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ベルタ戦記 〜整備長が整備を辞めるとき〜  作者: 谷橋ウナギ


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6/6

第五話 『奇襲』


    1


 対空ビーム砲が天を向き、飛来するハウンドを狙い撃つ。

 ナミド前哨基地の規模はおよそベルノー地上基地の二分の一。だがそれでも制圧するとなれば、激戦になることは避けられない。


 基地に接近したハウンドのうち、五機は撃ち落とされてたどり着けず。それでも逃げることは許されず、ラーズのヴェインは基地へと降り立つ。

 そこに上空からのミサイルが──これは誘導することはなかった。


 エイデン軍所属のバザードから発射された多数のロケット弾。それが炸裂すると桜色の粒子が爆風と共に広がる。

 ミサイルはその中を通ることで誘導する能力が失われ、ハウンドの方に向かうこともなく地面に衝突して爆発した。


 ラーズとしてはこの兵器の使用、散財には驚かざるを得ない。


「ナノマシン・ジャミング弾!? 贅沢な……」

「所詮、ファルファリアの漬物石だ」


 そのラーズにミネルヴァが指摘した。

 この兵器は多量のナノマシンをばら撒くことでミサイルを妨害、多面的な手段で無効化し、範囲内にいるハウンドを守る。


 非常に高価な兵器ではあるが、鹵獲したモノなら殆どタダだ。友軍を守れるならそれで良い。そのことはラーズにも理解できた。


 さて、こうしてナミドに辿り着いたエイデン軍のハウンドは十五機。そのうち大型の箱型兵器ジャミング弾を装備した機が二機。武装補給コンテナを持った二機。そして残りは通常の武装だ。


 その中で特殊部隊グルルドにラーズは所属、行動をしている。

 グルルドの機体は全機紺色。ミネルヴァ機は金の装飾もある。ダグとマリアの機体は同型で、ヴェインを含めて合計で四機。


 ともあれ、ヴェインは塗装を施す時間もなかったのでそのままだ。金属の色。つまりメタルグレー。よって傍目には酷く浮いている。

 しかし、ラーズがこの部隊の中でやるべきことは何も変わらない。


「さて諸君、各機ここで散会し、ナミドの防衛戦力を潰す。グルルドの価値を戦場に示せ! とは言わん! 職務を真っ当せよ!」


 ミネルヴァの号令でグルルドが、直ちに作戦行動に移る。


 ミネルヴァのハウンドのガルムセージ、ダグとマリアがそれぞれ乗るリジル、そしてラーズのヴェインが一斉に動き出しガビア機と交戦する。


 今回、グルルド所属の機体は全機武装は揃えられている。ビームライフルと物理のシールド、そしてシールド裏にビームソード。ヴェインにもエイデン軍の仕様のシールドが左腕に取り付けられた。

 マリア機だけライフルが左手に、シールドが右腕に付いている。それは彼女が左利きだからだ。それ以外に、特段の差異はない。


 四機は低空スライド飛行で滑るように移動し敵を射撃。ヴェインも含めそれぞれの機体が敵ハウンドを撃ち抜き撃破する。


 その中でラーズですら気がついた。何故ミネルヴァが奇襲を急いだか。


「ハウンドのほとんどがガビア製。バザードは数えるほどしかいない」


 ガビア製のハウンド、マクマドス。ツインアイが特徴のハウンドだ。ナミドを守る機体はこの機種が、実に八割近くを占めている。


 ここは本来ファルファリアの基地だ。バザードを置いていないはずはない。だが、それは出撃すらしていない。扱いうる兵士がいないためだ。


「『愛は剣に勝る』──と言うだろう?」

「制圧と降伏は違います」

「確かに。だが捕虜もいずれは降る。よって、そうなる前に助け出す」


 ミネルヴァがガルムセージを操り、敵機の胸部を撃ち抜いて言った。

 一方のラーズもヴェインを駆って、攻撃を交わしつつ撃墜する。


「素晴らしい作戦だと思います」

「いやー。ま、俺はノーコメントでー」


 マリアとダグも敵機を撃墜し、防衛設備を次々に破壊。

 だが、グルルド以外の遊軍機に損害が出ることも避けられない。


 基地にはハウンドの残骸たちが転がり、施設は壊れ燃えている。

 元来、祖国の基地であるナミド。その基地に対して、破壊を尽くす。ラーズが愉快であるはずもない。はずもないが感情を切り離す。


 機械のように──敵機を破壊する。焼き尽くし、敵兵を無力化する。効率的に。より効率的に。それが生存に必要なことだ。


 事実、ナミドの戦力は低下し、戦況はエイデンの有利だった。

 施設から現れたバザードも、戦況を変えうる力などない。


 しかし戦況は変化した。たった四機のハウンドの力で。


「救援と聞いて駆けつけてみれば。さすがだね。バレザントの女豹は」

「バレザントの虎かと思います」

「女豹の方が、格好いいだろう?」


 その指揮官機に乗る仮面男。

 彼はただ愉快そうにそう言った。


    2


 救援機到着の数分前──

 仮面の男と彼の部下たちは元ファルファリア基地の一つにいた。


 早朝であれ、兵士である以上、命令に従う必要はある。だが、それはそれとしてあくびは出る。仮面をつけた男であろうとも。


 男の名前はクロ・ブルーバード。金髪ボブヘアの軍人である。正確に述べればガビア帝国、諜報機関バーズ構成員。黒い仮面で顔を隠している、側から見れば不審な人物だ。


 だが彼には複数の部下がおり、その内の一人を連れ立っていた。


「こんな朝から敵も熱心だね」

「クロさん……本当に行くんですか?」

「ああ、見捨てたらかわいそうだろう?」

「軍は完全に見捨てていますが」


 その部下は救援に否定的だ。

 部下のベイト・セクレタリは普通の、ごくごく普通の青年軍人。無論仮面など身につけていない。二十六歳。常識人である。


「仮に我々が向かったところで、ナミドを守り切ることはおそらく……」

「不可能だな。しかし、時は稼げる。基地からの撤退を支援する」


 その彼はこの救援作戦に明らかな反対を表明した。

 しかしそれはクロも理解している。している上で決断をしている。


 クロは言うと自らのハウンドにワイヤーを使用して乗り込んだ。

 バーズ所属の特殊部隊員が、操るハウンドには規定がある。ワインレッドに染められた装甲。翼を広げた鳩のエンブレム。この諜報機関とは思えない派手すぎる外観には意味がある。


 クロはコクピットのシートに座り、ハウンドのシステムを起動させた。

 そして、別のハウンドに乗り込んだベイトに対し通信を行う。


「私たちには裁量権がある。有効利用しても良いだろう?」

「特殊な作戦を行うために付与されていると理解しています」

「たとえば斬首作戦とかだろう?」

「ええ。友軍ですら知るべきでない」


 ベイトの言う事は尤もである。

 クロやベイトが階級を使って名乗らないのも機密保持のためだ。知られずに作戦を実行し、敵の意識に恐怖を刻み込む。


 だが、その部隊の指揮官はクロだ。

 つまり決定権はクロにある。


「そんなんだから我々は強面。仲間からも陰口を叩かれる。たまには普通に彼らを助けて、感謝されてもバチは当たらないさ」

「そこまでおっしゃられるのなら、私も出撃には同意します」

「まあそうむくれるなよ。ベイト君。後でカレーのレーションをあげよう」


 クロはしかめっ面をしたベイトに言うとハウンドを歩かせ始めた。


「そう言うわけで諸君、出撃だ。友軍の撤退を支援する」


 こうして計四機のハウンドが、屋外に出て次々に飛び立つ。

 そしてナミド前哨基地に向かう。これが、ラーズ達には不幸だった。


    3


 ナミド前哨基地へと飛来するワインレッドカラーのハウンド達。

 この四機が出現した事で、戦況は一気にカオスに落ちる。


「ベイト君は退路を確保して。残りは敵ハウンドを撃破する。目的は兵士たちの救援だ。彼らが離脱する時間を稼ぐ」


 などと言っているクロのハウンドがスピードを上げて基地へと接近。付近にいたエイデンのハウンドを瞬く間に二機ほど撃破した。

 驚くべきは稲妻にも見える、鋭さを持った運動性能。そしてそれを軽々使いこなす、神がかり的操縦の技術だ。


 ジェネレータが発生する力場で、パイロットが感じるGは弱い。ほぼゼロだと言っても良いモノだが、それでも脳は混乱状態だ。

 速度を維持しながら、ほぼ真逆の方向へと切り返す出鱈目さ。体を軸にした高速スピン。側宙。それらを織り交ぜた軌道。


 もし常人がこんなことをすれば、たちまち混乱して墜落する。だが、クロは混乱をするどころか、その中で正確な射撃もした。


 クロのハウンド・レイスはクロが乗り、操ることで力を発揮する。

 武装はシンプルにライフルと盾。それで十分、敵を翻弄する。


 その圧倒的な能力を持つクロが次の標的と決めたモノ。それが不幸にもその近くにいた、ラーズの駆るハウンド・ヴェインである。


 この時点でラーズはこの敵機の恐ろしさをわかったつもりでいた。実際にはわかっていなかったが、それでも交戦する以外にない。


「化け物だが! 奴は撃墜する!」

「ほう? この機体は……レアモノだ」


 レイスは稲妻のような機動で接近しつつ高度を下げてくる。

 ラーズはライフルでレイスを射撃。接近の速度こそは緩めたが──


「どうやっても! 堕とせる気がしない!」


 ラーズの偽らざる本心だ。

 ラーズは確かに回避運動と比較して攻撃が苦手である。しかし仮に射撃が得意でも、この敵を捉えられる気がしない。


 ハウンドが二機。パイロットが二人。そう違いがあるとは思えない。しかし、現実にはカエルとカラス──と、言えるほど能力に差がある。


 それでもラーズはなんとかかんとかヴェインを操り反撃を交わす。低空でスピンし躱すヴェインの、側をビームが掠めて飛んでゆく。


 それでも応戦をやめた瞬間、ラーズは熱と衝撃に飲まれる。故にライフルの引き金を引いた。必死に敵を狙って、闇雲に。


「よっ……と」


 それをレイスが躱す動きを見て、ラーズはまた驚くことになった。

 低空スライド飛行の最中、片足で地を蹴って跳躍する。それも側宙するような動きで。そこから稲妻の挙動に移る。


 ラーズはこの動きを知っていた。整備のために研究したからだ。地を蹴る際の細やかなる動作。蹴った後に側宙をする動き。幾度もその動きを確認し、ハウンドの調整に苦心した。


『俺のクセだな。無理をさせすぎたか?』


 かつてジル大尉がラーズに言った。

 彼の言うように、彼がハウンドに強いる動きは凶悪たるモノだ。それ故、敵は対応できないが、機体には恐るべき負荷がかかる。


 ラーズはその負荷を逃がせるように、あるいは耐えられるよう処置をした。ジルがかつて駆っていたハウンドに。全身全霊の努力を持って。


 結果、動作不良を引き起こし──裁判にかけられる羽目になった。

 それはそれとして目の前の敵に、ラーズは対処しなければならない。


「ジル大尉!? 他人の空似とは……!」

「狙いが正確になってきている」


 知っていれば動きの先は読める。

 困惑しながらでも不思議なほど、ラーズは動きを予測できていた。


 だが、ラーズの予想が正しければ、相手は百戦錬磨のエースだ。容易に勝利できるはずもない。ラーズは直ぐ思い知る事となる。


「なら、選択肢を潰させてもらう」


 レイスがヴェインの射撃を交わして、基地の床に向かってダイブした。

 そして着地と同時に床を蹴り、ヴェインに向かって突撃してくる。


 ラーズはヴェインのライフルを発射。これを迎撃しようとしたのだが──結果から見ればこれは罠だった。


「ここだ」──レイスは体を捻って、その上でスラスターを起動した。

 胸の上部分にあるスラスター。前方に向け噴射されるモノだ。つまり体は後ろにそらされる。ただし、レイスは無理に横を向いた。


 結果、ラーズが目撃をしたのは信じられない姿勢のハウンドだ。

 相手は膝を九十度折り曲げ、のけぞった状態になっていた。いや、膝から上の機体はもはや地面とほぼ水平になっている。地面に接触していないものの、寝ていると言う表現が正しい。


 問題なのはこの姿勢のままで、ヴェインに近づき続けていたこと。そしてこの姿勢になった理由が、回避運動であったことである。

 ヴェインの射撃を躱しつつ、尚ヴェインに対して接近する。右手に持ったライフルの銃口、それをヴェインに対して向けながら。


 マズい──ラーズの脳内はここから超高速で回転を始めた。今までよりも更にということだ。世界がスローモーに感じられる。

 だが、スローモーに感じたところで決定的な解決策が無い。


 ライフルの発射間隔はおよそ一秒弱で短縮はできない。ライフルを捨てて、ソードを引き抜き、切り付ける? 間に合わないだろう。残された武器の頭部バルカンもハウンドには貫通力不足だ。


 となれば、ラーズの取りうる手段は、回避かあるいはシールドで防御。つまりは敵がやったことと同じ。それをラーズがやってのけられるか?


 敵はまだ接近を続けている。銃口をヴェインへと向けたままで。回避するにせよ、防御するにせよ、しくじれば確実にあの世行きだ。


 しかし、幸い、レイスが引き金をヴェインに向けて引くことはなかった。


「おっと? 横槍か……。無粋だな」


 レイスがのけぞっている状態で、両足で地を蹴って舞い上がる。背部メインスラスターも起動し、一瞬でだ。それにはワケがあった。


 遠距離から発射されたビームがレイスの居た地点を貫いた。レイスが飛び上がっていなければ、直撃を受けた可能性がある。


「あそこから躱すか。あのハウンド」

「女豹自らのご参戦とはね」


 レイスを狙い撃ったのはミネルヴァ。彼女のハウンドのガルムセージだ。

 どのような強者であれ、勝利を確信した瞬間、隙ができる。そこを正確に狙い撃ったのだ。しかし、それでも仕留められなかった。


 ともあれ、ラーズがこの援護により命拾いをしたことは事実だ。

 だが、状況は好転していない。この敵を前にしている限りは。


「貴女を殺せば士気も低下する」


 その敵であるクロはターゲットをヴェインからガルムセージへと変えた。

 指揮官であるミネルヴァを殺せば、戦況はガビアに傾くだろう。


 そんなことは馬鹿でも思いつく。問題はその実行能力だ。


「ちい!」


 数発撃ち合いした結果、ガルムセージのライフルが壊れた。

 ライフルに光線が命中し、一瞬で主要な部分を溶かす。それでも、不幸中の幸いだ。直撃を受けるよりはずっと良い。


「少将! 後退を!」言いながら──ラーズはクロのレイスを狙い撃つ。

 たとえ撃墜ができないとしても、楽に攻撃をさせてはならない。


 非常に、絶望的な状態だ。ラーズは内心そう思っていた。

 しかし、事実は想定と異なる。敵機はレイス一機だけではない。


「クロさん! 限界です! 撤退を!」


 ベイトがクロに対しそう言った。

 続いてバーズに所属する機体、その一つがソードで斬り裂かれる。


 ベイトの乗っている機体ではなく、あくまでクロの部下が乗る機体だ。

 そのちょうど腹部に当たる部分が横一線に斬られ胴が落ちる。


「グルルドを舐めるなっていうことだ!」


 やったのはダグ少佐の駆るリジル。右手に持つビームソードで斬った。

 残されたバーズの機体は三機。それを知ったクロは決断をする。


「熱くなりすぎたか。撤退する! 全速で領域から離脱せよ!」


 その言葉で、バーズ所属機体は一斉に飛び立って撤退した。

 クロのレイスも少し牽制し、その後同じくナミドから飛び去る。


 彼らの目的は撤退支援。エイデン機の殲滅などではない。

 その目的は達成されていた。それは部下のベイトが証言する。


「で、友軍は撤退できたかな?」

「はい。まあ。ジープで八台以上は」

「それはよかった。部下一人やられて、成果なしでは流石にやるせない」


 ベイトが確保していた地点には地下施設からの脱出路があり、そこから出てきたジープや兵員輸送車が森林に逃れていた。


 無論、追撃される危険もある。だが、ミネルヴァはそれをしないだろう。

 事実、ミネルヴァ少将は味方に、エイデン機に新たな指示をした。


「全機追撃はいい。ナミドを獲る。残存する敵戦力を潰せ。地表部分を確保でき次第、歩兵を基地内に突入させる」


 少将による指揮は的確だ。文句のつけようなどありはしない。

 だが、ラーズにはやるべきことがある。危険だが、一瞬で終了する。


「あれがジル大尉かを、確かめる」


 ラーズはコクピットの内部にあるコンソールを操作し、送信した。


「ほう? この形式は。面白いな」


 それを受け取ったクロは驚くが、仮面で表情は隠されている。


 その仮面の下は何者なのか? 気がついたのはラーズだけではない。


「少将! 無事ですか?」

「問題ない。たかがライフルを失っただけだ」


 ミネルヴァはまず、マリアへと答えた。

 そして次にダグにも回答する。


「いやー、とんでもない奴でしたね」

「あれは、ファルファリアの……亡霊だ」

「亡霊?」

「ああ。死んだと聞いていたが、地獄から蘇ってきたらしい」


 ミネルヴァは言ってため息をついた。


 未だ戦闘は終わっていないが、ナミドの運命は決定された。だが、当初想定されていたより激戦となったのは間違いない。

 地に倒れ伏すハウンドの骸が、その事実を静かに語っていた。


    4


 人がどのように殺し合おうとも、自然の営みには変化がない。

 ラーズはナミドでの激戦の後、ベルノー地上基地に帰還した。それから数時間が経過して、現在は深夜の十二時となる。


 太陽は地平線に吸い込まれ、虫たちは求愛の歌を歌う。

 そんな時分、ラーズは自室でなくヴェインのコクピットに座っていた。


 昼に戦ったあの敵が──ジル大尉か確かめねばならない。そのためにこの時間、定められた周波数で通信を試みる。

 ナミドで敵が撤退した時に、ラーズが指定をしておいたものだ。ファルファリアの暗号化通信で。ジル大尉なら解読が可能だ。


 そしてついにその時刻が訪れ、ラーズの元へと通信が届く。


「驚いたよ。本当に君とは」


 モニターに映し出された人物。彼は黒い仮面をつけていた。

 しかし声でもある程度はわかる。それでも、外させるべきではあるが。


「ええ。大尉はお洒落になられました」

「おっと、すまない。これを忘れていた」


 そこで、ラーズが促すと相手は、意外にもあっさり仮面を外す。

 黒い仮面の下から現れた顔面は果たして──予想通り。見覚えのある青年の軍人。髪型は違うが、金髪である。彼こそはファルファリア軍のエース、ジル・トランペットその人であった。


 彼はラーズの整備ミスによって、戦闘中にその姿を消した。軍にとっては死と同等である。

 しかし、彼は事実生き延びていた。それもガビア軍の軍人として。


「どうかな? 君の考えた通り、私はジル・トランペット大尉だ。と、言ってもその名は捨てている。今の名前はクロ・ブルーバードさ」


 彼はクロ・ブルーバードと名乗った。

 だが、ラーズにとってはジルのままだ。そしてそのジルには質問がある。


 もし、ラーズが政治に長けていれば言葉遊びで罠を張っただろう。だが、ラーズにはそんな技はない。故に、ただ実直に問いただす。


「ジル大尉……貴方は機体が壊れ、行方不明になったと聞きました」

「ふむ。確かに。しかしそれは演技だ。おそらくは君が予想した通り」


 するとジルはそれに対し答えた。

 彼も茶化したりせず真剣にだ。だとしても許されることではない。


「ガビアに寝返るため、芝居を打つ。行動としては理解できました」

「感情としては理解できないと?」

「ええ。私も貴方も軍人です。軍人である以上、裏切りなど、何者であれ決して許されない」


 ラーズはジルの行動の煽りで、罪に問われ結果今ここにいる。

 だが、それは重要なことではない。軍隊という大きな組織には。


 問題はジル大尉が裏切って、ガビア軍に尻尾を振ったこと。これは銃殺刑にも値する、軍人としては最大の罪だ。


「しかし君も今はエイデンにいる」

「ファルファリア軍が降伏したので」

「確かに。なら私にも罪はない。罪に問う者など存在しない」


 ジルの言い分にも一理はあるが、ラーズには納得はできなかった。

 よってこれからなされる提案もラーズが承諾することなどない。


「そこでだ、もしも君が望むなら、ガビアに来てはもらえないだろうか? パイロットでも整備士でもいいし、待遇はこの私が保証する」


 ジルは痛いところをついてくる。

 ラーズがパイロットをしているのも、エイデン軍に身を置いているのも、自らが望んでのことではない。

 しかし、それでもラーズは軍人だ。


 それに、ガビアとて信用できない。戦場にいるラーズは知っていた。何も信用できないならせめて、自らの決定は遵守する。


「そのお気遣いは痛み入りますが、私はエイデン軍の少尉です」

「君のその真面目さには驚くよ。だから得たかったのだが、仕方ない」


 ラーズが誘いを断ると、ジルは残念そうに息を吐いた。

 それで、ラーズの要件は終わった。だが、ジルの話は終わっていない。


「なら、せめて忠告を聞いてくれ」


 ジルは優しげな声でそう言った。

 そして続ける。ラーズには理解が、及ばない真偽のわからぬことを。


「君の扱っているその機体。それはシャーマン計画の遺物だ。早々に手放した方がいい。深入りすれば、命にも関わる」

「シャーマン計画とは?」

「言っただろう? 深入りすれば命に関わると」


 ヴェインの情報は軍事機密だ。故に、ラーズも詳細は知らない。

 ただ乗ることを強要されただけ。よって今、判断のしようがない。


「気には止めておきます」

「それで良い。では、もう出会わないことを祈るよ」


 ラーズがいうとジルはそう言って、通信を完全に切断した。


 ラーズは知りたかった真実を、無事に知ることができたというのに──どのような感情を持てば良いか? 今のラーズには処理できなかった。


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