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私の推しはモブ文官  作者: 橘可憐


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8/29

動き出す運命4


(ぶ、文官様…)


リアル実写版となった文官様はゲームで見た以上に素敵な人だった。普通実写版となるとイメージが違ったりするがまるでそんなことはなく、寧ろ想像以上に完璧で、言葉もなく見入ってしまう。


「こちらのお二方が連絡のあった者達で間違いありませんね」


「わざわざ足をお運びいただき感謝いたします」


「いえ、仕事ですので。それよりも双子共々とはまた珍しい、とても興味深い事例です」


「ええ、私も驚いております」


文官様は私のことなど眼中になく、院長と挨拶じみた会話に夢中のようだがそんなの関係ない。あんなに憧れた本物の文官様が今目の前に居るのだから。できることならこのままずっと見詰めていたい。


「お名前を伺っても?」


リアル文官様が私達の前に来ると私達の目線に合わせ腰をかがめ尋ねてくる。さすが文官様、お優しい。

それに足も長い。院長と私達の間は五メートルは離れていた筈なのに三歩だよ三歩。それも自然にだから驚きだよ。


「姉さん」


リオンに肘で小突かれ私は慌てて現実に戻る。


「オランジュです」


「リオンです」


意地悪オババに何度も練習させられたようにスカートの裾を持ち腰をかがめ挨拶をする。リオンは普通に腰を折るだけだ。


「私はアデスレート。みなにはアデスと呼ばれています。これから君達の担当をすることになったのでよろしく」


「た、担当ですか!?」


なんだよ担当って。聞いてないよ。っていうか、担当ってことはこれからずっと面倒を見てくれるってことだよね? ゲームではそんな設定は無かったけどそういう解釈で良いんだよね?


「君達の処遇についてはまったく話し合いが付かなくてね。君達を引き離すのも可哀想なので能力の解明と研究をするという名目で私の部署で預かることになりました」


「部署って…」


「ああ、少し難しかったかな。私が仕事をする場所には研究・行政・司法と大きく三つの部署があり、私はそのどれもに関わる総合事務に所属して統括しているのです」


良く分からないけど総務ってことだろうか? やっぱり文官様は超エリートってことなのは間違いないようだ。


「そして今君達を預かる場所として二つの候補があるのだが、一応君達の意見も聞いてみたいのだが構わないかな?」


「勿論です」


それに関しては私の方から文官様に交渉しようと考えていたので話が早い。まずは是非文官様の考えを聞いてみよう。


「まずは研究所にある宿舎へ入る。これだと他の貴族や教会への正式な牽制になり問題は少なくなるが反対に研究三昧になるだろう」


要するに変な派閥に取り込まれる心配が少なくなる代わりにモルモットになる可能性が高いって心配しているんですね。でも大丈夫それに関しては私のゲーム知識がきっと役に立つ。


元々知識の能力を発現すると入れられるのがその宿舎だ。モルモットになる心配は無いと思うよ。だって学園に入学してからもかなり自由に行動できたから。


「あと一つはどこですか?」


「私の屋敷で預かる」


「アデス様のお屋敷にですか!」


私は思わず叫んでしまう。それって、所謂同棲ってことじゃないですか。これからずっと同じ屋根の下で過ごせるんですか。いやいやいや、それって寧ろかなりヤバくないですか。心の準備が必要です。


「研究も勿論させて貰うが、私の妻が君達を責任をもって貴族社会でも通用するようにしっかりと躾けてくれるだろう」


つ、つ、妻ですって!? 今、妻っていったよね?


ガーーーン!!


よく考えてみればこれだけの超イケメンエリート様がシングルな訳がなかった。


攻略対象になっていない時点で察しろよって話だね。


私のバカバカバカ。どうしてそんな簡単なことに思い至らなかったのぉーーー。


…。


……。


でも、大丈夫。


私の推しへの愛は変わらない。


だって推しの幸せを願い活躍を応援する。それが推し活ってもんよね。


この先結ばれる希望はなくなってしまったが、私はこれからも文官様への推し活はやめないわよ。


だって今目の前に居る文官様は紛れもなく本物なんだから。

推しへの愛は変わらない! (大事なことなので二度思ってみた)

一緒に成功という幸せを手に入れましょう!(何が成功かは分からないがこの際ノリだ)


でも…。


文官様の幸せな家庭生活の中に入るのはちょっとごめんだな。そこまでリアルな文官様を感じてはいられないと言うかいたくない。乙女の感情は複雑にできているんだよ、仕方ないよね。


「私の憶測ですが、私達がアデス様のお屋敷に行ったらアデス様が他の貴族に睨まれることになりませんか? それに貴族社会に対応できる策は礼儀作法ばかりでは無いと思うのです。私は誰にも有無を言わせない力を手に入れたいので研究の方に力を入れていただいた方が嬉しいです」


「ほぅ、十歳の孤児の発言とは思えませんね。さすが知識の能力といいますか。まぁ、そこまでしっかりと自分で考えられるのなら私も下手に反対はしません。でも本当にそれで良いのですか?」


「私は本当はリオンと離ればなれにならないのならどこでも良いのですが、是非お願いします」


「分かりました。ではそういたしましょう」


研究所の宿舎は寧ろこちらから願っていた事だ。

それでもリオンはいずれ協会に通わされることになるだろうが、少なくとも離ればなれにされる心配は無くなった。

ホントあっさり話が進んで良かったと私は胸を撫で下ろすのだった。



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