新年祭です1
「本当に俺が一緒に行かなくていいのか?」
「だからぁ、師匠が一緒だとつい師匠に甘えちゃうでしょう。私は自由気ままに一人で歩き回りたいんです。それに今日はリオンが居ないんだから師匠がヘザー様のエスコート係なんですよ。しっかり普段できない親孝行をしてください」
朝から師匠が私に付いて回ると何度も主張してくるが、そんなことされたら困るよホント。頃合いを見て人混みでお付きの人達を撒く予定でいるのに、師匠が一緒だと予定が狂う可能性が出てくるよね。
だって師匠と一緒に出歩くのは結構楽しいし、それに師匠を撒くのはとっても罪悪感が伴うと思うんだ。多分かなり心配してくれるだろうし。
じゃぁお付きの人達はいいのかって話になるけど、仕事の一環だと思って我慢して貰うしかないというか、きっと師匠のようには本気で心配はしないと思うからその辺は考えないことにする。
「はぁ…。俺は親孝行よりおまえの方が心配なんだが仕方ないな。待ち合わせ場所は分かってるな?」
「夕方までに教会前広場ね。大丈夫忘れてないよ」
ヘザー様も教会の炊き出しを手伝うそうで、それならばリオンのお披露目イベントを一緒に見守ろうという話になった。
リオンのお披露目イベントは夕刻黄昏時に行なうそうで、炊き出し中に重病者や重傷者を募り、リオンに癒やしの能力を使わせその力の程を確認すると言うか、聖者としての力を広く認めさせお披露目する予定らしい。
少なくともサクラを仕込んだヤラセイベントではないのは確かだが、リオンはいまだに癒やしの能力を使ったことがないらしいから、ぶっつけ本番で大丈夫なのかが心配だ。
「しかし本当に心配だ。リオンも一緒じゃないんだぞ。おまえ一人じゃ何をしでかすか不安で仕方ない」
「ただ露店や屋台を見て回るだけなのに何が心配なんですか。まったく私をなんだと思ってるんです。それにお屋敷の使用人が付いてくるんですから一人とは言いませんよね。それとも本当に一人で出かけてもいいんですか?」
「今日は使用人達も忙しい。護衛を一人付けるだけに留めるつもりだ」
なるほどなるほど、新年祭ともなればやはり使用人さん達もそりゃぁ忙しいよね。でも護衛ってちょっと仰々し過ぎないか。
「護衛が付いて来たらまるで私がどこかの貴族がお忍びで出歩いてるみたいじゃないですか。それって返って危ない気がするよ。一般市民は護衛なんて必要無いんですからね」
「そりゃぁそうだが、おふくろの判断だ。おまえも親孝行のつもりで我慢するんだな」
もうホント余計なことをしてくれるよね。使用人さん達なら撒くのも簡単だろうけど護衛ってそう簡単に撒けるかな。もうっ、悪者ホイホイ作戦失敗したらどうする気よ。困ったわ。でも、まぁ、なる様になるか。ってか絶対に成功させなくちゃね。
「それじゃそろそろ出かけますね」
「ちょっと待て、その前に一緒に出かける護衛を紹介しておく。ジェーン入れ」
「失礼します」
師匠の呼びかけでリビングに入ってきた一人の青年に一瞬見惚れてしまう。金髪で青い目のちょっとしたイケメン。そして何より鍛え抜かれた雰囲気を醸し出すそのスタイル。けしてマッチョすぎないのに姿勢が仕草ができる人そのものって感じ。時代劇で言うなら相当腕の立つ武士を思わせる。
「オランジュ、彼は今日おまえの護衛をするジェーンだ。ジェーンよろしく頼む」
「はい」
一応TPOを考えたのか平民を装ってはいるが、多分きっと間違いなくどこかの貴族のご子息だよねって感じ。身分の低い貴族の三男以下で騎士になるしかなかったみたいなそんなところかな。
余計なことは言わないのに一々仕草が物語っているというか、まだ年若い感じなのに堅いというか。師匠に服従してますって全身で言ってるようだ。
これはヤバい。万が一人混みで撒いたとしら、下手したら責任をとって切腹しますなんて騒ぎ出したりしないよね。ちょっと違う意味で心配になってくるよ。
「よ、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「いやいやいや、私にまで頭を下げる必要無いよ。私はただの孤児の平民だからね。ホントそんな堅苦しくすることないから」
「ヘザー様直々の任命。しっかりと役目を果たさせていただきます」
任命ってそんな大げさな。いったい何を任命されちゃったのか知らないけど、これってますます師匠と一緒に出歩くよりヤバいかも知れないよね。
「折角の新年祭なんだからそんな堅苦しいのはやめようよ。もっと楽にしてくれないと私が楽しめないから困るわ。それに何かがあったとしても慌てず騒がずよ。最終的に私の身に何もなければ問題なしって気分でいてくれないとホント困るのよ」
「何が困るんだ? まさかおまえ何か企んでるのか」
「そんな訳ないでしょう。いったい私が何を企むって言うのよ。私はただ初めての一人で出かける新年祭を楽しみたいだけよ。ホントよ、本当にそれだけよ」
「なんだかますます怪しいな。まぁしかし、ジェーンそういう事らしいから気負わずに頼むな」
「はい」
どうせなら女性騎士を護衛にしてくれれば良かったのに…。でもこの先の計画を考えたらやはりそれはそれで面倒だったか?
まぁなんにしてもアデス様を陰謀から守る為なら少々の罪悪感も迷惑も考えないことにする。今はっきりそう決めたから。ジェーン今のうちに心から謝っておくね。
「きっと迷惑をかけると思うけど本当にごめんなさい」
「いえ、迷惑など」
「やっぱりおまえ何か企んでるだろう! 今のうちに白状しろ」
「だから、何も企んでないですってば。ジェーンさん、師匠なんて放っておいて出かけるわよ。さっさと行きましょう」
「おい、待てオランジュ。まだ話は終わってない」
師匠の呼び止める声をバックにおもいっきり駆け出し屋敷の外を目指すのだった。




