表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅する悪役王子に転生した武士、生後三秒で腹を切ろうとして妖精に泣いて止められる  作者: めるしー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/43

プロローグ


———さあぁ、と。


風が、草原を渡っていく。


幕末、どこぞの戦の跡。倒れた幟、焼けた野、鉄と血の匂い。その片隅、一本の桜の老木の影に、ひとりの武士が横たわっていた。


具足は砕け、刀は半ばで折れ、全身が朱に染まっている。指一本動かすのも、もはや叶わぬ。


それでも、男の顔は不思議なほど穏やかだった。


ひらり、と。

一片の花びらが宙を舞い、男の開いた掌に、そっと落ちる。


男はそれを見るともなく見て——絞り出すように、声を紡いだ。


「は……なは……桜木……ひとは……武士……」


花は桜木、人は武士。

咲くなら桜、散るなら桜。人と生まれたからには、武士でありたい。幼き日に教わった、たったひとつの生き方であった。


「……よき、人生で、あった」


ゆっくりと、瞼が落ちる。

惜しむものは、何もない。守るべきを守り、通すべき義を通し、咲くべき時に、咲いた。


「儂の……人生に……一片の……悔いは——」


風が、止む。

桜が、散る。


「……なし」


そうして武士の魂は、静かに、肉を離れた。


──────


……どれほど、漂っていたのだろうか。


気がつけば、男は立っていた。

足元はやわらかな雲。見渡すかぎり、白い光。痛みも、傷も、刀の重ささえ、もうない。


「ここは……三途の川、にしては、ずいぶんと趣が違うが」


「あ、起きた起きた! おはよーございまーす!」


——気の抜けた声がした。


振り返れば、見たこともない装束の娘がひとり。妙に短い裳裾に、背には透き通った羽。手には文字の詰まった薄い板きれを抱えている。


「えーと、あなたで今日……五人目? ようこそ転生待合ロビーへ! 案内役の妖精やってます、ひかりでーす」


「……てん、せい?」


「そそ。あなたもう一回、別の世界で生まれ直すの。それまで暇でしょ? だから私がいろは教えてあげる。異世界転生の、いろは!」


ひかりと名乗った娘は、板きれを掲げて、にっと笑った。


「これがマジで大事でね? チート能力、ステータス、悪役令嬢、ざまぁ……覚えること山盛りだから! 武士のお兄さん、飲み込み早そうだし、いけるいける!」


男は、ただ静かにその奇妙な娘を見つめ——深々と、頭を下げた。


「かたじけない。このうえ、生をもう一度賜るとは。さらば次なる生も、武士として恥じぬよう、全ういたす所存」


「いやあのね、そういう重いノリじゃなくてさ、もっと気軽な感じで……ま、いっか。よろしくね、武士さん!」


——このとき、ふたりはまだ、知らなかった。


彼が次に生まれ落ちる先が、よりによって、ひかりの知る“原作”で世界を滅ぼす——あの、悪役王子であることを。


そして彼の「武士であろう」とするその覚悟こそが、物語そのものを、根こそぎへし折っていくことを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ