第六話 『国家』
1
兵士の職責とは実のところ戦争に勝利することではない。規律を守り、命令に従い、軍の利益のために行動する。
無論、大抵の場合軍隊は国民を守るために在るものだ。平時には訓練を積み重ね、有事には軍事力を行使する。
命令とあらば人命を奪い、炎によって大地を焼き尽くす。
そして、逆も然りだ。兵士には、命令に逆らう権利などない。
そんなわけでラーズはヴェインに乗り、バレザント王国へと飛んでいた。正確にはグルルドの四名と、ミネルヴァの部下のアインも一緒だ。
各自自らのハウンドに乗って、編隊を組みバレザントに向かう。
惑星ベルタはテラフォーミングを施された、資源惑星である。テラフォーミングとは星を改造、人間が住めるようにすることだ。それ故、元は不毛の地であるが、現在は緑に覆われている。
その上を高速で飛行する。非常に素晴らしい光景である。
しかし、ラーズは昨日のこともあり心は酷く暗く沈んでいた。
その様子を見るにみかねたらしい。
ダグ少佐がラーズに話しかける。
「ラーズ少尉、ピリピリしているな? そんなに緊張しなくても良いさ。バレザントは素敵なところだぞ? 景色もいいし、活気にあふれてる」
「は。お気遣い感謝いたします」
ダグ少佐は気さくな人間だ。それはとても素晴らしい形質だ。
ラーズもそれに応えたくはあるが、どうしてもそのような気になれない。
仮に、昨日の件を差し引いてもバレザントは元敵国の一つ。正確にはエイデン共和国を構成する国家の一つである。もし、作戦があればバレザントに侵攻していた可能性もある。
無論、現実にはラーズの祖国ファルファリアが降伏、消滅した。
だが、気分が良くなるわけがない。むしろ陰鬱とした気分となる。
そのような気分を吹き飛ばすにはむしろ毒が必要かもしれない。
例えば、ミネルヴァ少将のような、鋭さを持った強力な毒が。
「では少佐。君が部下の二人に飯でも奢ってやるといいだろう」
「行きつけのレストランで良いんなら」
「おいおい。マリア大尉はセレブだぞ」
ミネルヴァ少将が持つ毒っ気は、苦手な人間には辛いだろう。
しかしラーズは苦手ではなかった。実際にチームの雰囲気も良い。
「マリア大尉の口に合うような……素晴らしいレストランに連れて行け」
「俺の薄給じゃ無理です! 少将!」
「ふ。しかし昇給は認めない」
「あのーお二人とも、そもそも私、普通のレストランにも行きますよ?」
「だ、そうだ。どうする? ダグ少佐?」
「申し訳ないが俺の行きつけで」
会話から各員の関係性、人間性がふわり香ってくる。
もし、これが元敵でなかったら。思わずそう考えてもしまうが──
「ダグ少佐。楽しみにしています」
ラーズはぎこちなくもそう言った。
少しずつでも慣れていかなければ。それもラーズの職務なのだから。
2
バレザントの首都であるガルバニア。それは城壁で囲まれた都市だ。首都であるだけあって当然だが、ハウンドで直接は降りられない。
都市を囲む外壁の外に降り、地下格納庫にハウンドを止める。そしてハウンドから降りると徒歩で、エレベーターに乗って上昇する。
すると、ようやくラーズもこの都市を、ガルバニアを体で感じられた。
エレベーターの外にあった床は、美しい褐色の石畳。建造物も多くは石積みで、資源惑星にそぐわないものだ。
抜けるような青空の下にある、この都市は幻覚とすら思える。
「何故こんな中世風の景色に……?」
「初代国王の趣味だったらしい。ま、実際はほとんどはガワだけで、中身はコンクリートなんだけどな」
困惑するラーズの質問に、ダグ少佐がわかりやすく答えた。
「私は好きですよ、ガルバニア。美しい街並みだと思います」
「まあ、マリア大尉の言う通りだな。欲を言えばパンクさが足りないが」
マリアとミネルヴァの感想からも、国民はこの都市が好きなようだ。
ラーズは簡単に慣れそうもない。だが、慣れる努力は必要だろう。
それに、ただ面食らうだけではなく好意的にみられる部分もある。
「とても、活気のある良い街ですね」
ラーズは街の景色を見て言った。
ガルバニアの街には人々が、さまざまな理由で行き交っている。戦時中なので子供はいないが、それでも賑やかだと言える街だ。
国家は利権やイデオロギーなど相容れない要素で争い合う。だが、市民はただ生きているだけだ。他国に来て初めてそれに気づく。
特にラーズは貧困に塗れて、他者を思いやる余裕はなかった。故にガルバニアは新鮮だった。軍人として不利益だとしても。
と、ここでミネルヴァが歩き出し、同時にアインの服を引っ張った。
「さて、悪いが私はここまでだ。アインも私と共に来てもらう。お前たちは観光でもしていろ。合流場所は後で連絡する」
彼女はそう言うとアインを連れて、広い通りの先に歩いてゆく。
すると、直ぐに車が現れて、二人を乗せ何処かに走り出した。
残されたのはラーズとダグ、マリア。グルルドに所属する三人だ。特殊部隊のパイロットであるが、街では一般人に違いない。
「まあ……じゃあ、この俺について来い! 観光といえばまずは飯だしな!」
こうして押し付けられたダグによるレストラン案内が始まった。
3
メインストリートから少し外れ、入り込んだひっそりとした小道。そこには西部劇で見るような、両開きの木製の戸があった。
店の名前は【ラクーンズベッド】。タヌキの寝床という意味だろうか。
ラーズは不安に襲われていたが、ここは少佐を信じる他にない。
先に入ったダグとマリアに次ぎ、ラーズは店に足を踏み入れた。
すると、目に飛び込んできた景色に、ラーズは感動して息をもらす。
全面木製に見える店内、使い込まれた円形のテーブル、カウンターの向こうの壁面には酒の瓶が多量に並んでいる。
このような内装のレストランをラーズは目にしたことなどなかった。
そもそもレストランなどはほとんど利用したことはないラーズである。しかし、そのラーズでも理解できた。この店の雰囲気は素敵である。
現在の時刻はおよそ午後二時。ランチ客も減ってくる頃合いだ。それ故、待つ必要はなかったがそれでも店内は賑わっていた。
「ほんじゃ、適当に座るか。こっちだ」
ダグは言うと慣れた様子で進み、店内の端にある机に着く。
ラーズとマリアはその後を追った。ダグのホームなので当然である。
丸机一つには椅子が四つ。席の数は特に問題はない。しかし、やはり慣れないレストランだ。結局は思い悩むことになる。
「どうぞ」──と言われて渡されたのは、このレストランのお品書きである。
問題は、そこに書かれた料理の名前をまるで知らなかったことだ。
厳密にはソーセージとビールと、サラダだけはおそらく理解できた。だが、まだディナーの時間ではないし、ラーズは酒類を好んではいない。
まあもちろん、誰かに聞けば良い。そう言う考え方もあるだろう。だが、ラーズは元敵国軍人。馴れ馴れしく聞くのは危険である。
しかし、ラーズにも考えはあった。こう言う時、使える手段がある。
「決まったかー? じゃあ、店員を呼ぶぞ」
ダグが手を上げて店員を呼んだ。もはや後戻りなど出来はしない。
ラーズは意を決して策を打つ。そのために人間を観察した。
まず、ダグ少佐に向け接近する女性店員。歳は二十代。赤毛でかなりの美人だと言える。だが、今は外見はどうでも良い。
「ダグ少佐、お久しぶりですね」
「おう! 久しぶり! いつものやつ頼む!」
ダグは彼女に対し挨拶し、“いつものやつ”とやらを注文した。
もはや商品の名前すら謎だ。メニューに載っているのかも怪しい。
そこで、ラーズは雌伏の時である。まだ注文をすべき時ではない。
階級的にマリアの順番だ。手のひらでマリアにそれを伝えた。
「じゃあ、この野菜たっぷりボロネーゼ。それとお水をお願いいたします」
すると、マリアが先に注文した。
これぞラーズの計画の通りだ。
ラーズは内心で歓喜をしつつ、作戦を実行し成就させる。
「私も同じものを」──これこそが、ラーズの企てた作戦である。
ダグと違ってマリアはこの店を利用したことなどないはずである。よって、無難な物を注文する。その注文を利用したのである。
こうして秘密裏に策は成就し、ラーズはほっと胸を撫で下ろした。
ダグも特に疑問を持つことなく、注文を終了するようである。
「じゃ、それでー」
「ビールはいいんですか?」
「ああ。飲んだら上司に殺される」
「では、代わりにお水をつけますね」
「おうさ。ありがとさん。じゃ、よろしく」
ダグが話を終えると店員は、三人に背を向けて立ち去った。
後は、ただ料理を待つだけである。無論一抹の不安は残るが。ラーズが選択した道だ。座して待つ以外に道はなかった。
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そして注文から数十分後。目の前に運ばれてきた料理が、ラーズの常識を崩壊させた。
浅黄色の縮れのない麺と、上に乗せられた褐色のソース。ボロネーゼと呼ばれるこの料理が発する芳香は殺人的だ。口に入れた瞬間理性が飛び、奇声を上げてしまう危険もある。
だが、ラーズは食べなければならない。それ以外選択の余地はない。幸い、この食物の食べ方はマリアを見てすでに学習できた。
フォークで麺を巻いて口に運ぶ。そして、開いた口の中に入れた。
すると食材達が融合し、究極のハーモニーを奏で出す。素晴らしい香り、素敵な食感、舌の上で踊り出す多種の味。
事前の覚悟をせず食べていれば、ラーズは叫び出していただろう。しかし、なんとかラーズは耐え切った。耐え切って感想を口にした。
「美味い。こんな食べ物があるとは……」
泣くほど美味いとはこのことである。事実、目から涙が溢れていた。たった一粒の涙ではあるが、料理には最大の賛辞である。
この様子を目にしていたマリアが驚いて不思議に思ったほどだ。
一方、ダグ少佐は知っていた。何故、ラーズが感動しているかを。
「えっと、確かに美味しいですけど……」
「ファルファリアの出身だからなあ。あそこは“飯マズ”で有名なんだ。想像を絶する──レベルらしい」
ダグの解説は概ね正しい。
ラーズは元々貧しい出なので、無論それも関係あるのだが、確かにファルファリアの飯は不味い。と言うより味を考慮していない。
「俺も胡散臭いと思ってたが、少尉を見ると本当なのかもな。そこんとこ、実際どうなんだ? 良ければつまみにでも聞かせてくれ」
ダグはそれに興味があるらしい。
ラーズとしては面白いわけでも、重要なわけでもない情報だ。それ故、話すことに支障はない。関係を構築する意味でもだ。
「んぐ。ふう。問題ありません」
ラーズはパスタを飲み込むと、思い出を交えて語り始めた。
4
これはラーズが入隊した直後、訓練生の頃の話である。
ラーズは整備兵として採用、入隊を許されたわけであるが、たとえどのような兵科であっても基礎訓練の義務を課せられる。銃の打ち方、塹壕の掘り方、匍匐前進の仕方、エトセトラ──全て肉体を酷使する物だ。それ故、肉体はボロボロとなる。
ラーズは疲労でフラフラしながら割り当てられた自室へと戻った。時は午後の六時を回った頃。丁度食事を摂る頃合いである。
通常、部屋は四人部屋であり、二段ベッドが二つあるのだが、この時はラーズのルームメイトは居なかったので一人の飯である。
ベッドの横にある保管箱から今日のディナーを選択し、取り出す。軍から支給された食糧だ。栄養価は計算されている。
「エネルギーバー。ビタミン補助バー。ミネラルタブレット。蒸留水」
ラーズは手に取りつつ、確認した。
二つのハンドサイズの包装に、キャンディー入りに見える個包装。それとペットボトルに入った水。以上が今晩食べるべき物だ。
訓練生は摂取する食糧、そのタイミングすら決められている。よって包装を一つずつ破き、順番通り口に入れてゆく。
まずはエネルギーバー。外見は、棒状に作られたビスケットだ。だが味はそれをさらに下回る。パサパサで無駄に油ぎっている。
ラーズはそれをなんとか飲み込んで、蒸留水によって流し込んだ。
さて、次に食べるべきは、ビタミンを補助するためのビタミン補助バーだ。これはいろいろな野菜を固めてフリーズドライして棒にした物。それに粉状のビタミンをまぶし、結果激烈な味にした物だ。
口に入れると凄まじい酸味や、えぐみなどが味覚を攻撃する。だが、ラーズはそれをなんとか耐えた。無論、蒸留水のおかげである。
そして最後にミネラルタブレット。これはただの塩のキャンディーだった。
それを舐め終えると蒸留水で舌を洗い流す。これが食事だ。
「規定の食料摂取を完了」
ラーズは食べ終えるとゴミを捨て、ベッドに寝転がって本を読む。整備兵になるためのマニュアルだ。娯楽と呼べるものはここにはない。
これこそがラーズの日常だった。この頃はそれ以外、知らなかった。
5
──と、ラーズは一つ例を挙げつつファルファリアの食事を解説した。
「大まかにはこのような感じです」
言い終わるとラーズはパスタを巻き、口に運びその美味を味わった。
一方のダグとマリアはといえば、酷すぎて言葉を失っている。
しかし、しばらくしてマリア少尉が胸に手を当て同情したのだが──
「ラーズ少尉……苦労されたんですね」
彼女の言ったことは的外れだ。
この頃のラーズは満たされていた。軍人になる以前に比べれば。
「野草を食む生活に比べれば、この頃の生活はマシでした。飢えと渇きは満たされていますし、草ほど青臭くもないですから」
ラーズはしみじみとしながら言った。
真に辛かったのは幼少期。野良猫同然の生活だった。ジャンクを治し金を稼いだが、満足な稼ぎになるはずもない。
結果、ラーズのサバイバル技術は軍人でも秀でたものとなった。災い転じて福となす──などとは口が裂けても言えないが。
ともあれ、マリアどころかダグすらもラーズに同情してくれたらしい。ここでもほんの少しだけであるが、ラーズは一つ新たに得をした。
「よし! そういうことならとっておきだ! 俺の皿もお前にくれてやる!」
ダグ少佐が自分の分の皿をラーズの前にすすっと滑らせた。
彼の頼んだ料理は大型の筒状の麺を使った料理だ。これはリガトーニと呼ばれるもので、チーズ系ソースがかけられている。
「いいんですか!?」
「おう! 俺は追加でもう一皿頼んで食うからな。実は、こいつはメニューにはねーんだ。いわゆる隠しメニューってやつだな」
そう言ってダグが親指を立てた。
軍人に食べ過ぎは禁物だが、チーズの香りに抗えはしない。ラーズはフォークでパスタを突き刺し、一つ一つ口へと入れて行く。
その度に香りが鼻をくすぐり、幸せの中枢を刺激する。
その様子を眺めていたマリアもなんだか嬉しそうな雰囲気だ。
「ふふ。よかったですね。ラーズ少尉」
「ええ。少佐、ありがとうございます」
「はっはっは! 気にするな気にするな! 美味い食いもんは分かち合うもんだ!」
こうして和やかな雰囲気の中、ラーズ達のランチは続けられた。
本当に平和的な食卓だ。とても、戦時下とは思えぬほどに。
6
ラーズ達がレストランでランチに舌鼓を打っていた、その時分──ミネルヴァは玉座の間で跪き、主人が現れるのを待っていた。
ステンドグラス達に囲まれた、美しく荘厳な玉座の間。光で彩られたその景色は、とても地下の施設とは思えない。
そして、この空間に存在する主役とも言える黄金の玉座。そこに座るために現れたのは、十代前半の少女であった。
彼女は、玉座の裏にある布のカーテンを潜り抜けて現れた。頭の上に銀色のティアラを頂いた金髪の女王陛下。その彼女を形容するのには、【可愛い】という言葉が相応しい。
だが、彼女こそバレザントの女王、リゼット・バレザントその人である。
通常、このような若い王には摂政政治などが付き物だ。補佐役を名乗るものが現れて王を操り、権力を貪る。
しかしバレザントにはそれはない。彼女は紛れもなく女王である。大臣のような補佐役もいるが、リゼットを操る者などいない。
「ミネルヴァ。よく戻ってくれました。頭を上げて立ってくださいな」
そのリゼットは玉座に腰掛けて、跪くミネルヴァに対し言った。
ここで、ようやくミネルヴァは彼女を視界に捉えることを許される。
可愛らしくも優れた統治者だ。ミネルヴァでさえ会話に気を使う。
「は。感謝します。女王陛下」
ミネルヴァはそう言って立ち上がる。
一方、リゼットは微笑んでおりその内心を知ることはできない。
だが、それでも推しはかるべきである。ミネルヴァを呼び出したのは彼女だ。
「大事なお仕事を任せておいて、呼び戻して、申し訳ありません。ですが、貴方とこのように直接、話をすることが必要でした」
「陛下が望んでいるというのならベルタの裏からでも戻ります」
「貴方は変わらず頼もしいですね。では、早速話を始めましょう」
リゼットの表情は柔和である。懸案があるようには思えない。
だが、ミネルヴァを呼び戻したほどだ。重要な話でないはずはない。
その重要な話の内容がリゼットにより静かに語られる。
「先日、降伏したファルファリアの統治と融和の政策について。円滑に進んではいないのです。何か知恵をお貸し願えませんか?」
彼女がミネルヴァへと求めたのは占領政策についての助言。
それを聞いたミネルヴァの内心は遭難した者のそれに似ていた。
ファルファリアがエイデンに降伏し、占領されてからまだ数日だ。そこに暮らす人々が簡単に敗戦を飲み込めるはずもない。
だが、女王に請われている以上は策を提案する必要がある。
それも有効な解決策をだ。ミネルヴァは必死に考え出した。
「あくまで個人的見解として、お聞き願えればと思うのですが」
「ええ。もちろん。それで構いません」
「は。では、述べさせていただきます」
そしてミネルヴァは話を始めた。
この数日でミネルヴァが得た物。それを可能な限り生かしながら。
「まず、結論として彼らに対し崇拝を求めるのは難しい。それより職や安定を与えて、納得感を得るのが良いでしょう」
ミネルヴァはまだ数日ではあるが、ベルノーでファルファリア兵に触れた。エイデンの旗下へと加えるために。その過程で、気づいたことがある。
「ファルファリア人は指導者に対しあまり忠誠は持たないようです。一方で思考能力は高く、合理的判断を重視します」
「冷たい人々、ということですか?」
「いえ。友や家族は思いやります。ただ、形のないものは信じない。それを合理的だと感じました」
それはファルファリア商業主義国という名称にも現れている。
金は形のある信用である。ミネルヴァはそのように感じていた。
「エイデン軍に迎えた者たちもその傾向があったと思います。個々人により違いはありますが、バレザント国民とは違います」
「なるほど……そういうことなのですね」
リゼットはその提言を受け取り、少しだけ考えたように見えた。
そして、次の瞬間、ミネルヴァにも予想のつかぬ願いを口にする。
「ミネルヴァ少将。よろしければ、その部下の一人を借りられますか? 私も私の眼で直接、彼らを見て知りたいと思います」
リゼットは真剣にそう言った。
だが、ミネルヴァがうんと頷くには余りにも大きな問題がある。
「は。しかし……それは危険では?」
昨日まで敵だった人間と、王が直接会って話をする。
暗殺を目的とする者なら両手を上げて歓迎するだろう。
しかし、当の陛下は反対など、当然、織り込み済みであるらしい。
「他の部下たちにも止められました。ですが、これでも譲歩したのです。最初はファルファリアを訪れて、彼らと話すつもりでしたから」
「警備の者が泣いて止めたでしょう」
「ええ。ですから譲歩をいたしました」
リゼットはそう言って微笑んだ。
それを見て、ミネルヴァも理解した。自分が何故この場所に呼ばれたか。
この賢王はミネルヴァの配下を借りるために彼女を呼んだのだ。で、あるならば借りる人物にも、既に目をつけているに違いない。
「つまりラーズ少尉を借りたいと?」
「はい。理解が早くて助かります」
リゼットの笑顔を見ればおそらく断る選択肢はないのだろう。
ミネルヴァが目線を逸らしてみると、女王の部下も半ば呆れている。
「承りました女王陛下。必ず、彼を連れて参ります」
ミネルヴァはえも言われぬ表情でリゼットに対しそう約束した。
こうしてまた、ラーズの知らぬ間に、彼の運命が動かされて行く。ラーズには対処などしようがない。苦労が彼の天命だと言えた。
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