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破滅する悪役王子に転生した武士、生後三秒で腹を切ろうとして妖精に泣いて止められる  作者: めるしー


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第30話「大夜会」

建国祭の、夜。


王城の、大広間は。

かつてない、きらびやかさに——満ちて、いた。


無数の、シャンデリアの、光。

着飾った、王侯貴族。流れる、優雅な、調べ。


国中の、名だたる者が、一堂に会する——一年で、最も、華やかな、晴れ舞台。


その、奥には。

玉座に、腰掛けた——国王の、姿も、あった。





広間の、片隅に。

アルフォンスと、ロザリンドは。並んで、立って、いた。


純白の、礼装に、身を包んだ、アルフォンス。

深紅の、ドレスを、纏った、ロザリンド。


呪い児と、罪人の娘。

——いわくつきの、二人へと。遠巻きの、視線が。ちらちらと、突き刺さる。


「……来た、わね」


ロザリンドが、小さく、呟いた。

その横顔は——硬い。


あの夜の、再演。その予感に。

彼女の、指先が。わずかに——震えて、いる。


「ロザリンド殿」


アルフォンスは。

静かに——その、震える手に。そっと、己の手を、重ねた。


「——それがしが、おる。案ずるな」


「……っ」


たった、それだけで。

ロザリンドの、強張りが。ふっと——ほどけた。


(……ええ。そう、だった)

(——わたくしは。もう。ひとりじゃ、ない)





広間の、あちこちに。

味方は——静かに、配されて、いた。


壁際で、鋭く、目を光らせる、ユリウス。

柱の陰から、じっと、見守る——イザベラ。


そして。

出入り口の、近くには。

ローランを、先頭に——婚約者連合の、青年たちと。弟子たちが。ずらり、と。静かに、並んで、いた。


……ただ。その、顔つきが。

きらびやかな、夜会には、およそ、似つかわしくない——うっすらと、眉の太い。引き締まった、"武士の、面構え"に、なって、いる。


雅やかな、礼装に。武骨な、面構え。

その、奇妙な一団は。声ひとつ、立てぬまま——ただ、静かに。成り行きを、見据えて、いた。


『……ねえ、武士さん。あの、一団。なんか……すごい、顔して、並んでるけど』


ひかりが、そっと、呟いた。


『……みんな、お貴族様の、はずなのに。ああして、揃うと。完全に……討ち入り前の、武士じゃん。……武士ウイルス。じわじわ、広がってるなあ……』


そして。

人々の、輪の、外れに。ぽつんと、立つ——アンジェの、姿も。


その表情は、今も——固く、強張った、まま、だった。





——宴も、たけなわを、過ぎた、頃。


ふいに。

音楽が——止んだ。


ざわめきの、引いていく、広間の、中央へ。

つかつかと——歩み出る、影が、ひとつ。


——セドリック・メルツ。


「——皆様。御歓談の、ところ。失礼、いたします」


涼やかに、よく通る、その声が。広間に、響き渡る。


「この、晴れの夜に。……どうしても、皆様に。お聞き、いただきたい——"由々しき、事態"が、ございます」


ぴり、と。

空気が、張り詰めた。


セドリックの、視線が。——まっすぐに、ロザリンドへと、向けられる。


「ロザリンド・ヴァレンシュタイン嬢。——かつて、謀反の咎で、取り潰された。ヴァレンシュタイン家の、生き残り」


どよ、と。

広間が、ざわめいた。


「我らは、掴んで、おります。——その方が。亡き生家の、再興と。王家への、報復を、企てている。その、確たる、証を」


「なっ……」


ロザリンドの、顔が、青ざめる。

——身に、覚えなど、ない。だが、それこそが。あの夜と、同じ——"仕組まれた"、断罪。


「そして——」


セドリックの、矛先が。

今度は、アルフォンスへと、転じた。


「アルフォンス殿下。——あなたは。その、謀反人の娘と、知りながら、これを匿い。あまつさえ、学園にて。騎士や、貴族の子弟を、私的に束ね——徒党を、組んでおられる」


「危険分子を、囲い込む、呪い児の、王子。——これを、見過ごせば。やがて、王国の、災いと、なりましょう」


広間が——大きく、揺れた。


(……始まったな)


アルフォンスは、静かに、思う。

——これが。ロザリンドの、家族を、焼き。今また、同じことを、繰り返さんと、する。"影"の、正体か。





玉座の、傍らで。

宰相が、重々しく、頷いた。


「——宰相たる、この私も。両名への、この訴えを。正式に、取り上げる。……国王陛下の、御前にて。今宵、ここで——裁こう」


その、一言で。

場は——"(おおやけ)の、断罪の、場"と、化した。


(……くっ。正式な、手続きに。宰相の、権威。——これでは。私の、生徒会長権限など、無力に等しい)


壁際の、ユリウスが、歯噛みする。

——彼が、誰より、恐れていた。最悪の、かたち。





「——さて」


セドリックの、唇が。

薄く——弧を、描いた。


「我らの、訴えを。何より、雄弁に、裏づけて、くださる——お方が、おられます」


その、冷たい、瞳が。

ゆっくりと——ひとりの、少女へと、向けられた。


「——聖女候補。アンジェ嬢」


びくり、と。

アンジェの、肩が、跳ねる。


「あなたは。かつて、ヴァレンシュタイン嬢から。直接——害を、受け、かけた。……そう、でしたね?」


セドリックは、優しく——けれど、有無を、言わさぬ、声で。


「さあ。——皆様の、前で。あなたが、見た"真実"を。お話し、ください」


すべての、視線が。

——アンジェ、ただ、ひとりに。集まった。


王も。貴族も。

アルフォンスも。ロザリンドも。

そして——息を、呑んで、見つめる、イザベラも。


『……来た。——ここが、山場だ』


ひかりが、固唾を、呑む。


『原作だと……ここで。アンジェが、ロザリンドを、告発して。何もかも、決まっちゃう。……でも』


『——もう、原作は、白紙。アンジェが、何を、言うのか。……わたしにも。分からない……!』


しん、と。

静まり返った、大広間の、中央で。


アンジェは。

震える、唇を——ゆっくりと、開いた。


——その、ひと言が。

すべての、運命を。決める。


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