プレゼント
「姉さんは最近何してるの?」
週末師匠とヘザー様のお屋敷に帰ると何もかもが慣れないことばかりですっかり疲れてしまい、リオンに会えるのが楽しみで話したいことも山ほどあった筈なのに、何故かなんだか上手く話す事もできずにいるとそんな私にリオンは気遣うように話しかけてきた。
「そうねぇ、農地改良の古文書を翻訳しながらまとめてる感じ。飢饉対策のためよ」
「じゃぁ姉さんは忙しいから無理かぁ…」
「何よ。何かあるんなら遠慮なく言いなさいよ。進む道が別々になったからって隠し事は無しよ。そんな風にされたら寂しいじゃない」
今までのリオンだったらこんなもったいつけた言い方はしなかったのに、何か余程言い出しづらいことでもあるのだろうか。
それともたとえ姉であっても話せないような秘密を抱えるようになったのだろうか。
一緒に居る時間がどんどん短くなっているけど、それでも今までと変わらない絆で繋がっていると信じていたのにそれすらも変わってしまうのだろうか。
なんだか段々とリオンが遠ざかっていくようで嫌だ。
「ヘザー様に何かお礼がしたいなって考えてたんだ」
「お礼?」
「そう、僕たちの後ろ盾になってくれただけじゃなく、こうしてお屋敷で面倒見てくれてるでしょう。だから僕、何かお礼ができないかなって思ったんだ。それにね、毎日とても楽しい話を聞かせてくれるんだよ。僕、今までこんなに楽しい時間を与えられたのは初めてで、嬉しくて、その気持ちを伝えられたら良いなって考えたんだけど、何をしたら良いか僕じゃ上手く思いつかなくて、姉さんなら何か素敵なことを考えてくれるんじゃないかって思ったんだ」
ヘザー様にお礼をしようだなんてまったく考えてもいなかった。姉として、いや、人間として恥ずかしい。
でもそれ以上にリオンにとって今まではそんなに楽しい時間じゃなかったのだと知りちょっとショックだ。
確かに孤児院生活は貧しかったし色々あったけど、私はリオンと一緒ならいつでも楽しかったのに、リオンはけしてそうは感じていなかったのだろう。
もしかして私と離れられたことを喜んではいないよね? もしそうだったとしたら私は立ち直れないよ。
「今までの生活は楽しくなかったの?」
「そうだね。姉さんと一緒に居るのはいつだって楽しかったけど、いつも誰かに何かを求められてばかりだったでしょう。だからヘザー様から感じる無償の愛に報いたいって思ってしまうんだ。いけないことかな?」
「いけなくはないけど…」
確かに孤児院では食べさせてやってるんだから当然とばかりに扱われていた。それにリオンは私とは違い孤児と聞いて哀れむ人達にかなり無理して愛想笑いを浮かべていたりしたと思う。
リオンにとってそんな生活がそれ程までに苦痛だったとは今まで考えてもいなかった。リオンの抱える本心に気付いてやることもできないなんて本当に姉として失格だ。
「姉さん大丈夫だよ。僕、一人でも何かできないかもう少し考えてみるから」
「何言ってるのよ、一緒に考えよう。そうね、きっと手作りの物が良いよね。ヘザー様が喜んでくれそうなもので何か…」
「ヘザー様が喜んでくれそうなもの?」
「うん、でも、私はヘザー様の好みなんて知らないし、リオンは何か思いつくものはない?」
きっとヘザー様なら何を送っても喜んでくれるだろう。それがたとえその辺で適当に選んで買ってきた物でも自分の事を考えてくれたのが嬉しいとか言いながら。
でもリオンが考えているのはそういう物じゃないのだと私には分かる。だからヘザー様が心から喜んでくれてリオンが満足できる何かを考えなくてはダメだろう。
「そう言えば最近は気分が落ち着かない事が多いって嘆いてた。イライラしたり不安になったりするんだって。それに僕と話していても急に汗をかいたりすることもあるから、そうだハンカチなんてどうかな」
リオン、多分それはきっと更年期障害だね。だとしたらハンカチよりももっと良い物を思いついたよ。
「ハンカチも良いと思うけどポプリを作ろう」
「ポプリ?」
「香りの良い花びらや果物の皮なんかを乾燥させて作る匂い袋だよ」
エッセンシャルオイルやアロマオイルの作り方は知らないけど、生前小学生の時に一度花びらを乾燥させて作ったことがあるから作り方なら大丈夫知っている。
それに更年期障害には確かラベンダーやローズやオレンジの香りが良いって聞いたことがある。材料もきっと手に入る筈。
「それ良いね」
「明日さっそく材料を探しに行ってみよう」
「なんだか楽しくなってきた。ヘザー様きっと喜んでくれるよね」
そうして私達は翌日材料を探しに二人だけで街へ出ようとして執事に反対され、仕方なく事情を話すとその材料の殆どは屋敷内にある物で揃ってしまった。
ヘザー様のお屋敷は庭も広く温室もあり色んな花々が咲き誇り、ハーブなどの香辛料も育てられていて本当に驚きだった。今度じっくり庭園を散歩させて貰おう。
そして揃った材料をちょっとズルをして魔法を使って早急に乾燥させ、手作りした袋に詰め込んで仕上げにリオンの癒やしの魔法をちょっとプラスしてさっそくヘザー様にプレゼントした。
勿論ヘザー様はたいそう喜んでくれた。そしてリオンの心からの笑顔も見られ、私も大満足の週末となったのだった。




