表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベルタ戦記 〜整備長が整備を辞めるとき〜  作者: 谷橋ウナギ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/6

第三話・下 『思惑』


    3


 人間の運命というものは、本人の知らぬ場所でこそ決まる。

 ラーズとの交渉を終えた後、ミネルヴァがどこで何をしていたか。そこにラーズの人生を変えうる重要な要素が含まれていた。


 ベルノー地上基地にある小部屋にカードキーで開き入るミネルヴァ。その中には多数のコンピューター、そしてモニターが設置されている。


 更にそれら機械類を用いて作業を続けている部下が一人。金髪で軍服を着た青年。それはアイン・ベールマンであった。ミネルヴァ少将直接の部下で、ラーズの財布を盗った者である。


「少将。お早いお帰りですね」

「ああ、存外素直なやつだった」

「堅苦しい男に見えました」

「私の色香に屈したのかもな?」


 ミネルヴァはアインに対し言った。

 一方、アインは一度立ち上がり、敬礼をしてミネルヴァを迎えた。しかしすぐに椅子へと座り直し、キーボドの上に両手を戻す。


「で、どうだ? 例の情報は?」

「は。諜報部より受け取りました。尋問中の映像となります。この場で直ぐご覧になりますか?」

「見ない理由はない。流してくれ」

「は。それでは再生いたします」


 そしてミネルヴァはアインの後ろで前方のモニターを覗き込んだ。

 すると、アインが機械を操作して映像をモニターへと映し出す。


 尋問用の部屋を上方から撮影した監視カメラ映像。写っている人物は二人だけ。軍人と囚人服の男だ。

 無論、軍人が囚人に対し尋問をするという構図である。


 再生されたのは、その尋問が開始されてしばらく経った地点。故に退屈する心配はない。必要な部分のみが流される。


『それでは次の質問へと移る。ファルファリア軍の研究計画、シャーマン計画についてだ。話せ』


 尋問官は職務に忠実で、淡々と男へと問いかけた。

 一方、捕虜の男は作戦の名前を聞いて顔が青ざめる。まるで目の前に悪魔が現れ、殺される寸前のような顔だ。


 通常、隠すべきことがあっても人は表面上は取り繕う。しかし、その様子すら見られない。これはやや異質なことだと言えた。たとえ長時間の尋問により、捕虜の男が疲弊していてもだ。


『君たちは何も理解していない。人には逆らえない摂理がある』


 それでも何かは言わねばならない。

 捕虜の男は震えながら言った。


 だが、それで尋問は終われない。これは尋問官の職務なのだ。


『話したくないならばそれで良い。ただ、もう少し具体的にしろ』

『無理だ! 天は全て見られている! 我々ががががががあああ!!』


 しかし、結局尋問は終わった。

 捕虜の男の体が痙攣し、その意識が絶たれたためである。


 当然映像も終了であり、アインがそこで一時停止させる。


「以上です」

「奴はどうなった?」

「諜報部によれば死亡しました」

「死因は?」

「現在調査中です。ただし、現時点では自然死と……」


 そして、ミネルヴァの疑問に答えた。

 しかし、それで解決はしていない。


「これが自然死ならロケット弾で吹き飛んでも自然死と言うことだ。赤子ですらも毒物を疑う。あるいは電子機器によるものか」

「だとしても検知は難しいかと。特別な技術かも知れません」

「だが、ますます興味が湧いてきた。隠されれば暴きたくなるだろう?」


 ミネルヴァは言ってニヤリと笑った。

 さて、このシャーマン計画であるが、ラーズと密接に関わっている。


「あのラーズに与えられたハウンド。ヴェインはこの計画の産物だ」

「なら、調べれば何か出るのでは?」

「それがこの件の不思議なところだ」


 アインが思いつくようなことなど、ミネルヴァが試さないはずはない。

 つまり調査は行われているが、結果は暁光とは言えなかった。


「昨夜部下によって調べさせたが、ハード面で特異なところはない。運動性や操縦性能が多少高められてはいるらしいが、せいぜい言ってカスタム機程度だ。機密にするような兵器ではない」

「それなのに隠蔽はされている」

「ああ、だから、あの男を部下にした」


 だが、ミネルヴァは諦めてはいない。そのことは誰にも明らかだった。彼女の愉快そうな表情と、口調が如実に物語っている。


「ヴェインにはラーズ以外の操作を弾くようロックがかけられている」

「そのような物はフィクションだけかと……」

「だが事実ある。よって炙り出す」


 ミネルヴァの目つきはまるで獲物に狙いを定めた猛禽のようだ。

 その爛々と輝く瞳には部下のアインですらも気圧される。


「あれを側に置き戦場に出せば、隠された物はいずれ暴かれる」

「失われる危険性もあります」

「その時は──それまでということだ」


 最後に『もう少し調査を頼む』──そう言ってミネルヴァは部屋を出た。

 以上がラーズの命運を握る、数多ある情報の一つだった。


    4


 光度を下げられたライトの下で、木がナイフによって削られてゆく。

 その日の夜。ラーズは与えられた個室の中で夜を迎えていた。地下室であるため窓などはなく、虫や動物の声も聞こえない。


 そんな環境でベッドに腰掛け、ラーズは木をナイフで彫り続けた。

 目指す物は四足の哺乳類。颯爽と駆け抜ける馬の像だ。その完成図を思い描きつつ、器用に木の塊を彫っていく。


 ラーズは心を落ち着けたい時、彫刻をする趣味を持っていた。子供の頃、ジャンクパーツを加工、修理するために身につけた技術。それが今では精神統一の手段となり、ラーズを支えている。


 だが、今日はその精神統一も心を鎮めるには不足だった。


「ダメだな。これ以上続けても」


 ラーズは彫刻をやめ、持っていたナイフと木を枕元へと置いた。

 ナイフは当然鞘へと収めて、抜けないようロックをした上でだ。


 そしてそのままベッドに寝転がる。

 しかし当然、眠れるはずもない。


 戦地に在る以上、常に命が失われるという緊張はある。

 だがそれを上回るざわめきが、神経を昂らせ眠らせない。


「何かが起きると感じられるのは、事実、何かが起きるからである。いつか聞いたことわざだが、真だな。せめて生き延びられることを願う」


 ラーズは独り言を呟くと、両目を閉じ無理やり眠りにつく。

 せめて体を休められるように。脅威に対し備えられるように。


第三話の後編です。感想評価お気軽に〜。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ