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私の推しはモブ文官  作者: 橘可憐


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48/53

失敗です


「はぁ、はぁ、はぁ…。ここまで来れば大丈夫かな」


ジェーン兄さんのこと上手く撒けたよね?


「でも…、ここどこだろう?」


ジェーン兄さんを撒くのに必死で方角なんて考えずに走ってた。人影は大分無くなったけど自分がどこにいるのかも分からないって…。

まぁ、街の外に出ない限りは街中だ。最悪誰かに聞くか誰かのあとを追っていけばどうにでもなるだろう。


それよりもここからはなるべく人目に付かない所を歩き、私を付け狙う悪いヤツが寄ってくるのを待てばいいんだよね。その間にきっとどこか分かる場所に行けるでしょう。


そう思い他の人が向かう方向とは別の場所を選び歩いて歩いて歩いてみたが、誰かに話しかけられることも無ければ襲われることも無く、ただただ時間だけが過ぎていった。


「私って本当に悪いヤツに狙われてるの? そもそもリオンの考えすぎとか勘違いだったかも知れないよね? あっ、それとも必死になって逃げたせいで悪いヤツらも撒いてしまったとか? なんだかそれもあり得る気がしてきた…」


このままじゃアデス様を陰謀から守る作戦は完全に失敗で、ただジェーン兄さんに迷惑をかけただけで終わってしまう。どうしよう…。


「いったいここはどこなのよぉ~! 悪いヤツさっさと出て来い!!」


以前街中で迷った時はロザリアが現れて、こんな所で攻略対象者と出会いイベントか!? なんてこともあったけれど、今日はみんな新年祭で浮かれているのか誰一人気に留めてくれる様子もない。


「はぁ…。師匠との待ち合わせに遅れる訳にはいかないし、リオンのお披露目イベントも見たいし、今日のところはもう諦めるしかないか」


「オランジュさん!」


「…!?」


「やっぱりオランジュさんじゃないですか。こんな所でいったい何をしてるんです?」


「ミックさん!!」


相変わらず気配も無く声を掛けてくるけれど、今回ばかりは地獄に仏とでも言おうかなんだかとってもホッとしたよ。


「この辺は屋台も出ませんよ。もしかして道に迷いましたか?」


まさかこんな所でミックさんに出会えるなんて本当に思ってもいなかった。なんという幸運だろう。でもどうしてここに居たかなんて説明もできないし、ここは多少誤魔化して話すしかないよね。


「えっと、そ、そうなんです。折角の新年祭一緒に楽しみたかったリオンは居ないし、ならば一人で楽しもうと思ってたらヘザー様が護衛を付けてくれたんですけど、人混みで逸れてしまって…」


嘘は言ってない。ただわざと撒いたんだけど、そこまで話す必要はないよね。


「それでどこへ行こうとしてたんですか?」


「夕方に教会前広場で師匠と待ち合わせしてるんですけど、それまでは屋台を楽しむ予定でした」


「教会前広場ですね。ではご一緒しましょう」


「えっ、そこまでしてくれなくてもいいですよ。道を教えてくれれば一人で大丈夫です」


「いいんです。私もちょうどそちらの方に用事がありますし、実は新年祭を誰かと歩くなど随分久しぶりなのでオランジュさんに同行していただけると私も楽しめる気がするんです」


「本当ですか? でもミックさんがそんなぼっち生活を送るような人には思えないですよ。見た目だって悪くないし優しいし気が利くし」


まぁ確かに普段は気配を消しまくっているから誰かに認識されること自体が少ないのかも知れないけど、それにしてもけしてモテないタイプだとは思えない。


だとしたらミックさん自信が出会いを拒んでいるのだろうか? 忘れられない初恋を胸にしまい続けているとか、大事な人を亡くし心に深い傷を負っているとか、永遠を誓った人と今は離れて生活しているとか、かなり妄想ネタを提供してくれるのはいいけど、なんにしても友達も居ないなんて本当に信じられないよ。


「ぼっち生活?」


「ぁぁ、えっと、ひとりぼっちの略で友達も居ない人って意味らしいですよ。だからそんな風には全然思えないって言ったんです」


「ハハハ、褒めてくれたってことですか? そう思っていただけるのは光栄ですが、新年祭を一緒に楽しんでくれる相手が居ないのは事実ですね。こんな話をしている間に大通りに出ましたよ。では改めまして、私とご一緒していただけますか?」


「あぁ、それはいいんですけど、逸れちゃったジェーン兄さんを探して謝らないといけなくて…」


悪者ホイホイ計画は完全に失敗に終わってしまった。今さらだけど罪悪感で一杯だよ。こんな事ならジェーン兄さんを撒くなんてバカなことをしなければ良かった。きっと心配させているだろうし多分多大な迷惑をかけたよね。


「ジェーン兄さんって護衛をしてくれていた方ですか?」


「そうなんです。なんだかヘザー様が学園の学生さんにわざわざ頼んでくれたらしくて、もしかしたら私と逸れたことをこの上ない失態なんて言って今頃切腹を考えていないか心配です」


「切腹?」


「いや、古文書でそんな話を読んだ影響です気にしないでください」


「それじゃ取り敢えず逸れた場所へ戻って探してみましょうか」


「逸れた場所ですか? そこは確かえっとぉ、肉の串焼き屋台が四軒ほどあってスープの屋台とフルーツの屋台もあって、それから何かの串焼き屋さんとおでんに似た屋台二軒ほど並んでる通りです。あっ、あと間に露店も結構あったんですけど、あんまり目を引く物がなかったんで何を売ってたか忘れてしまいました」


露店や屋台が並ぶ通りは結構あるらしいけど、その内容や数にはきっと違いがあるよね。だから今の説明で多分分かって貰える筈だよね?


「…取り敢えず中央広場の方へ向かってみましょう。きっとその辺で出会えるんじゃないでしょうか」


「なんだかすみません」


分かっては貰えなかったみたいだ…。でもそう言えば中央広場に場所取りに行こうと話してたから、そうねきっと中央広場辺りで私を探しているかも。


そうしてミックさんと二人中央広場を目指し、今回は屋台も露店も覗くことなく歩いた。


「あっ、オランジュさん! 良かったぁ~、他を探しに行こうかどうしようか迷ってたんです。でもここへ場所取りに来ると言っていたし、下手に探しに行って行き違いになるよりはと待っていて正解でした」


「ご、ごめんなさい!」


本当に本当にごめんなさい。大変ご迷惑をおかけしました。


「いいんですよ。それにオランジュさんは何があったとしても慌てず騒がず最終的にオランジュさんの身に何もなければ問題なしって気分でいて欲しいと言ってたじゃないですか。こうして何事もなく再会できたのですから問題ないですよね」


「そう思って貰えるのなら安心しました」


切腹騒ぎになってたらどうしようかって本当に不安だったんだよ。ジェーン兄さんもだいぶ砕けてくれたようで取り敢えず安心だ。


「それでどうします? もう場所取りは完全に無理なようですよ」


「そうだ! こちらはミックさんと言って研究所で一緒に働いている人なんです。迷っていたら偶然会ってここまで連れてきて貰ったんですけど、教会前広場まで一緒に行動することになりました。良いですよね?」


「僕は構いませんよ。ジェーンです。よろしくお願いします」


「ミックです」


「それじゃ約束の時間までまだあるし、折角だからもう少し楽しみましょう」


そうして今度は三人で大通りに並ぶ屋台を覗いて歩くのだった。



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