プロローグ4
「リオン、あなたには癒やしの能力が与えられました」
前世の記憶が戻らなかったリオンには古代文字である日本語は当然理解できていない。なので自分が何を選択したのかも理解できなかっただろうリオンに説明する。
「癒やしの能力って先代の聖女様が持っていたというあの能力?」
「そう、その能力」
五年前に亡くなった先代の聖女様は癒やしの能力を持っていたとされていた。
この世界には勿論回復魔法も存在するが、それは疲れをとるとか傷の治りを早めるとか所謂基礎代謝を上げ自然治癒力を高める程度のものだった。
しかし先代の聖女様は病気も癒やし骨折さえも治してしまう奇跡の治癒力を持っていたらしい。
らしいというのは実際に聖女様の奇跡の治癒を受けられるのは極一部の高貴な方々のみだったので、一般の庶民は噂を聞くだけで実際にその実力を目にした者はいないからだ。
しかしゲーム内では王様の病気を快癒させるイベントがあったので、実際に病気を治せるというのは本当の話だろう。
「意味分かんないんだけど?」
「その古文書を開くと特別な能力を手に入れられるのよ」
「どうしてそんな古文書を姉さんが持ってるんだよ」
「それな。詳しい話は夜にでもゆっくりするから仕事を終わらせてしまいましょう」
サボっているのをそろそろ誰かに見とがめられるかもと気づき、私は取り敢えずこの場から撤退することにしリオンを解放する。
叱られてご飯抜きにでもなったら目も当てられない。さっき廊下を走っているのを見つかったのがモネ姉さんだったから良いけど、別の人だったら下手したら折檻ものだ。
確かめたいことは確かめられた。それに不可抗力とは言えリオンは無事(?)癒やしの能力を得ることができた。
これで少なくともリオンがこの先モブ扱いとなり、どこで何をしているのか分からなくなるという事はなくなる。取り敢えずは一安心だ。
それよりも問題は私はどの能力を得たらいいかだ。当然だがさっきリオンが選んだ癒やしの能力はグレーの文字となり選択不可となってしまっている。
もっともどの能力もとても貴重な能力で、尚且つ同じ能力を持つ者が同時代に被ることはないとされていることから王家が庇護しその身柄は責任ある組織や公的機関や貴族に預けられることになる。
要するに予見に癒やしに聖属性魔法と闇属性魔法、そして知識の能力は世界中探してもただ一人しか持たない能力だった。
それ故に孤児である私でもこの先国が設立した学校を卒業し正式に職に就くまで生活に困ることもなく教育を受けられる。そういう意味ではここでの能力の選択次第でこの先色々と変わってくる。
これがゲームの中ならば学園生活の間だけの話で言わば何度でもやり直しの利くただのストーリーだが、考えなくてはならないのはこの世界が現実となった今はこれから先ずっとリセットもできない一生の問題になると言うこと。
残るは予見と聖属性魔法と闇属性魔法と知識の四つだが、はてさていったいどの能力を選んだら良いか…。
攻略したい対象者は文官様ただ一人なのでここは自由度の高い知識を選択すべきなのだろうが、考えてみればどれもこれも持っていればとても便利な能力なので貰えるものなら残りすべての能力が欲しい。欲張りすぎだろうか?
「う~ん…」
「こらっ、オランジュ! おまえはそんなところでまたサボってるのかい!!」
院長室の掃除に戻ろうと廊下を歩いているといきなり後ろから大声で叫ばれ、私は慌ててずっこけるようにして両手を前に突き出していた。
「……」
リオンだけでなく私まで不可抗力で能力選択ウインドウに触れてしまっていた。あれほどあれこれと考え抜き慎重に決めようとしていたというのに。
《能力を与えます》
「…ちょっと待って。いったいどの能力が与えられるのよ!」
どの能力が与えられたのかの表示がないままウインドウが光り、そして私の体が光りだすのを確認しながら私は思わず叫んでいた。
なんだかさっきのリオンの時より光が強いように感じるのは気のせいだろうか?
「なんだい。なんだい。いったいどうしたと言うんだい…」
孤児院にいる孤児達の間では意地悪オババと呼ばれているアンジュが私のそばまで来て狼狽えている。なんだかその狼狽えぶりが可笑しくて自分がなんの能力を得たのかなどすっかりどうでも良くなってしまうのだった。
明日からは作者の都合上しばらく9:00と21:00の一日二回の更新を目指していきます。




