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私の推しはモブ文官  作者: 橘可憐


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38/53

おやめくださいです


「オランジュの作るお菓子が待ちきれずに訪ねて来てしまいました。突然の訪問をどうぞお許しください」


驚いたことにアデス様がヘザー様のお屋敷にやって来た。


約束のない突然の訪問は珍しいらしく師匠は驚いていたがヘザー様はたいそう喜び、応接室では今リオンと師匠を含めた男三人とヘザー様で大賑わい中。できることなら私も話しに混ざりたい。


しかしアデス様は私の作るお菓子を所望しており、そこまで期待されたならしっかりと応えなければいけないだろう。


「気合いを入れて作るわよ!」


屋敷の厨房を借りられた上に材料まで提供してくれるという大盤振る舞い。その上料理人さん達も手を貸してくれると張り切っているので私のやる気はMAX、気合いも十分だ。


正直調理人さん達の手を借りるほどのことでもないし寧ろ邪魔な気がしないでもないが、手を貸してくれるという申し出を断るのは申し訳なかったので仕方ない。


それに今日はわざわざアデス様が出向いてくれたのだから、日持ちのするお菓子じゃ無くても良いというのも作り甲斐がある。作って作って作りまくり、おもてなしするわよ。


「さてさてどんな材料があるのかしら」


厨房と食材庫を確認していく。基本の材料は勿論ふんだんに幅広く揃えられ、ハーブ類も申し分ない。


「あっ、シナモンがある」


食材庫の隅にひっそりとしまわれたシナモンを見つけ、まずはアップルパイを作ると決める。


「確かフルーツもふんだんに揃ってたよね。ドライフルーツにしてパウンドケーキもいいかも。あとこの前考えていたクレープにプリンも作ろう。フッフッフ、腕が鳴るわね」


果物とホイップクリームを包んだスイーツ系クレープもいいけど、野菜やハムやチーズを包んだ軽食系のクレープはお菓子に興味のないアデス様でもきっと喜んでくれるだろう。


それと今回作るプリンは甘さを控えた正統派の固めのプリン。今日のところは甘さよりお腹を満たせる感じにしよう。なんと言っても男子率が高いからリオンも師匠もきっと喜んでくれるだろう。


あとそうだ、明日研究所に持って行く分にスライスアーモンドをたっぷり乗せたサクサクパイも作ろう。多分パイなんて知らないだろうし、きっとみんな驚くよね。


そうして私は調理人さん達に手伝って貰うと言うより作り方を教えながら一品一品作り上げていく。

勿論できあがった物は順に応接室へと運ばれみんなに振る舞われている。

その反応をまだ直に見ていないが、戻ってきた侍女にたいそう喜んでいると聞けばさらに気合いが入る。


そうして予定していた全品を作り上げ、サクサクパイは明日研究所に持って行く分を箱詰めにし、残りをお皿にのせて自分で応接室へと届けることにした。みんなの反応が楽しみ。


調理人さん達は自分達で作った分を使用人達と分け合い美味しいと喜んでいる。反応は十分。みんなの幸せそうな笑顔が見られて私も嬉しい。


「失礼します。これが最後の品になります」


「オランジュ、どれもこれも美味しいわ。もうお腹いっぱいなのに手が止まらなくて困ってますよ」


「ヘザー様に喜んでいただけて光栄です」


「本当に美味しいよ姉さん。こんなレシピどこで覚えたの?」


「これはどれも前世で私が作っていたものよ」


「それはたいそう興味深い。古代はお菓子が充実していたのですね」


「こんなものじゃないですよ。スイーツと呼ばれるお菓子はまだまだ沢山あって、私は自分で作るより買って食べてた方が多いんです」


「なんと…」


この世界のお菓子事情は詳しく知らないけれど、少なくとも平民はあめ玉で喜ぶ程度なのだからきっとあまり充実していないのだろう。スイーツもいいけど駄菓子やスナック菓子が懐かしい。あればかりは自分で作れないからね。


「それでアデス、おまえはいったい何を企んでいるのかそろそろ話す気になったか?」


「師匠ってばまだそんなことを言ってるんですか。私の作ったお菓子に興味があると言ってくれてるんですからそれで良いじゃないですか」


他にどんな理由があったとしても私がそう信じている限りそれがアデス様の本心なんだからそれで良いじゃないか。わざわざ事実をほじくり返して夢をぶち壊すのはやめて欲しいよね。


「フン、コイツが純粋に菓子に興味があって喜んでると信じられるおまえが羨ましい。コイツはそんなヤツじゃないとそろそろ知るがいい」


「フフッ、ジャッジには敵いませんね。正直に話しましょう。城の調理人達が日々菓子のレシピに頭を悩ませているからどうにかして欲しいと秘書にせっつかれたのもあるのですが、実はですね」


「なんだなんだ、そんなに真剣な顔をするな。そこから先を聞いてはいけない気がしてくるだろう。ヤバい話なら俺は退散するぞ。厄介ごとはごめんだ」


さっきまでにこやかだったアデス様が急に真剣な顔になったことで師匠が何かを察したようだ。いきなり席を立ったのには驚いたけど、師匠とアデス様の長い付き合いなら失礼にもならないのだろう。アデス様も師匠を止める様子はない。


「そうですね。なにやらそこから先はオランジュと二人で話す方がいいようですね。リオン、私達も退出しましょうか」


「はい、ヘザー様。食後の運動に少し庭でも散策しましょう。お伴いたします」


気付くとあっという間にみんな応接室から退出し、アデス様と二人きりにされていた。

ふ、二人きりだよ。二人っきり!


意識したら途端に緊張してきた。なにしろアデス様と二人っきりになるなんて初めてで、これから私はどうしたらいいのでしょう。や、ヤバい。妄想が、止まらない…。


「オランジュ」


いやぁ~、そんな真剣な眼差しで見詰めないでくださいぃ~。血圧急上昇。心臓バクバク。鼻血を噴出してしまいそうですぅ。あぁぁ、いけません、おやめくださいませぇ…。


めくるめく妄想で頭も心もいっぱいなオランジュは、これからアデスがどんな話をするかなど考えも及ばないのだった。



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