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私の推しはモブ文官  作者: 橘可憐


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動き出す運命3


話はなんともトントン拍子に進み、一昨日能力を授かったばかりだというのにもう文官様がお迎えに来るらしい。日本のお役所仕事だったらこうはいかないよね。


それともゲームでは描かれていなかったが、何か大人の事情とでも言うか切羽詰まった問題でもあるのだろうか?


私とリオンはよそ行きの綺麗な服に着替えさせられ、朝から院長室でお迎えの到着を待たされている。


孤児院と言っても小説によくありがちな極貧生活で幼い内から無理に外に働きに行かされるということは無かった。せいぜいが孤児院を出るまでに不自由がないようにと孤児院内の仕事を手伝わされる程度だ。


どうやらこの国では貴族様方の孤児院への寄付は義務づけられているらしく、贅沢な生活はできないが最低限の生活は送れている。


それに貴族の奥様方の嗜みとして年に何度か大々的な施しがあり、一般市民では口にできないような贅沢な料理やお菓子を食べられたり、プレゼントを貰えたりしていた。


だから何も僻む必要も恨む必要も無いと思うのだが、孤児院の子供達はやはりどこか性格に問題を抱える子が出てきてしまう。日本の学校でのカーストみたいなものだ。いじめっ子もいじめられっ子も多い。


私はそれが我慢できず言われたら言い返し、やられたらやり返すをしていたのでいつの間にか問題児扱いで、何より我慢できなかったのが《女の子なんだから》と言うお説教だった。


先に手を出したのが相手だったとしても、たとえ私が殴られて青あざだらけでも、院長や意地悪オババなどは必ずそう口にした。


だから今朝も私達がよそ行きの格好でいるのが面白くない者たちがあれこれと突っかかってきたり殴られそうになったが、私はひたすら相手にせず我慢したつもり。まぁそのせいもあって院長室に監禁状態だ。


その上珍しく院長がまるで私達を見張るかのように執務机に座り黙って仕事をしているので、私もリオンも話をしづらくジッとしているしかないのが辛い。一刻も早く文官様がお見えになってくれないかと心から願ってしまう。


「オランジュ、リオン、これからあなた達は王城へ行くことになります。そこで本当に能力があるのか確認をされ、その後能力を認められればここへ戻ってくることはないでしょう。ですから今のうちに一つだけ言っておきます。この先どんな辛い目に合おうとも必ず両足で踏ん張り乗り越えるのですよ」


「院長、それじゃまるで私達が辛い目に合うと決まってるみたいじゃないですか」


「姉さん、院長が折角話してくださっているのに黙って聞かなくちゃダメだよ」


「はぁ…。そうですね、道を踏み外さないようにと言うつもりでしたが二人なら大丈夫でしょう。これからも仲良く元気でやりなさい」


「は~い」


「姉さんってば」


つい気のない返事をしてしまったが、今までお世話になった恩は忘れてはいない。ただ急にあまりにもかしこまった言い方をされてちょっと照れてしまったのだ。

リオンに窘められたがけして院長を馬鹿にした訳では無い。自分でも素直じゃなかったのは認めるよ。


「院長、私も先にここで言わせてください。今までお世話になりました。本当にありがとうございます」


「ありがとうございました」


私が席を立ち深々とお辞儀をするとリオンも後に続く。やっぱり感謝の気持ちはちゃんと伝えないとね。


「無事に能力を認められることを願っています」


「「はい」」


返事をしたのは良いが私には一つだけ不安なことがある。本来なら各能力に目覚めるイベントが用意されていた。だから能力を認めるとか認めないなんてイベントはそもそも起こらなかった。


だからいったいこれからどこに連れて行かれ、どんな要求をされるのかまったく分からないので少々焦っている。


それにゲームでは文官様が迎えに来てくれたあとは文官様の上司に今後の話をされて生活場所が決まると、その後オープニングムービーが流れあっという間に入学日を迎えることになる。


そう、ホントあっという間にだ。


しかし今私達は十歳になったばかり、学園入学までまだ五年もある。その間にきっと本当に色んな教育を受けることになるのだろうが、ちゃんとやっていけるのだろうか。


別に私としては恋愛攻略をする気はないので学園入学なんてのはどうでもいいが、バッドエンドだけは避けたい。なのに知識の無い手探りの攻略は上手くいくのだろうか。考えれば考えるほど不安が募っていく。


「姉さん一緒に頑張ろうね」


リオンが私の手をギュッと握りしめる。きっとリオンも不安なのだろう。


「そうね」


私は一人じゃないと思い知らされる。そしてリオンのためにもこんな所で弱気になっている場合じゃないと改めて気合いを入れ直すのだった。



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