いま、あいにいきます
ただ、叫びたかった。豊か過ぎてすさんだ、この世界へ
それはまさしく慟哭だった。
「ぅあぁああああああああああぁぁぁぁあああああああああああ!!」
草一本、虫一匹すらもいない、乾いてひび割れた大地にうずくまり、力のかぎり握り締めた拳から血があふれようとかまわず叩きつけ、
「 ―――――――――――!!」
恥も外聞も自尊心も何もかも投げ捨てて、その名を呼んだ。
『約束だよ』
一人にしないと笑ったのは、あなただったのに。
許すなと囁く声を、この身からあふれる黒い闇をとどめようとする者たちの声など聞こえない。
魔は殺したと森ごと焦土と化した者達の歓喜などどうでもいい。
さあ王子よ、と地位と名誉と金だけにあつまる人間の皮をかぶったけだものたちの声など届かない。
『あ、こら!!なにしてるのっ』
この醜く爛れきった世界で私を導いてくれた人が、どこにもいない。
深い深い樹海の奥でひそやかに生きていたあの人がなにをした?
深い深い霧の奥で穏やかに暮らしていたあの人がなにをした?
人が恐ろしいと誰も近づけぬように、近づけば樹海の出口へ行くように魔術をかけ、畑を耕し、洗濯や料理や刺繍をしてゆったりと椅子に座っていたあの人がなにをした?
ああ、嗚呼。
人間は、なんて醜いのだろう。
人間は、なんて愚かなのだろう
ならば、壊してしまえばいい。
そして、そのあと私も消してしまえばいい。
人を嫌いながらもぬくもりを欲する、さびしがり屋なあの人のことだ。きっと、喧嘩したあのころのようにしょんぼりと膝を抱えて、肩を震わせて、私をまってくれているはずだから。
大丈夫だ、すぐいくよ
そうしたら今度は、絶対に離しはしないから。
その小さな頭をなでて、つやつやの髪に櫛を通して、乾いた涙でぱりぱりになった頬を暖かいタオルで拭って、膝の上で抱きしめてあげるから。
『………ばぁか』
だからお願い。
いつものように泣き止んで、笑ってほしい。
さらりと読んでいただければと思います。
ありがとうございました。