっしりと分厚い書籍が詰まっている。

「そうか……そうか!ここは僧院の蔵書区画だったんだっ!うわあおっ。一〇〇〇年の英知の結晶、知識の積み重ねはこんなところに隠れてたのかっ。いや、隠れてたと云うよりも、あたしが来るのを待っててくれたのねっ。ひゃっほぅ!」

 文字通り踊り上がったアデリーナを、ウゴは疲れた表情でたしなめた。

「いや、ここにあるのは、別にお前を待ってたわけじゃあ……」

「すごっ!これっ、ソクラテスじゃない!」

 ウゴの突っ込みなどどこを吹く風、さっそく書架にへばりついたアデリーナが歓声を上げた。

「こっちはプラトン。ヘラクレイトスにパルメニデス!すごいっ!ここすごい!宝の山だわ!」

 表紙や巻物の題名を撫でさすり、その表記をひとつ読み上げるごとに、感動で全身を震わせる。

 その表情は、まるでお菓子の山を目の前に出された子どものように、きらきらと、期待と喜びで輝いていた。

「おい、リーナ」

 ウゴが呼ぶ声など、当然彼女の耳に届くはずがない。

「これ……っ、ももも、もしかして、ピュタゴラス教団の関係本じゃない?」

 がくがくと震える手で一本の巻物を引きだしたアデリーナは、その表紙を呼んだ瞬間、ひゃあ!と悲鳴を上げた。

 そのまま巻き緒を解いて中身を検め始めたアデリーナに、ウゴは、最前よりも大きくきつい口調で問いただした。

「出口を探すのはどうなったんだ!?」

 怒鳴るように声を張り上げると、やっとアデリーナが気がついた。

 が、ウゴの怒声も、彼女の喜びと興奮を冷ます役には立たなかった。

 嬉々とした表情のまま、アデリーナは巻物を広げつつ大きくかぶりを振る。

「それどころじゃないわよ!あのピュタゴラスよ?ピュタゴラス教団の本よっ!あの秘密主義で外部に情報を漏らさなかったピュタゴラス教団の教本を手に取れるだなんて、奇跡よ、奇跡っ!ああ、生きてて良かったっ!」

「いや、このまま地下に閉じ込められてたら、オレたち近いうちに絶対死ぬし」

「あのね、数学者として有名なピュタゴラスはね、世に存在する全ての物事の根源――つまりもっとも洗練された、簡素な神文字を究明する手段を、数字に求めた学者なのよ。神の摂理を数字で表現しようとした人物なのね。その深遠な知識、学理は、芸術とも呼べる完璧さを備えているわ。ほら、彼の名前が冠された、彼が発見したとされるピュタゴラスの定理、あの完璧さは、見ていてため息が出るほど美しいわよねっ」

「おい、だからひとの話を聞けと……」

「ピュタゴラス教団と云えば、あの教団は五芒星を象徴記号としてたんだけれど、この五芒星と云うのがね、完璧を象徴する真円に内接する正五角形から、永遠の運動を意味する線形で作られた形で、それと云うのも内部に自らを生み出した正五角形を含むからで、この内包される五角形からは、また五芒星が造られる、その造られた中にもまた正五角形が……と、永久に生産、生殖を繰り返すからなの」

「おいってば、」

「加えてその線は黄金比と云う、自然界を支配する、数値的に完璧な比率を含んでいるのよ。これほど完成度の高い、美しい図形は他に存在しないでしょうよ!まさしくピュタゴラス教団がいただくにふさわしい図象だと思うわっ!

 そういえば、叡智でならしたソロモン王も、この五芒星を印章に使っていたのよね。五芒星と云う、完成された図象は、ある一定以上の頭脳を持った人間や集団を引き付ける要素を持っているのかも知れないわね。

 そもそも数に神秘的な要素を見出す数秘術において、五と云う数字は特別な存在なのよ。ピュタゴラス教団は、五と云う数字を結婚の数としていたの。それと云うのも女性性、つまり大地を表わす二と云う数と、男性性、つまり天を表わす三と云う数字が合わさって作られるからなのね。ピュタゴラスの定理も、この、三と、二の二倍の四と、五と云う数字で成ってるし――」

「ちょっとはオレの話を聞けよ」

「五と云う数を神聖視したのは、何もピュタゴラス教団だけではないわ。古代エジプト人は太陰暦の十二ヵ月、つまり一二×三〇日のあとに五日を入れることでその暦を天の運行に即したものと変え、古代バビロニア人は、五と云う数を愛と豊穣と戦いの女神、イシュタルに結び付けて崇拝したの。

 ローマでは五はVと云う俗字で表わされて、それはミネルウァ――つまりギリシア神話におけるアテナに相当する女神の象徴として尊ばれたと云うわ。天空に見える水金火木土の五惑星も、この神秘の象徴よね。

 これを頭に入れて考えれば、イエス・キリストが十字架上で負った聖痕の数が五だと云うことも、なかなか意味深よね。彼はその身に五と云う数字を負うことで、完璧な存在に転化したとも云えるわ。……」

「オレの話を聞けって!!」

 浮かされたように、嬉々として話していたアデリーナは、ウゴに怒鳴りつけられて、きょとんと首を傾げた。

「何?」

 怒鳴った拍子に埃を吸い込んだウゴは、大きく咳込んだ後、涙の浮いた眼でそんな彼女を睨みつけた。

「あのな。オレたちが今、どう云う状況にいるのか、お前は判ってるのか?優雅に本読んでる余裕なんか、ないんだぞ!」

「え~!?」

 アデリーナは眉根を寄せて、不満の声を張り上げる。

「『え~』じゃない!水も食い物も何もないこんなところに長くいられるはずがないだろう!すぐに渇いて飢えて死ぬぞ!?だからオレたちが今すべきなのは、わけの解らん本を読むことじゃない。出口を探すことだ。動けるうちに、脱出することだ!解ったな!?」

「じゃあ、ウゴが探してきてよ。あたしはここで本読んで待ってるから」

「は?」

 何を云うんだこの女、と戸惑うウゴの額に、アデリーナは手早く光の神文字を描いた。

「これで明りの心配もないでしょ。だからほら、行ってらっしゃーい」

「行ってらっしゃいってお前……」

「んじゃね~!」

 いかにもお義理と云った態度で素っ気無く手を振ったアデリーナは、そして埃っぽい床にじかに座り込んで、本格的に本を読み込み始めた。

 年齢に似合わぬ凛とした真剣な横顔を見たウゴは、しようがないなと唇をゆがませた。

 昔何度か遭遇したことがあるから判るのだが、あの表情になったアデリーナは、てこでも動かないのだ。こうなったら、アデリーナをこちらの世界へ呼び戻そうだなんて無駄な努力を払ったりせずに、さっさと一人で動いたほうが得策だ。

(ひとりで、か……)

 周囲をざっと見渡したウゴは、唇を突いて出るため息を止められなかった。アデリーナ命名「蔵書庫」は、額の光源が一時に照らし出せる範囲をはるかに超えて広かった。光の届かない闇の奥から何か得体の知れない物がうごめいており、こちらがふと気を抜いた隙に飛び出してくるような気がして、ウゴはぞくりと背筋を慄わせた。


 暗闇は苦手なのだ。


 が、だからといって膝を抱えて縮こまっているわけにも行かない。いくら待ったところで、誰も、何も救いに来てはくれないだろうことは瞭然なのだ。

「……う~」

 ため息をひとつ、とりあえず右手を壁――と云うより壁に接して置かれた書架に添えて、ウゴは歩き始めた。

五芒星云々以降のアデリーナの台詞は、自分は、調べるのも書くのも楽しかったですけれど、はたして読み物としてはいかがなものでしょうか(^^;

チョーシにのってごめんなさい

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