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私の推しはモブ文官  作者: 橘可憐


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27/29

事件です1


「教会で何かあった?」


「うん、ちょっとした騒ぎがあって早いけど戻ってきた」


宿舎に戻ると珍しくリオンの方が先に帰っていたので挨拶代わりになんとなく尋ねたのだ。


「どんな騒ぎがあったのかもっと詳しく教えてよ。それとも何か言えないような事件?」


「プロトが攫われそうになったんだ。でもたまたま僕がその場に居合わせたから上手く追い払えたけど。でもプロトに僕が魔法が使えるってバレちゃってどうしようかなって考えてたんだ。一応プロトには黙っててって言ってあるけどね」


ちょっと待って、随分と平気そうに話してるけどそれって本当に大事件じゃない。でもここで私が慌てても何の解決にもならないね。もっとちゃんと冷静に話を聞くべきだよね。


「リオンが魔法を使ってプロトを守ったってこと?」


「そうだよ」


「どんな魔法を使ったのよ」


まさか教会内で派手な攻撃魔法なんて使ってないよね。いくらプロトを守る為って言ってもそんなことしたらリオンが魔法を使えるって大々的に知らせるようなものだし、そうなったらまた他に厄介な騒動が起きてしまうかも知れないじゃない。


「姉さんが教えてくれた結界の魔法を使ってみたら案外上手くいったんだ。それで相手が動揺している間に二人で騒いで助けを呼んだ。だからあの結界魔法は僕とプロトとプロトを襲ったヤツしか知らないから姉さんが心配するような騒ぎにはならないと思う」


「良かったぁ。でも私が心配してるような騒ぎってリオンはまるで私の心が読めるみたいなことを言うよね」


「姉さんが考えることなら僕にだって分かるよ」


「それもそうね」


しかしそれにしてもプロトはいったい誰に何故襲われたのだろうか?

プロトにそんなサイドストーリーがあったなんて全然知らなかった。何しろ癒やしの能力を得て教会に囲われるとオープニングムービーが流れ、プロトと既に出会っていると言う設定で一緒に学園の入学を迎えてたからね。

そして事前に知り合っているのに親密度はそのあと出会う人達と変わらないというありがち設定だったし。


「それで姉さんに相談があるんだけど良いかな?」


「なによ改まって」


「プロトにも姉さんから教わった魔力循環や魔力操作の方法を教えても良いかな?」


「えっ…」


別に魔法に関してのレポートは仕上げたし、いずれアデス様がそれを使って何かするのだろうから問題は無いとは思うけど、でも何かが心に引っかかる。


「姉さんとの魔法習得訓練に参加させようとは思っていないよ。ただね、プロトも今から練習していればきっと回復魔法を十分に使えるようになると思うんだ。それにまたプロトが襲われるかも知れないだろう。だからプロトにも結界魔法くらい使えるようになって貰えたらなって思ったんだよ。ダメかな?」


ダメかななんて聞かれたらダメとは言えないよ。だって反対する理由なんて見つからないもの。だけどなんだか二人だけの秘密が秘密じゃなくなるみたいでちょっと寂しい。


「良いんじゃない。でもリオンちゃんと教えられるの?」


「あまり自信ないけどやってみる。それとも姉さんがプロトに教えてくれる?」


いやいやいや、自分から攻略対象者に出会いに行くなんてしたくないよ。それにまた何か強制的なイベント発動されても困るし。


「やめとくよ。それより何でプロトが襲われたんだろうね」


「癒やしの能力者だと勘違いされたみたいだよ」


「えぇぇーー。それって」


「本当だったら僕が襲われてたかもね。でも僕はまだ教会で癒やしの能力を発現させてないから教会も疑ってるのか僕をあまり重要視してないんだよ。だから回復能力を使えるプロトが癒やしの能力者だと勘違いされたんだと思う」


「それって大丈夫なの」


リオンの口ぶりだとわざと癒やしの能力を発現させないでいるみたいだし、今回こんな騒ぎがあって教会もけして安全じゃないって分かったのに、このままリオンを教会に預けていて大丈夫なのか不安だよ。


それにゲームではなかったイベントの予測なんてできないし、私がずっとリオンに付いていられないのももどかしい。


「大丈夫心配しないで。僕は姉さんのお陰で自分の身は自分で守れるから。それより僕は僕の身代わりになったプロトが心配なんだ。だからプロトにも少し力を付けて貰いたい。それに教会も今回の件で少しは危機感を持ったみたいで、国に歩み寄り警備強化を図る方向で動き出すみたいだよ。もしかしたら姉さんの大好きなアデス様がまた忙しくなるかもね」


「……」


リオンがなんだかスゴく難しい政治的話を口にしたことに驚いた。だってまだ十歳だよ。もうすぐ十一になるけど、でもまだ子共だよ。


今まで孤児院で暢気に読み書き計算程度の教育しか受けていない子共が口にする内容じゃないよ。前世の記憶が戻った私にだってそこまで考えが及ぶか分からないのに。


「僕だって毎日部屋に籠もってただ祈ってるだけじゃないよ。姉さんを見習って少しは勉強してるんだ」


「そうなの…。っていうか、わ、私は別にアデス様が大好きな訳じゃないからね」


「姉さん、隠してもバレバレだよ。僕はあの時とてもショックだったんだからね」


「あ、あの時って?」


「アデス様に初めて会ったときの姉さんったら見ていられなかったよ。一目惚れってやつだったの?」


「そうなのかな…。でも好きの意味が違うから。そこは勘違いしないで」


「分かってるって、僕は別に姉さんの邪魔はしないから安心して」


「アデス様は恋愛感情とは違うの。私の癒やしで潤いで活力なの。リオンが私の支えなのと同じようにただ必要なだけなのよ。お願い本当に勘違いしないで」


「だから分かってるってば」


なんだか言えば言うほど言い訳のように聞こえてしまう状況に、私はリオンに敗北宣言するしかないのだった。



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