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私の推しはモブ文官  作者: 橘可憐


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研究所生活4


「オランジュ、どうだ頑張ってるか?」


「あっ、トールさん、またサボりに来たんですか」


「サボりじゃねぇよ。気分転換だ。おっ、ガイウスおまえも来てたのか」


「……」


「なんだなんだ、相変わらず辛気くせえな。ちょっとそこの席譲れ、俺はオランジュに用がある」


アデス様はなんと領地視察に出かけていてもうしばらく戻らないと師匠から聞き落ち込んでいたら、なんだか知らないうちに師匠の研究室が休憩所のようになっていた。


師匠とスケートボードの開発を手がけているトールさんだけでなく、いつも私の手作りあめ玉を喜んで真っ先に食べてくれるガイウスさんや、他にも清掃職員のミックさんなど入れ替わり立ち替わり訪れるのでなかなか賑やかに過ごしている。それこそアデス様を思い出し傷心に浸る暇も無いほどに。


「ちょっとトールさんガイウスさんに失礼ですよその態度。ガイウスさんだって私に用があってきてるんです、邪魔だと思うならトールさんが遠慮してください」


ガイウスさんも最近古文書(特に漫画本)に興味を持ったらしく、描かれている生活道具がどんな物なのかをしきりに聞いてくる。指差し確認って感じで。


「相変わらず手厳しいな。まぁいい、それより茶菓子を持ってきたんだがそれでも俺を追い出す気か?」


「やだなトールさんってば。それを早く言ってくださいよ」


私はスフィンクスポーズを解除し起き上がると空いた席をポンポンと手で叩きトールさんにそこに座るように促した。


最近は私の方がオリヴィア様の研究室を訪問するようになり、オリヴィア様の席のようになっていた一人掛けソファーは今ではすっかり他の人に使われている。


それにこうして訪問が被ることも増えたので、もっとソファーを増やして貰えないか師匠に交渉してみようと考えているところだ。

もっともそうなったらこの研究室はますます休憩室のようになってしまうだろうけどね。


「おい、ガイウス暇なら茶でも淹れてくれ」


「だからガイウスさんもトールさんと同じお客様なんです。そういうのは私に言えばいいじゃないですか」


ガイウスさんは本当に言葉の少ない人で、下手をしたら《うん》《ううん》と言う返事だけで会話をしなければならない事も多い。

そのせいかは分からないが何故か放っておけないというか、庇いたくなるというかついつい肩入れしてしまう。


逆にトールさんは典型的俺様キャラでこれが研究員でなかったら絶対に脳みそも筋肉でできているんじゃないかと疑うレベルだ。


そしてここには今居ないが清掃職員のミックさんはとにかく影が薄く、気付くと傍に居るという事が多い。

研究所の清掃をするとなるとそのくらいでないと邪魔に思われることが多いのかも知れないと勝手に推察しているけど、まるで忍者みたいなのがちょっとカッコイイ。


それに清掃職員とは言ってもここの職員さんはみんな身元のしっかりした優秀な人ばかりなので、地位も高くかなりの高給職で希望者も多いらしいからその辺は日本とは大違いだ。


「俺に児童を虐待する趣味はない。子共はのびのび好きなことをして学ぶもんだ」


「お茶を淹れるくらい虐待とは言いません。寧ろ学びの一種です」


私は席を立ちお茶を淹れ始める。このティーセットや茶葉はオリヴィア様がなんだかんだと持ち込んできたもので、今ではそのままとても便利に活用させて貰っている。


「どうぞ」


「なんだ。随分と手慣れてるじゃねぇか」


「オリヴィア様に教えていただいてますから、これくらいは当たり前です」


「態度まで気取りだしたのか。おまえがオリヴィアの真似をする必要は無いと思うがな」


「真似じゃありません。これは礼儀作法です」


「まぁいいや。それより今日の茶菓子は城の厨房から分捕ってきたものだから旨いのは間違いないぞ。そうそう食えるものじゃないから心して味わえよ」


「本当ですか!? トールさんありがとう。なんだか今日はとっても素敵に見えます」


「なんだその今日はってのは。随分と現金だな。礼儀作法はどうした」


「あっ…」


毎日オリヴィア様が熱心に指導してくれている成果は着実に出ていると信じていたのに、簡単に化けの皮が剥がれてしまう。ホント困ったものだ。いつになったらしっかりと身についてオリヴィア様のようになれるのか。


「俺の分もあるのか?」


「ジャッジもいたのか」


「おいおい、ここは俺の研究室だぞ。おまえら何か勘違いしてないか」


「そう言えばそうだったな。まぁそんなことはどうでもいい。オランジュ、コイツにも茶を淹れてやれ」


すっかり部屋の主にでもなったかのようなトールさんの態度には少しばかり思うところもあるが、今日のところはお城の美味しいお茶菓子に免じて許してあげよう。


「勿論用意してありますよ。私が師匠を忘れる訳無いじゃないですか。それよりお茶菓子が余ったら弟やオリヴィア様にも分けてあげたいのですが良いですか?」


「おい、食う前に言うなよ。手を出しづらくなるだろう」


「それが狙いです。トールさんはいつでも手に入れられる環境にあると推察しました。だから遠慮してくれて良いですよ」


「さすがのトールもオランジュ相手じゃ形無しだな。ガイウス、俺達は遠慮無くいただくとしょう」


「…うん」


お城のお茶菓子と聞いてアデス様を思い出していた。きっとアデス様もこのお菓子を食べたことがあるのだろうと。


しかし意外なことに寂しさや空しさが湧いてくることは無く、思った以上に賑やかで楽しいお茶の時間を過ごしたのだった。



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