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私の推しはモブ文官  作者: 橘可憐


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事件です2


「オランジュ、久しぶりですね。元気そうで何よりです」


アデス様の神々しい笑顔が全身を潤していく。それに久しぶりに直接聞いたアデス様の声も心に響く。やっぱりコミック誌を読んでいて脳内に響いてくる声とは訳が違う。なんだか耳までジンジンしてる。


「本日は急な訪問に応じていただきありがとうございます」


オリヴィア様に教わった淑女的姿勢を保ち教わったとおりの精一杯かしこまった挨拶をしてみた。勿論服は師匠が約束どおり用意してくれた衣装のようなドレスなので緊張MAXで体中ガチガチです。


限りなく質素な感じにとお願いしたにも関わらず、レースがふんだんに使われた淡いピンクの超お高そうな可愛い系のドレス。私の人生でこんなドレスを着る日が来るなど誰が考えただろうか。


それもこれがオーダーメイドというのも驚きだ。研究室まで採寸に来たんだよ、服屋のなんだかとても偉そうな人が。こんな素敵なドレスをポンと私にプレゼントできてしまう師匠って本当に何者なのだろう。


「そのドレスもとても似合っていていつも以上に可愛いですよ」


「あ、ありがとうございます」


私ってばさっきからありがとうしか言えていない気がする。折角久しぶりにアデス様に会えたというのに。


「コレが約束のレポートだ。なかなか素晴らしい内容に仕上がっている。まぁ実際に読んで確認してみてくれ」


「お預かりします。それよりも座りましょうか、私の方からも少し話もありますし」


私は促されるままに師匠と並んでソファーに座る。師匠が隣に居るのがなんだかとても心強い。


「領地視察に出てたんだって? おまえがわざわざ出向かなくちゃならないほど大変な問題でも起きてるのか?」


「予見の能力者の情報を集めながらですから寧ろ自分で行きたかったので丁度いい命令でした」


「ああ、いつもの嫌がらせか」


「師匠この話って私が聞いても良いものですか」


アデス様と師匠のやり取りがあまりにも自然なのでつい聞いてしまっていたが、なんだか愚痴も入るし政治的話みたいなのでちょっと心配になる。


「大丈夫だ。それに多分おまえにも関係のある話だと思うぞ」


「そうなんですか?」


「そう言えばジャッジは回りくどいのは嫌いでしたね。では本題に入らせていただきましょう」


アデス様の改まったキリリとした表情もまたとても素敵です。なんて考えている雰囲気ではないのを察し私は慌てて姿勢を正す。

いったい今からどんな話をされるのだろう? 魔法に関してのレポートのお礼の話ではなさそうだよね。


「オランジュ誤解せずに聞いてください、知識の能力者も聖属性魔法の能力者も闇属性魔法の能力者も実は帝国に存在しているのです」


「えっ、それって」


「私はオランジュが偽物だとか何かを企んだ詐欺師だとも考えてはいません。しかし私の上司は既にオランジュに興味を無くしています。ですが、これは逆に言えばオランジュにとっては良いことだと思うのです。国に利用されること無くこの先も研究所で心置きなく好きなだけ古文書の解読に従事して貰えます。しかし問題は学園の入学です。リオン君はこのまま学園に入学する運びになるでしょうが、オランジュは諦めてください」


「どうしてですか?」


「これは私の判断ですが、帝国に存在するとされる能力者と同じ能力を持つことは既に絶対に口外できません。そうなると別に何か特別な、例えば奇跡の能力を使えるとか知能が高いと言う証明が必要になります。しかしオランジュの能力はまだ誰に知られる訳にもいきません。無理に特待生として捻じ込むことは簡単ですが、そうなるといらぬ興味を抱かれ詮索されることになり危険が増えると私は考えます。ならば学園で学ぶことは研究所でも教えることができますし、このまま研究所内に留まっていただいた方が安全で有益だと考えたのですがいかがでしょう」


要するに私が古文書を読めるのも魔法が使えるのもまだ誰にも知られない方が良いってこと?

しかしそうなると学園へ入学できる理由が発生しないから学園入学は諦めろって解釈で良いんだよね。


確かにただの平民の孤児が何の能力も無いのに特待生になんてなったら誰もがみんなあれこれ詮索するよね。うん、それは本当に面倒そうだ。


でも待って、そうなるとリオンだけが学園へ入学することになり、このゲームのストーリーは主人公をリオンにして進んで行くってことになるの?

私の立場はいったいどうなるんだ?


あの時先に癒やしの能力を選択したリオンだけが主人公に選定されていて、実は私がリオンのおまけで本来ならモブになってたってことなのだろうか。


だから私がなんの能力を得たのか定かにされなかったのだろうか?

だって能力者が被ることはないとされているのに、知識の能力者も聖属性魔法と闇属性魔法の能力者も帝国に存在するのなら私の能力は違うってことだよね。


それにもしかしたら私にゲーム知識があって、能力について知っていたから魔法を使って発現できてしまっただけなのかも知れない。


でもそうなると、あの時選択肢にあったのはどうしてだ? あの時は確かに選べるようになっていたよ。それは絶対だ。う~ん、全然まったく分からない。


あれっ、でも、考えてみたら別にそれならそれで寧ろ私には都合が良いんじゃない?

だってゲームのストーリーには元々興味なかったし、このまま研究所には置いて貰えるみたいだし、何よりアデス様のお力になれるチャンスが増えるってことだものね。


しかしそうなると学園入学と共にリオンとは離れることになってしまう。何しろリオンは学園で寮生活になるだろうし、私はきっとこのまま研究所の宿舎生活だ。


それはちょっと、いや、だいぶ寂しいかも知れない。一人暮らしって前世でも経験したことがないから自信が無いよ。それにこの先リオンがバッドエンドに陥ることがないか心配だし。


「学園の入学に関してはどうでもいいのですが、私は今までずっとリオンと一緒だったので一人暮らしの自信がありません」


「では以前提案したように私の屋敷で暮らしますか?」


「えっとぉ、それはちょっと…」


またまた浮上するアデス様のお屋敷での同棲生活、いや、同棲と言うより居候か。まぁどちらにしてもそれはやっぱりどう考えてもストレスが多くなる。


たまにお屋敷を訪ねる程度なら脳内変換でどうとでもなるだろうが、常時発動してたら能力が上がる前に神経がすり切れるかも知れない。


「じゃぁ俺の屋敷で預かる。今でも俺が無理矢理弟子として仕込んでいると言う設定にしてあるんだ。その方が都合が良いだろう。それに今は自分の研究にしか興味の無い研究員達がいずれオランジュの能力に気付きだしても誤魔化しようがあるしな。オランジュ、おまえも大人しくそれで納得しておけ」


師匠にバンと叩かれた背中がちょっと痛い。でもなんだかそれで良いかもと思えてしまうから不思議だ。

それに師匠が私を弟子にしようと拘ったのは私を守る為の設定だったのだと知りちょっと感動してる。


リオンと離ればなれになるのは辛いけど、ずっと一緒に居られないのは確かなんだから慣れておく必要もあるよね。


「でも師匠、すぐにって訳じゃないですよね。今はまだリオンと一緒が良いです」


「勿論だ。弟もまとめて俺の屋敷で面倒見るから安心しろ」


なんだか流されるように師匠の家に厄介になることが決まったけど戸惑っている暇も無い。ホント不思議だ。



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